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旅は道連れ

「で、今日は何すりゃいいんだ?」


「はい、この街を案内していただきたいのです。少し、お話する必要のある方がいるのです。」


呪術を我が身に受けるコトで、僕は呪術をかけた人を辿るコトが出来るようになった。


「おぅ、わかった。で、どこに案内すりゃいいんだ?」


「少し、待っていただけますか?」


僕は僕の中に魔力を響かせる。


『力よ響け、名を辿れ。エリュクトの名において命ず、我に仇名す者の元へ、我を導け。』


僕の声が低く響いた。


「わかりました。こっちです。」


しかし、思ったよりも距離は近いようだ。

僕は、スタスタと歩き始める。


「案内ってのは?」

「思ったよりも、距離が近いので、何とかなりそうです。ついて来ていただけますか?」

「あぁ、構わないが。」


ヴィルが二歩程後ろをついてくる。

30秒程で、目的地についた。


「ここ、どなたの家かご存知ですか?」


僕は目の前の家を指差してヴィルに聞く。


「え、あぁ。ここは、俺の幼馴染の家だな。ウィルリアとも仲良くしていたはずだ。最近はめっきり会ってないけどな。」


「そうですか。では、少しここで待っていてもらえますか?」


ヴィルの顔が疑問でいっぱいになる。


「貴方がいると、会話を壊しかねません。僕一人でなければならないんです。」


僕はそう告げて、家の敷地へと歩みを進める。

ドアを幾度か叩けば、綺麗な女性が姿を見せた。


「どうかしましたか?ここには、あまり、貴方のような若い方は来ないのですが。」


「少し、話があるんです。」


女性は敷地外に立つ、ヴィルの姿を目に止めてから、僕を見る。


「あの人の紹介かしら。」


「わかっていますよね、本当は。貴方程の術者が僕の魔法に気付かない訳がない。」


「やっぱり、貴方だったのね。いいわ、どうぞ上がって下さいな。」


女性は、中へと入っていく。

僕も女性の後を追った。

中々、広い家のようだ。


「して、何故君だけで話などしようとしているの?呪術を解いて欲しいのであれば、本人か夫が来るべきでしょ?」


「そこには気付いていなかったんですね…。ウィルリアさんにかけられていた呪術はもうなくなってるよ。」


やっとのことで、部屋へと辿り着く。


「そんな訳はない。私は今だ術が消えていないのを、感知しているわ。」


女性が、手元の小さなベルを鳴らす。

すぐに使用人らしき人物が顔を出す。

使用人は女性が「茶を」と呟いたのを聞き、立ち去った。


「僕の胸に触れていただけますか?そうすればわかるはずです。」


女性は、僕の胸に手を触れる。

心臓の音に隠れる魔力炉の脈動、それが自らの魔力によって乱れているのを感じて、女性は手をはなす。


「そういう、こと。解呪すればいいのかしら?」


「いいえ、解呪はできます。ただ、貴方の本音を聞きたい。それと、もうウィルリアさんに呪術をかけないという誓いをしていただきたいのです。」


使用人が紅茶とお茶菓子を僕と女性の前に置き、一礼して去っていった。


「本音、ね。どうしてかしら。貴方には関係のないことでしょう?」


「精霊が、泣いているのです。貴方を助けて欲しいと今も。」


この街に入った時から、感じていた。

精霊の鳴き声、それも悲しみで泣いた鳴き声。


「精霊?貴方、精霊が見えるの?」


「えぇ。貴方は精霊に愛されている。だからこそ、貴方を悪者にしたくないのです。これ以上、呪術を使わないで下さい。精霊が死んでしまいます。」


女性は、外を見つめた。


「ねぇ、貴方には世界がどう見えるの?貴方の見る世界はさぞ綺麗でしょうね。」


僕は紅茶を口に含む。


「そうですね。凄く、綺麗に見えます。人とは、綺麗なものですね。」


女性もまた、紅茶を口に含んだ。


「私には、白黒に見える。なんででしょうね。あの時から、色は消えてしまった。」


「あの時、とはヴィルさんが結婚した時ですか?」


「そうよ。私はヴィルを愛していたの。ヴィルは私の弟弟子よ。共に同じ師から学んだのだけど。」


「一つだけ、言わせてもらいましょう。貴方の景色から色がなくなったのではない。貴方は景色に色をつけるのを拒んだのです。それは、精霊を否定するのも同じです。」


僕は立ち上がる。


「ですから、もう一度、世界を見て下さい。旅をするといいでしょう。そうすれば、貴方ならわかるはずだ。自分の考えがどれだけちっぽけだったのか、ね。」


そして僕はその場を後にしようとした。


「ならば、連れて行ってはくれませんか?貴方も、旅をするのでしょう?」


「理由を聞いてもいいですか?」


「精霊は、心の綺麗なものにしか見えず、語るには愛されねばならぬと言うわ。見え、語れる貴方は、精霊に認められているということでしょ?なら、貴方は信用できる。」


「貴方は、一人でも旅を出来るはずです。もう一度聞きます。何故ですか?」


女性は少し考える素振りを見せる。


「私も精霊と語りたい。その術を知りたいの。」


女性のキラキラとした瞳に一つ、息を吐いた。


「わかりました。構いません。旅にでる日はおって知らせます。では、また後日。」


屋敷の外に出ると、ヴィルが駆け寄って来た。


「で、どうだったんだ?」


「話は終わりました。帰りましょうか。」

そして、僕たちは屋敷を後にした。

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