1話 いちごタルトに魔法をかけて
シオンside
庭にある薔薇園のガゼボには、桃色の花柄のティーカップにうさぎのぬいぐるみがいつも置かれている。
お嬢様のお気に入りだからだ。
ある程度の用意が出来ると、お嬢様を部屋までお迎えに行く。
これがチェルシー家のお嬢様の午後のスケジュールだ。
私はチェルシー家の一人娘の専属メイドとして雇われたシオン、まだ雇われて2年程の新米。
雇われてから半年が経った時に、旦那様が何度も出張に出てしまい私とお嬢様の2人で過ごすことが多くなった。だからか信頼も仲もそれほどの物だと自負している。
しかし、お嬢様が泣く頻度は旦那様がいない時間に比例した。
部屋の前の扉に耳を澄ませると、うさぎのようなスンスンと、泣く時特有の鼻の音が聞こえた。もっと派手に泣いても構わないのに。
今日は眠れないか、悪夢か、転んでしまったか、どのような原因だろうか。
ノックをし、扉を開けるとお嬢様が走って駆け寄ってきた。長いスカートとエプロンにシワが出来るほど強く握ったその手は、酷く小さかった。
「あらあら、どうされましたか?」
『ゆめみたの……っ、こわいゆめ、』
そう言ってわんわん泣くお嬢様と目線を合わせ、ハンカチで涙を拭うとまた涙が噴水のように溢れてきた。これは中々泣き止まなそうだ。
「それは大変でしたねぇ。もうシオンがいるから泣かないでください、おめめが溶けてしまいますよ。」
『ぐすっ…』
「お庭におやつの準備がございますので、参りましょうか。本日はいちごタルトを御用意致しましたよ。」
いちごタルトと言うと先程までが嘘のように少し目を輝かせた。絵本の1枚を捲ったかのように表情が変わるお嬢様を見て、安心と同時に少しばかりの笑いが混ざる。
私が立つと、お嬢様は腕を上にあげて抱っこを強請ってきた。もうそんな癖はない方がいいのにと思いつつも、まだ幼いからと言い聞かせ甘やかしてしまう。肩に顔を埋めこみ、うねるような声を上げた。何だか威嚇しているようで、それもまたかわいい。
『しゃるがね、おにわさんぽしててね、それでね、そしたらね』
はいと相槌を打っていると、お嬢様は少しずつゆっくりと話を進めていった。どうやら今日見た“怖い夢”の話だろう。震えていても、鈴のような明るく耳に馴染む、心地の良い声。
『みんな、でてけっていわれたの。しゃるね、ここいていい?』
「もちろんです。私はシャルロットお嬢様のメイドですから。」
その答えに満足したのか、お嬢様はえへへと笑った。涙でくしゃっとした目元に、大きな瞳がこちらを垣間見ていた。
その愛くるしさに私はぎゅーっと小さな身体を力いっぱい抱きしめた。
庭のガゼボにお嬢様を座らせ、残りの準備を行う。
アールグレイにはミルクと砂糖をたっぷり入れ、スプーンでかき混ぜる。これもお嬢様のお気に入りだ。
いちごタルトを目の前に置くと、お嬢様はキラキラとした目でそれをじぃーっと見つめた。いちごの輝きがお嬢様には宝石のように見えるのだろう。私からしたらいちごタルトなんかより、その笑顔が宝石以上のものと思えた。
「それでは、いちごタルトに魔法をかけます」
私はいちごタルトの上から粉砂糖を振ると、お嬢様はきゃっきゃっと喜んだ。
いつの日にかお嬢様がご機嫌斜めの時に、咄嗟にこれをやったら驚く程に大喜びされた。それが私の中ですごく嬉しかったのか、3時のおやつがタルトの時は必ずこれをやってしまう。
「さぁ、お召し上がりくださいな。」
私はこの3時の時間が、大好きだ。
初めての投稿です。優しい目で見て頂けると幸いです。読んでいただき、ありがとうございました。




