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第八章 ドイツ王国侵攻

第八章 ドイツ王国侵攻


 シュヴァーベン公国はドイツ王国の南西部に位置していて、ロタリンギア、ブルゴーニュに接している。現在の大公はヘルマン1世で、ユーグがローマ郊外で討ったドイツ王コンラート1世の従兄弟になる、その事からヘルマン1世はドイツ王の地位を巡って他の公国と紛争状態にあり、西フランクからの侵攻を全く予想していなかった。

 魔法歴928年、侵攻したユーグの軍は、大軍の前にほぼ無抵抗の各地の都市を落として、大公が首都として建築中だったシュトゥットガルトの街に迫る。

 ヘルマン1世は公国内からかき集めた5000の兵で抵抗を試みるが、従兄弟であるフランケン公エーバーハルトからも対立していた他の公国からも援軍は無く、降伏か死かの状況に追い詰められていたが、この時降伏を躊躇したのがヘルマンの運命を決定した。

 頭上から落ちてきた巨大な炎の彗星によって、城壁や館諸共消滅してしまったのだった。

 この事に恐怖した、公国内の各都市は一斉に降伏、ユーグに臣従を誓い、ユーグはシュヴァーベン大公の称号も手にする事になった。

 そしてこの戦いの結果を受けて、ユーグは全軍に指示を出して、残りのドイツ王国の各公国に向けて一斉に侵攻する事になる。

 この時、ノルマンディとブルターニュを防衛する任務を与えられたギョームは、兵を率いて

父と共に出陣をする、ただしこの出陣は偽装で、これはこの頃イングランドの大部分を手中に納めたイングランド王アゼルスタンがその妹エドギフの子、甥のルイ4世を軟禁から解放する為に間違いなく侵攻して来る事への抑えだった。大役を任せれたギョームはユーグから拝領した宝剣、伝説の聖剣にあやかって『ジョワユーズ』と命名した剣を手に必勝を誓った。


 残りの三公国の内、最初に降伏をしたのは、ジョルト大公に侵攻されたバイエルン公国だ、バイエルン大公アルヌルフはこれ以前からドイツ王国に侵攻するジョルトに領地の通過権を与えていた、通過を許可する代わりに自領の略奪を防いでいたのだが、この度もいつもと同じ様に、ジョルトはバイエルン領を通り過ぎて、他の公国に向かうと思い込んでいた。

 ところが、今回はジョルトはユーグの同盟国として侵攻してきている。油断していた大公アルヌルフは防戦準備をする暇も無く、首都レーゲンスブルクを落とされて、大公と長子のエーバーハルトは斬首されて首を城の壁に晒された。次子アルヌルフ2世はジョルトに降伏をして、ジョルとは侵攻前の取り決め通りにバイエルン大公の称号を手にする事となった。

 

 ブルゴーニュ公ユーグ黒公の侵攻を受けたフランケン公国エーバーハルト公は殺された従兄弟フランケン公エーバーハルトの敵とばかりに、ブルゴーニュ公に7500の兵で徹底抗戦をする。だが、前時代的な戦闘方法しか知らないエーバーハルトはユーグ黒公の敵では無く、強力な魔法攻撃の前に、首都フランクフルトの城壁を壊され街に侵攻されて、あえなく討ち死にする事になる。ユーグ黒公は、フランケン大公となり、かって西フランク王国の国王だった兄ラウルより遥に多い領地を手にした事になる。ちなみに黒公の黒とは、全身黒の具足を好み、愛剣の長剣ツヴァイヘンダーもわざわざ黒錆で黒に染めている事から来ている通称だ。このフランクフルト攻略戦での無慈悲な戦い方から、これ以降は『ダークナイト(暗黒騎士)』と呼ばれる事になり、本人はその二つ名を大層気に入ったと言う。


 そして最後に残った、ザクセン公国はザクセン人の国であり、フランク人から王位を簒奪したリウドルフィング家のハインリヒが、ザクセン人初のドイツ王になった事からも、一番の激戦地となる事が事前に予想されていた。

 なので、侵攻もロタリンギア公とノルマンディ公の二人の共同作戦と言う事になっている。


 この頃、ユーグの予想通り、イングランド王アゼルスタンが500艘の軍船に7000の兵を自ら率いて、カレー海峡を横断、セーヌ川の河口があるノルマンディに上陸をしようとしていた。

これはアゼルスタンの動員できるほぼ全ての兵力と言う事になる。

「海岸線に敵の姿は無いか、投石機の準備も無いとは随分と甘い守りの様だな、ならば全艦密集体系で個々に上陸、魔術師部隊と弩弓部隊を全面に展開せよ」

とアゼルスタンは余裕で、艦隊に指示をする。

 この艦隊は祖父アルフレッド大王が建造して、父、エドワード長兄王が、海の覇者と言われたヴァイキングを打ち破ったイングランドの虎の子の艦隊だ。


 城塞都市カーンに潜んでいた、ブルターニュ公ギョームは、自身の兵5000を率いて、海岸線の後方に潜んでいた、敵が上陸作戦を始めたので、 ギョームは海岸の高台に立ち、敵の軍船の旗を見つめている。

 この時ギョームには魔法の師であるユーグより直伝された、史上最強の風魔法の用意が合った。

通常の風魔法『ヴェンティ・ランス』を湖や川に向かって放てば、ある程度なら水を切る事が可能だ。

『ウルトゥルヌス・スピリトス』(風神の息吹)と名付けられたこの魔法は、古代にモーセと言う族長が紅海を割ったと言う逸話の魔法そのものだった。

「(あれか)」

 ギョームは一番大きな軍船に掲げられたウェセックスのワイバーン旗を発見した、この船がアゼルスタンの旗艦に間違い無いだろう、ギョームは宝剣『ジョワユーズ』を高く頭上に掲げると、自分の全ての魔法力を剣に集中させて、一気に振り下ろした、剣から発生した巨大な竜巻は、海を二つに割りながら、上陸戦に備えて密集隊形を取っていたイングランド王の船団に迫り、中心に居たアゼルスタンの旗艦を含む数百艘の軍船を兵諸共、海の藻屑とした。

「(とんでも無い魔法だ、私でこの威力なのだから、大公殿下ならどれ程の物になるのか?)」

と、片膝をついて、自分が放った魔法の威力に驚愕をしている。

「ブルターニュ公」

 と部下に声をかけられて、少しふらつきながらも立ち上がり、全軍を海岸戦に移動させて敵の上陸に備える……が、船団の半数近くと、王の旗艦を失ったイングランド軍は、反転して沖合に引き上げていった。それを見た兵達が大歓声をあげている。魔法で敵に大打撃を与えて、戦わずに勝利する。

これがユーグから伝授された戦法だ。

「遺体や生存者が流れ着くやもしれん、皆すまんがしばらく海岸線の警備を頼んだぞ」

と副官に声をかけて、父の作った街カーンに戻ると間借りしている父の館のゲストルームで、ユーグ大公宛に直筆で報告書を認めて、伝令の兵に手渡した。

「(ここ数日、緊張してあまり眠れ無かったから、少しだけのんびとしよう、それが済んだら、ドイツ王国への援軍要請の為に兵の準備をしないと……)」

とそう思いながら、ベッドに倒れ込む様に眠りに着いた、体内のエーテルがほぼ空になっていたからだ。

  

 しばらく眠っていると警護の兵に起こされた、

「ブルターニュ公、海岸にアゼルスタン王らしき人物が流れ着いたそうです、今治癒魔術師が治療をしているそうですが、いかがいたしますか?」

「まさか本当なのか?、すぐに行く」

 流れ着いた生存者の臨時の収容施設にになっているサン・ピエール魔法大教会に入り、案内された部屋に入ると、悲惨な状況の男性がベッドに寝かされていて、治癒魔術師が魔法をかけて、錬金術師が薬草のエキスを浸した布を体に巻いている。

 男の右腕、右脚は無くなっており、右目も失明しているが意識はある様だ。治癒魔法はある程度の傷を治せるが、身体の欠損した部分は治す事はできない。

「(これは酷い状態だな)」

とギョームは思った。

「貴殿は、アゼルスタン王と名乗っている様だが誠か?」

ギョームがそう問いかけると、男は頷いた、

「何か身分を証明できる物は?」

男は左手をあげての人差し指を伸ばして見せた、そこには金の指輪が嵌められていて、指輪に刻まれた紋章は確かにウェセックスのワイバーンだ、この指輪は王の書簡の封蝋に使われる物で、当然王だけが所持している物だった。

「確かに確認いたしました、アゼルスタン王陛下、私は西フランク王国のブルターニュ公ギョームと申します、陛下の処遇については、大公殿下に伺いを立てますので沙汰があるまで、こちらでゆるりとお休みください」

そう言って、ギョームは部屋を出た、すぐに副官に命令をして、警護の兵を増やす。

「さて、これも報告しないといけないな」

と独り言を言って、再度ユーグ大公に手紙を書く、そしてパリの大公妃にもアゼルスタン王を捕虜にした事を報告する手紙を書いた、パリの大公妃宛の手紙は伝書鳩が運ぶので、数日のうちには、何かしらの指示があるだろうとギョームは思った。

 このカーンの街の住人の多くは元ヴァイキングで父のノルマンディ公ロドルフと共に戦場で生き延びて引退した者達だ、当然イングランドから逃げて来たデーン人達も多数住んでいる。

 イングランド王アゼルスタン王の軍勢がノルマンディでほぼ壊滅して、王が捕虜になったらしいと言う話は直ぐに街中に広がり、一部のデーン人達は、ヴァイキングの高速艇でイングランドのデーンロウ地域の同胞に緊急事態を知らせに海を渡った。

 その結果、イングランドではこれまでアゼルスタン王の武力で支配されていたデーン人を始めとする各部族が一斉に蜂起、混沌の時代を迎える事になる。

 

 ギョームから伝書鳩の手紙を受け取った大公妃マロツィアは、直ぐに側近のシャロン伯ゲランを呼び

確認の為にギョームの元に派遣した、シャロン伯は魔術師でも武人でも無いが優秀な官僚タイプの人物で、マロツィアはユーグが遠くない未来に国王となる時に備えて、この様な人物を多数従えているのだった。そして、その中の一人、ポワトゥー伯エブル・マンゼにイングランドとの交渉の準備をする様に命じた、このポワトゥー伯はラウル王の取り巻きだった為に失脚していたが、交渉の才があるのでマロツィアが復帰させた人物だ。

「大公妃様、それで身代金はどれ位をお考えでしょうか?」

という、ポワトゥー伯の問いに、マロツィアは即断した

「仮にもイングランドを統一した国王です、少なくては失礼になりましょう、デナリウス銀貨で500万枚と言った所かしらね、それと王族から人質も欲しいわね」

「かしこまりました」

 マロツィアはこの事を直ぐに手紙で夫のユーグ大公に伝える。


 ノルマンディで戦闘とその後始末が行われている頃、ザクセン公国は主戦派と恭順派に分かれて

延々と終わらない議論を続けている、ドイツ王ハインリヒ1世 がザクセン公のまま戦死してしまい

王子のオットーも戦死した事で、ザクセン公は空席となっていて、大きく分けて庶子タンクマール派は主戦派、次子ハインリヒ派が恭順派と言う事になっている。

 そして、公国内で小田原評定を続けている間にもロタリンギア公とノルマンディ公の二人は戦果を競う様に国境周辺の都市を攻略して、メムレーベンの街に迫りつつある、ハインリヒの王宮が有る街だ。


 ロタリンギア公エルベールとノルマンディ公ロドルフはメムレーベンの街を包囲して、街の城壁のすぐ横の広場に設営した陣の幕舎で二人で酒を飲んている。

 城壁の殆どは既に崩れていて、敵は街の中心部に立て籠っている状態だ。

「貴公とこうしてゆっくりと飲むのは初めてだったな」

「ああ、最初に貴公とあったのは戦場だったな、あれからもう15年以上経ったのか、あの時の敵と今は仲間としてこうして酒が飲めるのま不思議な縁だな」

 当初はラテン語が話せ無かったロドルフも今はある程度普通に会話ができる様になっている。

これは根気良くロドルフに言葉を教えた、妻ジゼラの功績だろう。

 ロドルフはジゼラの父、シャルル3世が失脚して国を追われてからも、この妻を離縁する事なく

連れ添っている。

「誠にな、ワシはあの時、当時は伯爵だったロベール国王陛下の陣にいたのだが、まだ子供だった大公殿下のあの魔法には心から肝を冷やした物だった」

「何、それはワシの方だ、あの風の魔女を包囲して、この戦は勝ったと思っ瞬間に、突然子供が空を飛んで来て全てをひっくり返していった、あの衝撃は今でも夢に出てくるほどだ」

「確かに、大公殿下は敵に回すと恐ろしい方だ、だが幸運にもワシはその後もずっと殿下の麾下で戦がでいている、武人として名誉でありがたい事だと思う」

 エルベールは生粋の武人だ、その分政治に疎いので武功の割には、出世に縁が無く領地も父から受け継いだままで、爵位も伯爵のままだった。

 だが、そんなエルベールの人生が変わったのは、周囲の進めで妻としたアデルが、ロベールの娘だった事だろう、アデルは政治的な才能があり、不在がちな夫に代わって領地経営を全て引き受けている。

今、ロタリンギア公を名乗っていられるのも、この妻のおかげなのだ。

 そしてその状況は、ロドルフも同じで、ヴァイキングの戦士として戦だけしか興味が無いロドルフが

ノルマンディ公として居られるのは妻ジゼラあっての事だった。

 つまり、この二人は悪い言葉で言えば戦馬鹿の似た者同士なのだった、なのでこの様に酒を飲む事ができる。

「明日は敵が出てくると良いな」

「ああ、そうなって欲しい物だ」

 二人共、戦場で強敵と戦いそれに勝つと言う事を何より望んでいる。

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