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第五章 断罪

あまりポピュラーでは無いヨーロッパの中世初期、街とか服とかの様子を知りたい方はネトフリ 『ラストキングダム』とか『ヴァイキング』をご覧になると、時代のイメージがお分かりになると思います。

第五章 断罪


 翌朝……当然の様にユーグは前夜はまたマロツィアとベッドを共にしている。

朝食が終わり、館の謁見の間に行くと、伯爵との前に若くて美しいトゥスクルム伯お抱えの女性大魔術師達が並んでいる。マロツィアはユーグの左腕に腕を絡めたままで、一人づつ紹介をする。

大魔術師と言っても、生活魔法や回復魔法の使い手が殆どで、攻撃魔法を使えるのは一人しか居なかった。

 どうやらその娘は一番身分が低い様で、身なりは粗末だった、ただし容姿は一番ユーグの好みで歳も若い様だ。

 ユーグはルクレチアと言うその娘が気に入り。

「伯爵、この娘を譲ってくれ」

と言う。

「もちろんでございますが、一つ問題がありましてこの娘の縁者が『ハドリアヌス廟』に引き出されております」

「(成程、そうきたか)」

「良いだろう、その条件を受けよう、その者の罪は問わん、それで良いか?」

「は、ありがとうございます」

 交渉成立だ、魔法力に優れた美女とただの貴族なら美女の方が遥に価値が高い。 

「よし、では時間だな、『ハドリアヌス廟』に行こう」

 

 トゥスクルム伯爵家の馬車に乗り……もちろんマロツィアとルクレチアも一緒だ……『ハドリアヌス廟』に行くと、既に広場には教皇ヨハネス10世と教皇派の大魔術師、貴族達が鎖で繋がれて引き出されている。騎士長ブルゴーニュ公ユーグ黒公の兵とユーグに従った貴族達が周囲を取り囲んでいて、丁度ルクレチアの縁者と言われた貴族が数名釈放される所だった。


 馬車から降り、衣服を整えたユーグは教皇の前に立ち宣言する。

「背教者元魔法教皇ヨハネス10世とそれに従った者共に告げる、私はネウストリア辺境侯、サン・ドニ修道院長のユーグ・カペーで有る、元教皇ヨハネス10世は魔法教皇と言う地位にありながら、禁忌の黒死魔法を使い、我が父たる西フランク王国国王ロベール1世を暗殺した、この罪は万死に値いする、そして、この事を知りながら教皇に与した魔術師と貴族共も同罪である、西フランク王国と魔法教会の正義と名誉の為に私、ネウストリア辺境侯ユーグ・カペーの名の元にこれより背教者達の処刑を行う」


 この宣言にトゥスクルム伯爵も他の貴族達も驚愕している、弁明の機会も減刑の機会も無く、その場で

断罪して処刑するとユーグが宣告したからだ。

「辺境侯、お待ちを……」

 と言いかけた、トゥスクルム伯爵は飛行魔法で空に浮いたユーグの姿を見て声を失った、空を飛ぶ魔法が存在する等、誰も知らなかったからだ。

 空中のユーグは剣を抜くと。片手で頭上にかざす。

すると、上空に見る見る雲が広がる、全員が驚愕して見つめていると、雲から巨大な雷がハドリアヌス廟の広場に落ちた、これも『天使ラジエルの書』に記された究極魔法『ディヴァインサンダー』だ。

 氷魔法と風魔法で、上空に氷粒の雲を起こし雷を発生させる魔法だ、高度な氷魔法と風魔法を同時に発動させる必要があり、雷のコントールが難しい。

「一体、なんだあの魔法は雷魔法か?まるでユピテルのフルメン(稲妻)の様だ、何と恐ろしい」

 雷撃で一瞬の内に教皇以下100名近い者を消滅させるのを見て、伯爵以下イタリアの貴族達は全員、真っ青な顔で震えている。

 しかし、伯爵の隣に居るマロツィアとルクレチアの二人は、ユーグの事をうっとりとした顔で見つめている。

「ほう、二人とも肝が据わっているじゃないか」

とそれを見たユーグは感心して、マロツィアへの感情が好転する。

 この二日間ベッドを共にして最初の夜は、面倒な女だと思ったが、二日目の夜は結構好感の持てる態度だったからだ。

 前教皇達、背教者を始末したユーグはサン・ピエトロ魔法大聖堂の隣のヴァチカン宮殿に入り、教皇の座所に腰を降ろした。

 これはある意味無礼な行為なのだが、先程のユーグの魔法の力を目の当たりにした、トゥスクルム伯爵以下イタリア貴族達は誰も文句は言わない、そしてそのユーグの隣には当然の様にマロツィアとルクレチアが控えている。

 ユーグは座ったままでトゥスクルム伯爵に質問をする。

「トゥスクルム伯爵、次の魔法教皇を決めなければならないと思うが、誰か候補者はいるか、今度はまともな人物を選んで欲しいが」

 これに対して答えたのはマロツィアだ、

「それでしたらネリウス大魔術師がよろしいかと存じます、ネリウス師は生活魔法の大家で、ローマ法の研究者でもあります」

「(つまり、毒にも薬にもならない平凡な男と言う事だな、マロツィア良いじゃ無いか)」

「伯爵、マロツィア殿がその様に申しているが、貴公の見解は?」

「はい、娘が出過ぎたまねを致しまして申し訳ありません、ですが私もネリウス大魔術師が適任かと思います」

「そうか、他の者はどうか、誰か異論はあるか?」

 現在の教皇庁でトゥスクルム伯爵に反対する貴族や大魔術師など存在しないので、これで次期魔法教皇はネリウスに決定した事になる。

「それで、次期魔法教皇殿は今はどちらにおいでになるのか?」

とユーグが聞くと、大魔術師の一人が

「ネリウス師は毎日書庫で過ごしておいでですので、今日もそちらかと、直ちに呼んで参ります」

とどこかに走って行った。ユーグの事が余程怖いらしい。

 そして、しばらくしてその魔術師が初老のいかにも人の良さそうな生真面目そうに見えるな人物を連れて戻って来た、ユーグは椅子から立ち上がると、座所の脇に移動して、後の事をトゥスクルム伯爵に任せた。教皇庁での新魔法教皇の任命方法などはユーグの知識には無いからだ。

 伯爵はネリウス大魔術師を教皇の座の前に立たせて

「大魔術師ネリウス殿、教皇庁執政の権限で、師を次期魔法教皇として擁立する事をお知らせする、受諾していだだけるか?」

 一瞬だけ躊躇したネリウスは、小さな声で

「受諾いたします」

と答えた、トゥスクルム伯爵の三人の従者がそれぞれピローに乗せた、魔法教皇環(魔法具の指輪)、魔法教皇杖(魔法具の杖)、魔法教皇冠(四重の冠で四つのエレメントを表す)を持って来ると……これは全て前教皇から剥奪した物……ネリウスは教皇環を嵌め、教皇杖を右手に持ち、最後にトゥスクルム伯爵によって教皇冠を戴冠した。

「ネリウス殿、魔法教皇としてどの様に名乗りますか?」

と伯爵が問いかけると、小声で

「レオ」

と答えた、レオと名乗る教皇は既に5人居るので、新魔法教皇はレオ6世と称される事になる。

「(へぇ、なんだか呆気無いんだな)」

とユーグが思っていると、

「では引き続きイタリア王国諸侯会議を開催する」

とここでトゥスクルム伯爵が声をあげる。

諸侯会議は貴族のみ会議らしく、この場にいた大魔術師達は全員が退出した。

「諸侯もご存知の様に前イタリア国王、ウーゴ・ダルルスは背教者の前教皇に与して、ここに居られる

ネウストリア辺境侯ユーグ・カペー殿に討たれた、そこで私はユーグ・カペー殿を次のイタリア国王として推薦したい」

「(おいおい、突然何を言うんだ)」

とユーグは思い、左隣でユーグの左腕に腕を絡めて胸を押し付ける様にして離さないマロツィアを見ると、彼女は笑顔で頷いた。

「(成程、もう親娘で決めていたのね)」

ちなみにユーグの右隣には当然の様な顔でルクレチアが居て、こちらもユーグの右腕に腕を絡めている。

美女と美少女にそんな風にされてユーグは少しだけ喜んでいる、イタリア国王よりこちらの方が良いかもと思ってしまう位だ。

 そして、伯爵の問いかけにこの場に居るイタリアの貴族達全員が賛同して、ユーグはこの場で戴冠してイタリア国王を名乗る事になった。

 戴冠と言っても魔法教皇から王位を授かったわけでは無い、教皇はただ隣席していたでけで何の発言もしていない。王権と教皇権は完全に別の物と言う認識が有るからだ。

ユーグはこれにより、全イタリアの1/3を自身の領地とする事になるが、ユーグ自身は西フランク王国に帰還する為にその統治は執政としてトゥスクルム伯爵に委任される事になる。

 

 トゥスクルム伯爵邸に戻ったユーグはマロツィアに提案をする。

「どうだ、私の妻となってパリに一緒に来ないか?」

 ユーグと最初の妻『ジュディット・デュ・メーヌ』との結婚生活は一年程しか続かなかった、妻の一族であるシャルル3世とカペー家が敵対したからだ、その為現在は独身なのだ。

「大変嬉しいのですが、私は貴方様より8歳も歳上です、それに乳も垂れ始めて身体ももう衰え始めています」

とマロツィアは言う。

年齢はどうしようも無いが、身体の方は魔法でどうにでもなる。

「もしこの婚姻を受け入れるなら、私が学んだ『天使ラジエルの書』には若返りの秘術がある、どうだ試してみたいか?」

 どこの世界でもいつの時代でも女性は若く美しいままでいたいと望む物だ、当然マロツィアもそう思っていて、魔術師達や錬金術師に大金を払って効果の無い魔法や錬金薬を試していた、だがレベルの違う魔法を使うユーグならそれも可能だと判断して即座に決断した。

「パリに御一緒させて頂きます、よろしくお願いいたします」

「そうか、では先に伯爵殿に報告をしないとな、一緒に伯爵殿の部屋に行こう」

 ちなみにマロツィアにとってはこれが三度目の婚姻になる、最初の夫も二番目の夫も政争の結果死別している、そしてそれぞれの婚姻で設けた息子が二人居る。

 話を聞いたトゥスクルム伯爵は娘を使ったハニートラップが成功したと思い歓喜した、何故ならイタリア王となったユーグは将来西フランク王国の王になる可能性が高いのだ、二つの王国の王の外戚となるのは伯爵にとって何より望ましい事だった。

 急遽、ユーグとマロツィアの婚姻の宴が執り行われる事になり、それは一週間後と決まる。

それが終われば、ユーグの遠征軍は西フランクに帰還する事となる。

 挙式までの間は、慣習によりマロツィアとの同衾は許されない、なのでユーグはその間は、愛妾となるルクレチアとの夜を過ごす事になる。

「成程17歳の女性の身体のエーテルの流れはこうなっているのか」

とユーグはベッドでルクレチアを観察している、若返りの魔法とは体内のエーテルの流れを若い頃に戻す事で、身体全体に影響を与える魔法だ、ユーグが絶倫なのはこの魔法の応用に過ぎない。

つまり、ルクレチアを見本にして、マロツィアのエーテルの流れを変えれば、理論的にはマロツィアは17歳の頃の身体を取り戻す事になる、古代のソロモン王はこの方法で60代に流行病いで死去するまで20代の姿のままだったと言う。 

 そんな訳で、ユーグは正妻となるマロツィアと愛妾のルクレチアの二人の服を脱がせて、並べて立たせている、流石に二人とも昼間からこの格好でいるのは抵抗がある様だ。

 ユーグは最初にルクレチアの体に触れてエーテルの流れを確認して、次にマロツィアの体の同じ場所をに触れて、エーテルの流れを変更して行く、ただし体格の違いもあるので、ルクレチアのエーテルの流れをコピーする訳では無い。

 頭から始めて、顔、首、肩と作業を進めていく。

「(これは思ったよりずっと大変だな、あれ?でもこれって……)」

 ユーグはここで気が付いた、エーテルの流れを写すと言う行為が、魔法で絵を描く感覚と同じだと。

そこで今度は個別にでは無く、ルクレチアの全身のエーテルの流れのイメージを、マロツィアに投影する

形にしてみた、その後に個別の部位を確認すると、無事にエーテルの流れが綺麗に変わっているのがわかる。

 その効果は絶大で、少し垂れ始めていたマロツィアの乳房や臀部は17歳のルクレチアと同じ張りと体の締まりを取り戻し、白髪が見え始めた髪は見事なプラチナブロンドに蘇り、さらにほうれい線や目の下の弛みが無くなり、誰がどう見てもローマ随一と言われた絶世の美貌を取り戻している。

「終わったよ」

とユーグが言うと、マロツィアの方を振り向いたルクレチアが

「まぁ、マロツィア様、なんとお綺麗な」

と言う、それを聞いたマロツィアは自分が裸なのも忘れて、姿見の前に行き、昔の姿を取り戻した自分を見て涙を浮かべて感激している。

「どうかな、気に入ったかな?」

とユーグが聞くと、その姿のままで抱きついて来た。

「マロツィア、嬉しいけど服を着てくれ、我慢できなくなる」

とユーグは笑う。

マロツィアは顔を赤くして、張りを取り戻した乳房を両手で覆った。

 そんなマロツィアを見て、ルクレチアが

「それにしても、マロツィア様、見事なお乳で羨ましいです、私少し小さいので」

と言う。

「なんだ、ルクレチアは胸が大きい方が良いのか?」

と聞くと、

「はい、殿方はその方が喜ばれると教わりましたから」

「(修道院では何を教えているんだ? 僕は全然気にしないのに)」

と思ったが、

「大きいのが良ければ、そうしてあげよう」

と言うと、ルクレチアも、マロツィアも驚愕している。

「あの、そんな事が可能なのですか?」

 今なら、マロツィアと言う豊満な乳房のモデルが居る、それをコピーすれば良いので簡単だ。

「すぐに終わるよ、二人共もう一度ここに並んで」

と今度は先程とは逆に、マロツィアの胸部のエーテルの流れのイメージをルクレチアの体に合わせて投影する、すると小ぶりだったルクレチアの乳房が見事に豊満な乳房に変わる。

「ルクレチア、君も姿見を見ておいで」

 鏡を見て戻ってきたルクレチアも歓喜の表情を浮かべて、マロツィアと二人で手を取り合って喜び、ユーグに抱きついてくる。

「いや、だから二人とも服を着てからにしてくれって」

 その後ユーグはこの事は誰にも言わない事を、二人に誓わせた、王族や貴族の妻や娘達から処置を頼まれたら面倒な事になるからだ。


 そして二人の婚姻がサン・ピエトロ魔法大聖堂内の女神ユーノの像の前で、新教皇の立ち会いで執り行われた。これが、新教皇レオ6世の初仕事となった。

 その後は、婚姻の宴が行われ、ほぼイタリア全土の貴族達やユーグの軍の士官達も招かれて盛大に行われた、全盛期の美貌を取り戻したマロツィアに対して、貴族達は称賛の声を上げた、ただ一時再婚相手と言われていたトスカーナ侯グイードだけは逃した魚が大き過ぎたのか苦虫を数匹噛み潰した様な表情でいる。この時愛妾となったルクレチアも、今までの粗末な魔術師の服装では無く、豪華なドレスを身に纏って髪も整え化粧をした事で、見違える程の美しさとなり、こちらも貴族達の注目を集めている。

「ふん、フランクの野蛮人めが、王位を得てローマの名花を娶り、あの様な美女を妾にするとは許しがたい」

と言うのは、かってイタリアを支配したランゴバルド王国末裔の貴族だ、だがこの男はこの戯言を聞きつけた騎士長ブルゴーニュ公によって宴の後に密かに誅殺されている。


 そして数日後、馬車に新妻と愛妾と共に馬車に乗ったユーグとその軍団はパリへの凱旋帰国の途についた、途中でユーグの領地となった、旧キスユラブルグント王国のアルルにも立ち寄るので約三ヶ月程の旅になる。

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