虹の向こうで、ひとり
なんて愉快なんだろう。こんなに楽しいことは、他にないと思う。だからこそ、この体験を家族にも味わってほしい。
「お父さん、さっき虹の橋を渡ったんだよ!だから香乃も一緒に来て、渡ってみようよ」 僕は高校3年生の娘にそう声をかけた。
「は?そんなのあるわけないじゃん。私は受験で忙しいの!」 娘はスマホを見ながら、冷たく言い放つ。
「お父さんと遊ぼうよ〜」 僕は懲りずに誘う。
「やめてよ!子どもじゃないんだから!」 妻も娘の味方になって、ピシャリ。
「えー、虹に渡れるなんて、めったにないチャンスだよ?」 僕はなんとか説得を試みる。
「虹なんか渡れるわけないじゃん!」 娘はショート動画をスクロールしながら、つぶやく。
「インスタに上げたら、“いいね”いっぱいもらえるかもよ?」 僕は最後の手段で誘惑する。
「うーん……」
「香乃!あなたは受験勉強でしょ?お父さんの誘惑に乗っちゃダメ!」 妻はついに鬼と化した。
「えー、じゃあ、お父さん一人で行っちゃうよ?いいの?写真とか撮ってこないからね?まぁ、そもそもお父さんスマホ持ってないし」 僕は言う。
「いいよー」 二人揃って、あっさり言われた。
僕は一人で虹を渡ることにした。
──数時間前のこと。 僕が空を見上げて虹を眺めていたら、白いワンピースの女性が現れて言った。 「私は女神です。虹に乗ることができるんですけど、一緒に乗りません?」 「えっ、あぁ、いいっすよー」 軽い気持ちで答えたら、本当に乗れた。虹の上はふわふわしていて、まるで夢の中みたいだった。
「もしよければ、ご家族も一緒に乗りませんか?」 女神が微笑みながら言ったので、僕は「いいっすよー」と答えて、一度家に帰って家族を誘ってみた。
でも、願いは叶わなかった。
──虹の上から見下ろす街は、どこか懐かしくて、少しだけ寂しかった。 それでも僕は、風に吹かれながら思った。
「まぁ、家族が元気なら、それでいいか」
そして、僕は旅立った。




