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-【事実彼女】- 隣に越してきた1番人気の新入生はただの“後輩”なのに、なぜか俺の『彼女』だと勘違いされている。  作者: ななよ廻る
第1章

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第3話 どこでも後輩

「あれ? 今日から新人さんが入るって、言ってませんでしたっけ?」


 店内のカウンターで花束を作っていた店長に訊いてみたら、はて? とかわいらしく小首を傾げてそんなことを言われてしまった。


 もう30歳半ばすぎたというのに、その仕草はどうなのか。見た目はまだ20代で通じるが、実年齢を知っているとなんとも言えない気持ちにさせられる。


「聞いてませんでしたね」

「そうでしたか」


 こくんっと、店長の首が縦に揺れる。


「では、今日から雨下さんに入っていただくので、先輩として新人教育をお願いします」

「それは、はい」

「がんば!」


 仕事なのでやるが、なんだか投げられた感が否めない。

 一々新人が入るとか、事前に伝える必要はないかもしれないが、相手が雨下さんだっただけに、どうにも釈然としないものがあった。


「これで大丈夫ですか?」


 憮然としつつ、店長と話していると奥から雨下さんが出てきた。

 スカートからパンツに履き替えて、真新しいエプロンを着ている。


「なんか、大人っぽいな」

「そうかな?」


 自分の格好を確かめるように、雨下さんが顔を俯かせる。その動きに合わせて揺れる黒い尻尾に目が引きつけられる。

 髪色も含めて、全体的に黒と白でまとまっているからか、実際の年齢よりも1つか2つ上に見えた。


「それでも高校生感は抜けないけど」

「残念。女子大生くらいに見られたかったな」

「女子大生は大人っぽいよなぁ」

「ぽいね」


 共感する大人っぽさに2人で頷いていたら、「大人な店長さんからお願いがありますよー」と手を振ってアピールしてきた。


「大人……」

「ん? なにか言いたげですね? 口にしても構いませんけど、その場合、昇給は諦めてくださないね?」

「大人だ」


 雨下さんがぼそっと感想を漏らす。

 それ、頭に『汚い』とかつくやつではなかろうか。


「これから配達に行ってくるので、その間、店番をお願いします。雫さんは初日ですので、どんな仕事があるか華さんに付いて、少しでも慣れてください」

「はい」


 と、よい返事をしたあと、雨下さんが眉を潜めた。


「華さん?」

「華さん」


 店長がこっちを見る。

 追いかけるように、雨下さんが顔を向けてくる。


「店長?」

「それでは、すぐに戻るのでその間よろしくお願いします」


 最後の最後で余計な一言を残して、店長はお店を出ていってしまう。

 雨下さんに名前を教えてなかったのに。


 アパートだけでなく、学校、アルバイト先まで一緒だったんだ。いつまでも隠し通せるものじゃないが、こんな知られ方は想定していなかった。


 じーっと頬に雨下さんの好奇心が刺さる。


「華さん……里波りなみ、華さん?」

「なに?」


 男らしくない名前。

 嫌いじゃないが、かといって、からかわれそうだなと思うと率先して名乗りたくもなかった。


 少し頬が熱くなるのを感じつつ、渋い顔を作って横目に雨下さんを見ると、にこっと笑みを返してきた。


「じゃあ、華先輩だね」

「なら、雫後輩だな」


 意趣返しのつもりで呼び返したのだけど、雨下さんは拒まなかった。むしろ、「いいね、それ」と肯定されてしまう。


「華先輩は、先輩って感じだし、わたしは後輩って感じだから……うん、しっくりくる」

「わからんでもないけど」


 アパート、高校、アルバイト。

 どこでも俺が先にいて、雨下さんは後から来た。


 認識が『後輩』になっていて、そう呼ぶことに違和感がない。

 我ながら単純だった。


「でも、よかった。華先輩がいて」

「? なんで?」


 バイト先に俺がいて、よかったと思える要素はないはずだ。


「初めてのアルバイトだったから、面接からずっと緊張してたんだ。仕事とか、人付き合いとか、いろいろ不安だったけど、華先輩がいるなら安心だ」

「……足腰立たなくなるまで扱いてやるから覚悟しろよ」


 頬を緩めたその顔が、本心から安堵しているように見えて嬉しさが込み上げてくる。


 頼られて嬉しいとか、子どもかよ。

 わかりやすい自分の感情が恥ずかしくなって、つい悪態をいたら、「あ、なんかそれえっちっぽい」と鳩尾にめり込むようなカウンターを食らってうぐっと呻くことになった。


 ◆◆◆


 そうして、生活圏の至るところで雫後輩と顔を合わせることが増えた。


 これまでアパートではすれ違うときに軽く挨拶する程度だったが、図書委員会、花屋のバイトと交流するようになって、顔を合わせれば世間話をするくらいの仲にはなる。


 意外な交友の広がり方もあるもんだ。


 そんなことをなんとはなしに思いながら、高校1年のときとはちょっと違う、でもそう変わらない高校生活を送っていた――はずだった。



「――……雨下さんと付き合ってるってほんとか?」



 登校した途端、クラスメイトの友人から謂れのない色恋について問い詰められているのはどうしてだろうか。


 季節の変わり目だからかなー。


 立夏を超えて、暦の上では夏になった移り変わりの季節。

 春も終わったというのに、友人の頭はいつまで陽気にやられているのやら。



  ◆第1章_fin◆

  __To be continued.


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