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第12話『崩壊する記述と、第三の仮説』

本日は連投ですので、ご注意ください。

 翌日の放課後。

 僕たちは図書室に集まる前に、学園内の購買部や、街の高級文具店に立ち寄っていた。

 昨晩、黒い獣が落としていった「歪んだ金のペン先」の出所を調べるためだ。


 結果は、予想以上に特定が容易だった。


「……間違いない。このペン先は万年筆の『スターライト・ゴールド』のもの……生徒会に支給される特注品だ」


 図書室のカウンターで、僕は拾ったペン先を見つめて呟いた。

 付着していたインクからも予想していたが、生徒会のものであると確信できた。


「へぇ、すげぇな生徒会! 賢者は杖を選ばずって言うけどよ、実際はやっぱ高いもん使ってんだな」


 ライアンが感心したように唸る。

 これで容疑者は判明した。だが、まだ個人名までは絞りきれない。

 僕たちは視線を、もう一つの証拠品――『解読不能の黒い革表紙の本』へと移した。


 今は、ロジに本の解読をお願いしており、リナさんにもロジの手伝いをしてもらっている。


「リナさん、ロジ、この本の解読の進捗はどうかな?」


『――文字解析終了。文字の一つ一つは歪な古代ルーン文字のようでしたが、公用言語の文字に単純変換可能でしたので、頻出文字等により解読は容易でした。しかしマスター、緊急事態です』


 パピエが、開かれた本の上で静止し、ロジが冷徹な声を響かせた。

 彼女の翅が、かつてないほど激しく明滅する。


『リナさんの「ロマンス説」は棄却されました。……これは、「学園破壊工作の指令書」です』


「破壊工作……!?」


『はい。記述された文章を、予測される学園内の座標に当てはめたところ、学園内の魔力供給路の急所と一致しました。犯人の目的は、学園内の施設を機能不全にし、異次元の怪物を招き入れることです』


 パピエが小さく羽ばたくと、青白く光る鱗粉が舞い散った。

 それは、彼女が普段自身の翅に顔文字を浮かべるのと同様の理屈で、空中で緻密な構造を組み上げ、学園の立体地図を形作っていく。

 そこには、時計塔、中庭、講堂など、学園のシンボルが爆破ポイントとして強い光で示されていた。


「マジかよ! テロリストだったのか!」 「嘘……そんなの怖いよ!」


 ライアンとリナさんが色めき立つ。僕も動揺を隠せなかった。


 生徒会の人間がテロリスト?

 まさか、内部からのクーデターなのか?

 いや、逆に生徒会の人が事件に巻き込まれているという可能性もある。

 もし本当なら、今すぐに先生に通報しなければならない。


「……まずは確認だ。一番近くのポイントに行ってみよう」


 ***


 僕たちは地図が示す破壊ポイント――時計塔の最上階へと走った。

 ライアンが扉を蹴破り、僕たちが雪崩れ込む。


「そこまでだ悪党! ……あ?」


 しかし、そこには誰もいなかった。

 爆弾も、魔法陣も、怪しい儀式の跡もない。

 あるのは、夕焼けに染まる街を一望できる、美しい景色だけだった。


「……何もないぞ?」


 ライアンが拍子抜けした声を出す。

 ロジは混乱した声を上げる。


『ありえません! 記述には確かに「ここで世界は赤く染まり、終わりの鐘が鳴る」と……!』


「……赤く染まり?」


 僕は手すりに寄りかかり、夕焼けを見た。

 そして、ちょうどその時、ある音が鳴り響いた。


「……そうか」


 僕はハッとした。

 これは爆破予告じゃない…。


「ロジ、破壊ポイント――中庭や講堂には、なんて記述されていた?」


『中庭には「緑の牢獄は解き放たれ、嘆きの泉が大地を溺れさせる」、講堂には「血塗られた断頭台への階段を登る。深紅の帳が下りる時、偽りの王は審判の光に焼かれる」、と記載されています』


「……なるほどね、そういうことか」


 推理の壁が、一つ崩れた。

 侵略計画という前提が崩れたことで、僕の頭の中で別の可能性が急速に浮上し始める。


 ***


 図書室はもう閉まる時間になるため、自分の教室に戻った僕は、もう一度冷静な目で黒い革表紙の本と向き合った。

 侵略計画でもない。ラブレターでもない。

 では、この熱量の正体は何だ?


 遅い時間になってきたため、ライアンとリナさんには先に帰宅してもらった。

 この場には僕とパピエ、ロジしかいない。


『マスター、やはりこれは学園破壊工作の指令書ではないですか?』


 パピエが、その小さな足を使って本の表紙を指差す。

 そこには、古代ルーン文字風のフォントで著者の名前が刻まれていた。


 文字解析をしてくれたロジによると、『 A . I . T . S . E . L . E . C 』となっているそうだ。


『著者の名はアイツ・エレク。古代語で「雷」を意味する語感です。それに、この計画の記述……「12の刻、円卓にて魔王たちの饗宴」「15の刻、東の砦を視察」。これほど綿密に破壊工作を練るとは、恐ろしい思想の持ち主に違いありません』


「大丈夫だよ、さっきの爆破予告に思えた記述もただの情景の描写で、その計画もただのスケジュールで……。だから侵略計画書じゃない。もっと切実で、少し恥ずかしい……夢の残骸だ」


『夢、ですか?』


「そうだよ……。うーん、あと少しなんだけど、決定的な決め手が足りない……」


 ふと外を見ると、夏とはいえ既に日は落ち、窓の外は真っ暗闇に包まれていた。

 図書室の窓ガラスが鏡のように、室内の光と、僕が持っている「本」の表紙をくっきりと映し出している。


「……窓、反射。そうか!」


『マスター、何かわかりましたか?』


「ああ。……多分まだいるはずだ。今すぐ行こう」


『どちらへ?』


「生徒会室だ。……作者さんに、忘れ物を届けに行かなくちゃ」


 ロジはまだ『テロリストとの接触は推奨しません!』と警告しているが、僕はもう迷わなかった。

 ここから先は、オカルトでもロマンスでもない。


 僕は『解読不能の黒い革表紙の本』を鞄に入れ、夕暮れの廊下を歩き出した。

 その足取りは、探偵のような鋭さと、同じ本好きとしての優しさに満ちていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もし面白いと感じていただけましたら、【評価】や【ブックマーク】をお願いします。


ストックが溜まったので、10分後に続きを投稿いたします。

引き続き、図書室でお待ちしております。

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