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-【事実彼女】- 隣に越してきた1番人気の新入生はただの“後輩”なのに、なぜか俺の『彼女』だと勘違いされている。  作者: ななよ廻る
第6章

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第1話 クラスの女子は恋バナが好き

 問題は次々にやってくる。

 人生とはハードル走のようなものと知らない誰かが例えた。それはきっと間違いではなく、こうして笑顔で迫ってくるクラスメイトの女子を目の前にすると、なるほどと納得してしまう。また問題だ、と。


 また、他の誰かは高いハードルはくぐればいいんだよと言ったが、この場合、どうくぐるのが正解なんだろうか。彼女のスカートの下とかだったら、新たな問題に発展してしまう。自分から問題を作る気はなかった。


「それで、聞かせてくれるかな? しずくちゃんとの馴れ初め」


 聞きたいなーと、自然な動作で空いていた前の椅子に跨って、名瀬なせは背もたれを抱く。購買に昼飯を買いに行った友人の座る席がなくなった。が、どうでもいいだろう。


「ねー、教えてよはなちゃーん」

「はなちゃんって言うな」


 指を伸ばしてちょいちょいと腕を突いてくる名瀬が鬱陶うっとうしい。

 女子だろうが男子だろうが気安く絡む、人懐っこいコミュニケーション強者。薄くおでこが見える前髪と長い襟足がいまどきって感じだ。


「あ、ごめん。名前だめだったっけ? じゃー、りなみくんだね!」

「それもどうかと思うけど」


 くん呼びとか、背中がムズムズする。


「だめだった?」

「いいけど」

「やった!」


 パチンッと手を合わせて喜ぶ。

 所作の1つ1つがかわいい。狙ってやってるんだろうなーとは思うが、嫌味に感じないのが凄い。女子の友達も多いしな、この子。


「でも、華って名前、私は好きだよ?」

「……俺も嫌いではないから」

「だよね!」


 おなじー、と、にぱっとキラキラした笑顔に毒気が抜かれる。

 雫後輩との馴れ初めという話題で警戒していたのに、あっさり態度を軟化させられてしまった。


 でも、あんま得意じゃないんだよなー、名瀬。

 得意じゃないは苦手、苦手は嫌いだよと中学の同級生に言われたのを思い出す。女の子用語って難しい。でも、本当に嫌っているわけじゃない。


 でもそのパーソナルスペースゼロな距離の詰め方にどう反応していいか困ってしまう。2年に上がって初めて同じクラスになったが、距離感で言えば1年のときから付き合いのある女子より近い。

 ……まぁ、それは俺だけじゃないけど。


 そろっと教室を窺えば、残っている男子連中がこちらをチラチラ盗み見ている。落ち着かなそうで、時折その視線に妬み嫉みを感じるのは気のせいではないはずだ。

 たかだか1ヶ月ちょっとでよくまぁここまで。男子にも気軽に接してくれる女子って人気だよな、ほんと。


「で、どうなの?」

「いや、馴れ初めもなにもそもそも付き合ってないから」

「またまた~」


 冗談言っちゃって、とおばちゃんのように手を招く。


「本当だから」

「恥ずかしがって、かわいいな~」


 聞き耳がなかった。

 いくら言い訳……ではなく、事実を伝えたところで、名瀬にとってはすべて照れ隠しになってしまうんだろう。人って自分の信じたいことしか信じないというが、こういう最初から結論が決まってる会話はどうすればいいのか。もう投げ出したい。


「……じゃあ、出会ったときの話を」

「うんうん!」


 目の椎茸しいたけを爛々とさせて、名瀬は両手を肩の前で組む。待ってましたとばかりだ。

 しょうがないので、雫後輩との馴れ初めを語る。


 俺からすると仲よくなったキッカケで、名瀬からすると交際するまでの流れで。

 噛み合ってないのはわかっている。が、いくら訂正したところで梨のつぶて。恋バナをするときの女子ほど人の話を聞かないので、さっさと満足させるに限る。

 ……いや、恋バナじゃないんだがな?


 心の中で否定しつつ、雫後輩との出会いを簡単に語る。

 アパートの隣室に引っ越してきて、困っていたところを助けた。そのあと、図書委員会で一緒になって、バイトまで一緒だったことを。


 小説のあらすじを話すような簡潔さだったが、名瀬にとっては十分満足できる内容だったらしい。頬に両手を添えて、はわわして恍惚の表情だ。


「どこに行っても雫ちゃんと一緒になるなんて……はぁぁんっ。それはもう運命よ~、あ~、いいな~、すっごく素敵な恋ぃ~」

「恋じゃないって」

「はわ~」


 聞く耳どころか、もはや意識が飛んでる。

 逆上のぼせたように頬が赤く、その顔は少々色っぽい。あんまり教室で見せていい表情じゃなかった。こっちを気にしていた男連中がガン見しているので、早いとこ正気に戻さねば。


「名瀬」

「あ~、私もそんな恋したいな~」

「それは好きにしてって話だけど」

「好きっ!? だめよりなみくん! そんな浮気だなんて! でもでも、悪役令嬢のヒロインっていうのも捨てがたいなー」

「捨てろ」


 なんの話をしてるんだ。


「全然帰ってこない」

「華先輩、浮気ってなに?」

「そんなの俺が……が?」


 なにやら名瀬以外の女子の声が。

 それがどうにも訊いたことがあるというか、雫後輩っぽいんだけど、ここは2年生の教室だ。昼休みとはいえ、1年生の雫後輩がいるわけない。


 なので、いまのは聞き間違え。もしくは幻聴。

 そうやって自分に暗示をかけるように納得させて、別人がいることを祈って振り返ったが、


「で、浮気ってなに?」


 むすっとジト目で睨んでくる雫後輩がいて、「……なんだろうね?」と俺は返すしかなかった。

 人に聞かれたくない話を、もっとも聞かれたくなかった人に聞かれた、そんな気分だった。


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