第三部 第十二章 束の間の平和
第三部 十二章 束の間の平和
『ビザンツ王』となったアンリもまたダークナイト達と同じ武断派で事務的な能力はあまり高く無い
それを自覚しているアンリは皇后マロツィアに面談を申し込み弟を自分の配下として貰えないか、妻をと共ない頼みに訪れた。
皇后マロツィアは、アンリとその妻マイアレンを謁見すると、途中から
「その件は考えておきます、今日はご苦労でした」
とアンリには退出を促して、マイアレンを皇后の間に残して、話を続けた。
「魔聖ローマ帝国を軍事で支えているのは、あなたの旦那様も含む『王』達よ、でもね実際に帝国を運営しているのは私と私を手伝ってくれている二人の皇帝の姉君達なの、一人はイスパニア王の奥方ね、もう一人はラウル王の元奥方でスロバニア王には義姉になります」
「そうなのですか?」
マイアレンは驚いた。
「王達の中でもグレート・ブリタニア王とルテニア王、それと新たに王になった『アクィタニア王』あなたのお兄様ね……は少し違うけど、後の王達は皆ただの戦馬鹿、残念ながら貴方の旦那『ビザンツ王』もその馬鹿達の同類よ、だからね貴方が実質的なビザンツ王として、政務を行いなさい、それができるならエブルを返しても良いわ」
「あの皇后陛下、私にその様な力はありませんが」
「何を言っているの、貴女は立派にウルヘル伯爵領を統治していたでしょ、良い?小さな伯爵領一つ統治できない人間には広い王国の統治は無理、アンリ殿はダークナイト達よりは遥かにマシだけどそれでも私の目からはまだまだね、ビザンツ王領は帝国の東を守る大事な場所よ、貴女が居たから私は、アンリ殿をビザンツ王に推挙したのよ」
と皇后にそこまで言われてマイアレンは驚愕した。そしてそこに皇帝ユーグが部屋に入って来る。
「ここにアンリその奥方が来ていると聞いたのだが、なんだアンリはもう帰った後か」
「はい陛下、今はマイアレン殿と女同士の話をしている所でございます」
「そうか、それは邪魔したな、マイアレン殿、アンリは良い奴で腕も立つ、だが政治の方は私と同じで駄目だろう、私は皇后にこの国の政治を任せている、だから安心して戦ができる、マイアレン殿も同じ様にアンリを支えてやってくれ、頼んだぞ」
と言われて恐縮するしかできなかった。
「はい陛下」
と答えるのがやっとだ。
「ではな、アンリはどうせ庭の練兵場だろう、私もそちらに顔を出すよ」
と皇帝ユーグはマロツィアに声をかけて部屋を出て行った。
「皇后陛下、失礼ながら皇帝陛下と仲がよろしいのですね」
「そうね、私も陛下もお互いを必要としている、そう言う事かしらね、まぁとにかく貴女には期待をしているので頑張って欲しいわ、いずれダークナイトの奥方も呼んでみんなでお茶でも飲みましょう」
「はい、ありがとうございます」
とマイアレンは皇后の間から退出した、皇帝ユーグの言葉通り夫のアンリは、練兵場で少年の様な顔をして皇帝、ダークナイトやエリク達と剣技の話をしている様だ。
「なるほどね、これは面白くなって来たわ」
と自分に気合を入れるマイアレンだった。
そんな、ある日帝都ユーグウルプスのダークナイト・ユーグの屋敷に、ウィリアムとエリク夫妻が呼ばれて一緒に食事をする事となった、ウィリアムの妻リュートガルドは今はロンドンで出産の準備中で不在だ、ダークナイト・ユーグの妻マーリカは今年の夏に無事にジルベールと名付けられた立派な男児を出産している、この男児には魔法の才能があるので、養育はマーリカの臣下となった氷の魔女達が交代で行っている。
食事の後、酒の席になり、ダークナイトはウィリアムに尋ねた
「昔、お前とロドルフ殿に教わったヴァイキングの悪口があっただろう」
「ああ、そんな事がありましたね、酒の席で余計な事を教えたと後で父が言ってました」
「実はな、その悪口をちょっと前の戦でヴァイキングの傭兵に使ってみたんだ、その、壁の中で隠れていないで出て来いってな」
「え?、まさかあれをそのまま言ったんですか?」
「ウィリアム殿、その悪口ってどんな?」
「……と言う奴だ」
「うわぁそれはまた酷い、その傭兵怒ったでしょう?」
とエリクとその妻ゲイラは声を揃えた。
「ああ、メチャクチャ怒った、しかも相手は女でな、俺はそれ以来そいつらから『最低な下品な男』って
評価されているんだ、これなんとかならんか?」
「うーん、男でも怒るのに女性に言ったんですか……」
ウィリアムとエリクは顔を見合わせた。
「スロバニア王陛下、申し訳無いですが、私でもそれを言われたらもうちょっと……」
とゲイラも複雑な表情をする。
「あら、何そんなに悪い言葉だったの、私はヴァイキングの言葉はわからないから、あの時はインヴィルド達が怒っているってしかわからなかったけど」
とマーリカは笑っている。
「はい、流石に奥方様の前で言える様な言葉ではありません」
とエリクは答える。
「なんだよオッサン、あんた意味も知らずにあの時私にあの悪口を吐いたのかい、ほんとあんた大概だね、マーリカ様、旦那様大丈夫なんですか?」
とジルベールを抱いて部屋に入って来たのはマーリカの親衛隊長と言う立場になったインヴィルドだ。
「ダークナイト殿、この方は?」
「ああ、こいつがさっきの話に出てきたその相手の傭兵だ、今は縁があって女房に使えてくれている、インヴィルド、グレート・ブリタニア王ウィリアムとデーンラント王エリクとその奥方ゲイラ殿だ」
「え、フローブル王の子と剛勇のビョルン王の子の二人ですか?」
「ああ、そうだお前も一応ヴァイキングだったから名前は知っているだろう」
「まさかお二人に会える事があるなんて光栄です、私はインヴィルド・ブリュンヒルトと申します、今はマーリカ様にお仕えしていますがその前はエイマルソン王の傭兵でした」
と赤子を抱えたままで挨拶をした。
「ブリュンヒルト? それにその鎧、君はまさか『氷の大魔女』の戦士だったのではないか?」
とウィリアムが聞く。
「はい、良くご存知ですね、私は魔女の戦士の最後の生き残りです」
「そうか、僕の母も氷の魔女だったからね、名前をポッパ・ド・バイユーと言うんだ」
「え、まさかポッパ姉様の御子息なのですか?、まぁなんて事、妹が聞いたら喜びます」
「どういう事かな?」
「ホッパ姉様は、本来は次代の『ブリュンヒルト』となるお方でした、私たち姉妹はホッパ姉様にお使えする筈だったんです、ですが私達がまだ幼い時に姉様はお亡くなりになり……」
「そうか、そう言う事情か、しかしダークナイト殿、また素晴らしい人材を味方に引き込みましたね、本物の氷の魔女を自軍に入れるとは羨ましい限りです、なあエリク殿」
「そうですね、もし次の戦がある時には我々デーンラント軍は、ダークナイト殿の隣で戦いたいですね、そうすれば士気が上がります」
「そう言う物なのか?」
「ほんとオッサンは面白いな、見ていて飽きないわ」
「そうでしょう、剣は帝国一、そして剛力無双、それでいてこのどこか憎めない所が堪らないのよね」
とマーリカは惚気るが、この場のマーリカとダークナイト以外の全員が
「いや、それは違うと思う」
と思ったのは内緒の話だ。
そして魔法歴939年、人口が15万を超えて帝国第二の都市となった、帝都ユーグウルプスでは新宮殿『パンテオン城』の落成式が行われる事になる。
魔聖ローマ帝国各地の王と貴族達が貢物を持参して帝都での式典に参加する。
この席で皇帝ユーグは新たな軍制改革を発表して18歳以上の臣民なら兵士として軍に志願できるという改革案を発表する、軍で給与が支払われる上に、読み書きや計算を教えてもらえる上に、剣技や魔法の教育もあり、優秀な者は騎士や魔術師に取り立てられると言う事で、志願者が殺到する事になった。
これにより帝国の軍は魔術師と魔法騎士、騎士以外の一般歩兵は各地の王や貴族の手を離れて帝国臣民の志願兵による国民軍という形式に改められる事になった。
そしてウィリアムとエリクが数年前から進めていた、ヴァイキングの地中海沿岸への入植も進み、
帝国の地中海沿岸は海賊や難民の心配が無い地域となり、安定して農業や漁業、海運が発達して、沿岸諸都市の発展につながった。
また新たな都市『カペーウルプス』も順調に建築が進み、すでに人口は20000を超える程になっている。
だが、この頃中東のブワイフ帝国領では疫病『狂犬病』が大発生して、帝国の国力が大きく損なわれる事になっている。帝都であるバクダットでは人口200万人が半減する事態になり、ブワイフ帝国によって滅亡寸前に追い詰められていた、アッバース帝国が息を吹き返す事になった。
この事によって、アラブ・ペルシア世界は大混乱の時代に突入する事になり、アッパース帝国と一応ではあるが同盟関係を結んでいる魔聖ローマ帝国も無関係ではいられなくなってくる。
一方帝国の北東を守るルテニア王国は、今までの王都『エステルゴム』では西に寄りすぎている為に、黒海沿いの港町『オデッソス』を新王都にして遷都が実施された、また北東方面の拠点都市、『アールパード』を中心にスラブ人達をまとめて、ジョルトの甥クルサーンをダークナイトの軍から呼び戻し、アールパード公爵として、更に東方と北方に進出して行く。新領土となった旧ブルガリア帝国領の北半分は、旧帝都『プリスカ』をジョルトが焼却破壊してしまった為に『プレスラフ』の街を拠点として弟ユタシュを公爵としてその守りに就かせている。
ジョルトは本来はこの時、ブリスカを破壊するつもりは無かった、城壁を壊して街を占拠するつもりだったのがだが、皇帝ユーグから教わった宝剣『キャリバーン』と『ウェスタ』を併せた魔法を実験的に使用してみた所、威力があり過ぎて、城跡どころか街そのものを住民ごと焼却破壊してしまったのだった。
「これはまた……」
「本当に叔父様はとんでも無いわね」
とこの時ジョルトは妻アデルと共に頭を抱える事になった。
こうして帝国各地では急ピッチで新たな国造りと戦力の増強が図られて、次の戦いに備えられていく。
当然、次の戦いは中東方面や地中海を挟んだ対岸のアフリカと言う事になるだろう。
更に帝都では11歳となった皇太子ユーグ2世が、父譲りの魔法力を発揮し始めて、皇帝と皇后夫妻を
大いに喜ばせ、皇帝ユーグは次の戦いを皇太子の初陣とする事に決めている。ユーグの初陣は10歳の時でその時は既に飛行魔法といくつかの属性の上級魔法を使いこなしていたが、ユーグ2世もまた11歳にして、ユーグから直伝された飛空魔法を使い、ユーグが製作して与えた宝剣『エクスカリバー』を手に既に、全属性の上位魔法を使いこなしているからだ。ユーグは息子の為に作った宝剣の銘を付けるに当たってしばらく悩んだ末に、伝説のアーサー王の剣『エクスカリバー』の名を貰ったのだった、以前に自分の剣の名前を考えた時にもこのエクスカリバーの名を使うか悩んだが、流石に自分の剣には『コルタナ』と名付けていた、だが息子の剣となると話は別になるのだろう。
そしてユーグ2世の右手の人差し指には、ユーグが自分の『ソロモンの指輪』を解析して作り上げた
魔法具である『パラビアの指輪』が輝いている、この指輪は全属性の魔法力を底上げする効果がある。
だが、残縁な事に地上の全ての言語を読む事ができる能力はまだ解析できていなかった。
これで第三部終了です。
第四部は構想はありますが、まだ未定です。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。




