ユニ
さて、今の現状を説明しましょう。
僕たちは、森の中にいた。
いきなり、森の中へと入って行くエルを追いかけて、もう半日も過ぎた。
明るかった太陽も疲れ果てて、月にバトンタッチしていた。
急にエルが立ち止まった。
微かに震えているのがわかる。
「エル…?」
エルがいきなり僕を押し倒した。
それでもなお、チラチラと先程まで見ていた方を見ている。
「静かにして!バレたらどうするの!?」
ものすごく小さな声で叱られた。
「何に?」
僕も小さな声で問う。
「ユニコーンよ。ユニコーンがいるの。A級モンスターよ。バレたら死んじゃうわよ。A級ってあれよ?一流の冒険者でやっとタイマンできるモンスターよ。」
僕はユニコーンと聞いた時点で、安心していた。
僕はエルを押しのけて、ユニコーンを見る。
本当に真っ白で美しい。
エルは必死に隠れようとしていた。
僕はユニコーンに向けて、手を広げる。
ユニコーンがこちらを見る。
そういえば、ユニコーンは処女の女性しか乗せないとかいう逸話があったはずだ。
一歩、ユニコーンが僕に近づく。
僕もまた、ユニコーンに一歩近づく。
「おいで。」
僕がそう告げると、ユニコーンが僕に駆け寄る。
エルはその姿を見て、目を覆っていた。
ユニコーンは僕の腹部に顔を擦りつけてくるが、ツノが当たって以外と痛い。
僕はユニコーンの頭を撫でる。
キュルルと鳴くユニコーンが可愛い。
エルはそっと目を覆っていた手をはずした。
そして、驚愕の表情を見せる。
「エルも、大丈夫だから、こっちに来て。」
そう告げると、エルも立ち上がる。
ユニコーンはエルを見て荒ぶるが、僕が撫でて止める。
「大丈夫、大丈夫だから。彼女は敵じゃない。」
少しずつ、エルが近付いてくる。
「大丈夫なのね?近付いたら、ツノ刺されたりしない?」
「大丈夫だから。」
エルが僕の隣に立つ。
「触ってみて。」
僕が告げると、エルが涙目でフルフルと首を振っていた。
しかし、僕の目を見て、本気だと知るとそっと指を伸ばした。
指が触れた瞬間、少しばかりユニコーンが身体を動かす。
エルがビクッとして、手を引く。
「君の名前はユニにしよう。この人はエル、僕の友人だよ。」
そう告げると、ユニは嬉しそうにいななく。
「そっか、嬉しい?ユニって気に入ってくれたんだ。」
ユニが膝を折る。
僕もまた、地面に胡坐をかく。
ユニの頭が僕の太ももに乗っかる。
優しく撫でてやれば、ユニが目を閉じる。
「あはは。予期せずに仲間が増えることになったね。今日は、ここで野宿かな。」
「えっ、と。その子も連れてくの?」
「勿論、背中に乗せてもらえば速いよ?あ、そういえば、エルって処女?処女なら乗せてもらえるけど、流石に僕が頼んでも非処女は乗せてもらえないかな。」
いきなり失礼だとは思うが、確認せずに乗せようとして、ツノがズブリはイヤなので確認することにした。
エルは顔を真っ赤にして、俯く。
「…よ。」
「え?」
ボソリと呟いた声を僕の耳は捉えなかった。
「…じょよ。」
「何?」
再三言うが、ワザとではない。
「処女だって言ってんでしょ!?」
次は森の中に響いた。
「そうなんだ。そんな大声でなくても声は聞こえるのに。」
僕は、バタリと草の中に倒れこむ。
そのまま、寝ようとする。
野宿の道具は持ってきていないのだ。
「エリュクト、そこで寝るの?」
「うん。野宿の道具は持ってきてないんだ。それに、特に不便はないしね。ユニは暖かいし。」
エルは迷っているようだ。
自分だけ、テントを張るかどうか。
「エル。君は女なんだから、テントを張った方がいい。肌に傷がついてしまったら、僕は責任が取れないからね。」
僕は目を閉じたまま告げる。
「わかったわ。頑張れば二人くらいは入れるわよ?なんなら、中で寝ても…。」
「僕はいいや。それに、女性と床を一緒にするのは、夫婦でなければダメだって姉さんも母さんも言ってたからね。」
「もう。わかったわ。」
エルがテントを広げ始めるのを確認してから、僕は意識を手放した。