旅の始まり
僕は真実をウィルリアさんに伝えた。
ウィルリアさんは、それを聞いてなお、笑みを崩しはしなかった。
優しく笑っていた。
ちなみに、僕は結局、女性の名を知らなかったために、もう一度お邪魔し、旅に出る日にちと名前を聞きに行くハメになった。
名前は、エル・ウィンディというらしい。
そういえば、エルさんはウィルリアさんに謝りに行ったらしい。
その時も笑みを崩さなかったとエルさんは笑っていた。
そんなこんなで、7日間が過ぎた。
ついに、旅に出る日だ。
僕は、ウィルリアさんやヴィルさんに挨拶をしていた。
「長らく、お世話になりました。」
街の外でエルが待っているため、僕は歩き始めた。
「エリュクト兄ちゃん。お母さん治してくれてありがと。また、帰って来てね。」
ユーリアの笑顔を僕は初めて見た。
結局、僕はユーリアと話すコトはなかったのだ。
ウィルリアさんを苦しめたとユーリアは思っていたはずだ。
「エリュクト。ユーリアもこう言ってる。だからよ。またウチに来い。歓迎してやる。」
多分、ヴィルさんが言って聞かせたのだろう。
全く、お節介の好きな人だ。
「はい。また、旅が終わった頃に。その頃には、ユーリアが結婚してここにはいないかもしれませんが。」
「ハッ。ユーリアは嫁になんかやらねぇよ。」
僕は手を振って、ヒューマッハ家を後にした。
「随分待たされたねぇ。エリュクト。」
街の門にもたれかかるエルが僕に声をかける。
「すいません。ユーリアにお礼を言われて嬉しくて。」
「そうかいそうかい。ユーリアがね。」
僕が歩き出せば、エルもついてきた。
「エル。僕は、王都を目指そうと思います。病床に臥す王が、亡くなる前に彼と会わねばなりません。」
「目的地はどこだって構わないさ。私の目的は精霊と話すコトだからねぇ。」
エルはニコリと笑う。
「ならば、歩みを進めましょう。それで、ですけど。」
僕は言葉を止める。
「王都には、どうやって行けばいいのでしょうか?地図の見方がわかりません。」
「あははは…。アンタはバカだねぇ。カッコつけておいて…。まぁ、着いてきなさいな。」