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第三部 第九章 王の最後

第三部 第九章 王の最後


 エリク軍は逃げる敵を追う様に北上して、フィヨルドの中に入り込み敵の村落を占領しながら、王都『シグトゥーナ』に迫っている。


 この時スウェーデン王は王都を留守にしていた、植民地としているフィン人の土地……『フィンランド』と呼んでいる……に侵入者が有りとの一報を受けて、15000の兵でフィンランドへ遠征している最中だったからだ。

 王が不在の中、王弟も討たれたスウェーデンのヴァイキング達は統制が取れなくなり、各地で氏族や部族毎にエリク軍に対応する事となり、ある部族は徹底抗戦を選び、別の部族は本来は同族であるデンマーク軍に投降して味方として戦う事を選んだ。

 こうして開戦から二ヶ月程で、スウェーデン王は南部の領地をほぼ失う事になった。


 この状況に対して、手薄になった国境地帯を侵略しようとしたのがノルウエー王ホーコン1世だ、ホーコンはノルウエー本土のほぼ全軍の20000の兵と1000隻の船で王都『ニダロス』を出撃してフィヨルドを抜け、半島の南西岸を航海してスウェーデン南部に侵攻しようとした。

 この動きはノルウエー王の動きを探っていたウィリアムの知る所となり、密かにメインランド島西岸に

潜んでいたウィリアムの率いる25000のヴァイキング兵と5000の魔法騎士が乗る2000隻の艦隊は、スカゲラク海峡でノルウエー王の艦隊の背後から襲いかかった。

 この戦いは後に『スヴォルドの海戦』と呼ばれる事になるが、それは激戦があったからでは無い、ウィリアムの艦隊に同乗した魔法騎士達による圧倒的な遠距離魔法攻撃により、一瞬で艦隊の六割を失ったホーコンの艦隊は壊滅状態になって、ノルウエー南部の港街『ビョルヴィカ』に逃げ込んだ。

 この圧倒的な結果が後の世に征服王ウィリアムの『スヴォルドの海戦』として伝わる事になったのだ。

そして、ここからはウィリアムに従う各ヴァイキング部族達がノルウエー各地の沿岸の村落を攻略して、制海権を完全に失ったホーコンは、陸路でスカンディナヴィア山脈を越えて王都ニダロスに戻ろうとした、だがこの時ニダロスは既にウィリアム麾下のヴァイキング達に占拠されて、ホーコンは街の周囲を彷徨っている所を捕縛された。

 ニダロスの街の中央ニデルバ川の辺りに有る王宮の玉座に座るウィリアムの前にホーコンは引き出された。この王宮と玉座はホーコンの父である『美髪王ハーラル1世』の建築した物であり、このハーラル1世こそウィリアムの父、先代のノルマンディ公ロドルフことフロールヴをノルウエーから追放した王だった。

 ウィリアムは期せずしてハーラルの長子エイリークを討ち、その弟のホーコンを捉えた事になる。

「魔聖ローマ帝国、グレート・ブリタニア王、ヴァイキングの王フロールヴの子ウィリアム・ノルマンディである、貴殿がハーラルの子でノルウエー王のホーコンか?」

「そうだ、私がホーコンだ、是非も無い、この首を刎ねるなり火炙りにするなり好きにするが良い」

「ほう、貴殿はヴァイキングの王らしく戦って死のうと言う気概は無いのか?」

「私は兄とは違う、争い事は嫌いだ」

「なんとも情け無い王だな、貴殿の為に戦いバルハラに召された家臣や部下達に申し訳ないと思わんのか?」

ウィリアムがそう言うと、王宮に詰め掛けている各氏族や部族達の長達から一斉に嘲笑と侮蔑の声が上がる。

 ホーコンは実は平和な時代に生まれていれば、良識のある王としてその善政を讃えられたかもしれない、だが彼は生まれるのが早すぎたのだ、ヴァイキングの王としていや男としてあるまじき態度を責められたホーコンは、剣はおろか一切の武器も衣服さえも身に付ける事を許されずに、小舟に乗せられて

海に流されて、そのまま消息不明となり20歳を前に短い生涯を終えた。

 王宮に居たホーコンの弟やエイリークの息子達はヴァイキングの男らしく剣を与えられて、決闘により命を奪われたが、彼らの亡骸はヴァイキングの戦士としての栄誉を持って船葬をされる事になった、またホーコンの妻や幼児の子達はヴァイキングの作法通りに奴隷の地位に落とされて、ニダロス攻略に功績にのあったヴァイキング部族に彼女達の持つ財宝と共に報酬として引き渡された。これによりハーラル1世の血統は消滅して、ウィリアムは実質的にノルウエーの王位もその手に収める事になった。

 この時、ホーコンの援軍要請に応じたアイスランドのヴァイキング……彼らの殆どはノルウエー系だった……達がニダロスの町に到着した。だが彼らは現状を把握するとその場で、ウィリアムを新ノルウエー王として認識して臣従を誓った。ヴァイキングの世界では勝者が正義なのだから当然だ。

ウィリアムもまた彼らを歓迎して、同胞として歓待した。

 ニダロスに一月程滞在したウィリアムは父の腹心だった同じくノルウエー出身で父と共に追放された『イヴァル』を総督としてニダロスを任せて、ロンドンに凱旋する事になる。

「ウィリアム様、エリク殿の加勢に行かなくてもよろしいのですか?」

イヴァルにそう聞かれたウィリアムは笑いながら

「エリク殿は今頃、王都『シグトゥーナ』を落としてスウェーデン王を討っている頃だろう、今更私が行っても邪魔になるだけだよ」

と言った、ウィリアムは盟友になったエリク・ビョルンソンの事を高く評価しているのだった。


 ウィリアムがホーコンを捕らえた頃、スウェーデンの王都シグトゥーナを占領したエリク・ビョルンソンはここで一旦兵を止めて各地の軍を集結させる事になる。

 このシグトゥーナは代々スウェーデンの王や族長の宮殿が置かれていた町で、エリクの祖父でヴァイキングの伝説的な王『ラグナル・ロズブローク』の玉座があり、その玉座を巡って父の剛勇のビョルンと異母兄弟である『骨無しのイーヴァル』と呼ばれたイーヴァル達と骨肉の争いを繰り広げた場所でもあった。

 エリクは、その祖父と父が座った玉座に腰を下ろし隣には誇らしげな妻ゲイラが座っている。

「エリク様の今のお姿を父に一眼見せたかった」

とゲイラは誇らしげな中で少し寂しそうに呟いた。

 気の早い将兵が

『エリク・ビョルンソン王万歳』

と叫ぶ中、エリクは捕虜の謁見を始める、この中にはエイマルソンの妻や子達も含まれている。

 王宮を占拠したものの、王を討った訳では無いので、あくまでも彼らは捕虜と言う扱いになる、ヴァイキングの作法では滅ぼされた王や族長の家族の「生殺与奪の権」は滅ぼした側にあるが、今はまだエイマルソンの生死が不明だからだ。

 数日の休息と補給を取った後に、シグトゥーナの街を妻ゲイラと義父デンマーク侯爵の元部下達に任せ、エリクは捕虜から得た情報を元にスウェーデン王エイマルソンを追ってスミオ湾(フィンランド湾)沿岸の港町『ヘルシンガ』に向かう事になる、この時また軍を二分割して、一軍は『オーランド海』を渡りフィンランドの重要な町である『トゥルク』を目指して進軍する事になった。


 この頃、スウェーデン王エイマルソンは『ヘルシンガ』郊外でダークナイト・ユーグの軍と対峙していた。

 ヘルシンガの町はスウェーデンのヴァイキング達がニシン漁の拠点とする為に入植した漁村が発展した町でダークナイト・ユーグが設営した拠点の町『リシャールブール』からは300km程の距離にあり、スミオ湾沿岸沿いに西進するダークナイト軍を最初に発見したのはこの町を防衛するヴァイキング兵の斥候達だった。

「見なよ、あの旗」

「あ、前に『グダンスク』で戦った奴だね、確かダークナイト・ユーグと言ったっけ」

グダンスクでダークナイトに敗退した傭兵団のインヴィルドとその妹の氷の魔女テューラは今はこの町を

守っていたのだった。

「敵の数は?」

「20000以上です」

「こっちは2000も居ないんだ、王都に大至急で救援要請の狼煙をあげな」

 この時代、デーン人達は東方の異民族から学んだ狼煙台を使用しての情報伝達方法を使用している。

色の付いた煙をリレー形式で各地の狼煙台を経由して行く事で短時間で敵の襲来を伝える事ができた。

 この知らせを受けた、スウェーデン王は自ら15000の兵を率いて王都を出撃、バルト海からスミオ湾に入って、『ヘルシンガ』の町の東の森を抜けた丘陵地帯に迎撃の陣を構えた。

 

 この時点でエイマルソン王は自軍の勝ちを確信していた。エリク・エイマルソンは無能な王では無い

父の時代には辺境の一部族に過ぎなかったが、彼の才覚で領地と兵を増やし、血統だけが自慢の無能な先王とその一族を排除して、スウェーデンの王となり、同じデーン人を束ねるデンマーク侯グヌーバー・オーロフと戦い彼の長子を討ち取り勝利した、さらにフィン族の領地をほぼ制圧して植民地フィンランドとして、大陸側のバルト海沿岸にも植民町を設ける等、これまで順調に勢力を拡大して来たのだった。

 味方には地の利があり食料も豊富、既に三重の防御陣の構築を完了している。何より氷の魔女達を束ねる『大魔女』たる『ブリュンヒルド』がこの戦に同行しているのだ、ブリュンヒルドは代々氷の魔女の長が襲名する名前で、大神オーディンの巫女と予言者を兼ねている。このブリュンヒルドがこの戦いの勝利を予言しているのだった。

 エイマルソン王は斥候のインヴィルドの報告を聞いて敵にも魔術師が居る事、そし騎乗した騎士が多数いる事を確認している、だが彼はインヴィルドの忠告を聞き流し、ダークナイトの軍を今まで過去に何度も戦って勝利を収めた東フランク王国の軍と同じと思い込んでいた。 

「懲りもせずに騎兵で来るのか、フランクの奴らは学習すると言う事を知らないらしいな」

騎兵は群を抜いた攻撃力を誇るが、その速度を土塁等で止められてしまえば、弓矢や攻撃魔法のただの的になってしまう、東フランク王国の騎兵達は氷魔法で固めた土塁による防御陣を突破できずに敗走を繰り返していたのだ、だがダークナイトの騎兵は同じ騎兵でも魔法騎士の騎兵だ、この事をエイマルソン王が認識するのは自慢の三重の防御陣を魔法騎士の移動攻撃魔法によって軽々と突破されて、敵が本陣に迫って来た時だった。

「何故だ、なぜ敵は止まらない? 全軍攻撃、いや引け」

混乱したエイマルソン王は攻撃指示を出した後に、自分と側近だけ騎乗で戦場から逃走した。

接近戦に巻き込まれた、氷の魔女達は防御魔法を発動して身を守るのが精一杯になる。

「くそ、あの間抜け王逃げやがった、あれほど敵の魔術師に注意する様に言ったのに」

インヴィルドとテューラは氷の魔女達を守りながら、ダークナイトの魔法騎士達と絶望的な戦闘をしながら悪態をついている。

「なんだ、どこかで見た顔だと思ったら、お前達か」

「あれ?品の無いオッサン一人か、あの勇ましい女房はどうした?さては逃げられたな」

「違うわ馬鹿野郎、女房は今『これ』なんだよ」

とダークナイトは腹の前で手を動かした、戦場とは思えない会話で張り詰めた空気が一瞬だけ和む。

「お前ら、もう勝ち目は無いぞ大人しく降伏しろ、悪い様にはしない」

一度は戦った事のあるこの二人だが、ダークナイト・ユーグは何故か変な親近感を得ていた。

「ふざけるな、誰がお前らフランク人などに」

と、テューラは叫んで杖を構える、だがその後ろではついに氷の防御魔法が崩れて、ブリュンヒルド以下の氷の魔術師達が複数の土魔法の『テラ・ サクスム』の岩に貫かれて命を落として行く。

「わかった、降伏する」

その光景を見たインヴィルドは剣を捨てた

「姉上!」

「後ろを見ろ、今ならまだ何人かは助けられる」

「く……」

「良い判断だ、おい生き残った魔女達に誰か治癒魔法を施してやれ、ところでお前達の指揮官はどこに行った?」

「あの間抜け王なら、とっとと逃げたよ、今頃はヘルシンガの町で酒を飲みながら震えている頃だろう」

「王だと?一体どこの王だ?」

「あんたも大概だね、誰が相手か知らないで戦っていたのかい?、スウェーデン王エリク・エイマルソンだよ」

「しまった、大魚を逃した、おいこいつらは確保しておけ、魔法騎士部隊続け、敵の王を追うぞ」

ダークナイトは3000程の魔法騎士達を率いて、ヘルシンガに向かった。


 ダークナイト一行がヘルシンガの町のすぐ側まで近づくと、町は海からの攻撃を受けて居る所だった。「なんだ、どうなっている?誰か状況を確認して来い」

しばらくすると斥候に出した魔法騎士が戻って来て

「スロバニア王陛下、攻撃側、守備側どちらもヴァイキングです、攻撃側が優勢、既に海側の城壁は崩れて町の中でヴァイキング兵同士の戦闘が行われています」

「ヴァイキングの内輪揉めか、我らも町に突入する、スウェーデン王を逃すな」

 ダークナイト・ユーグは先頭に立って町に突入して、敵兵を蹴散らしながら、逃げた王を探した。

だが、ダークナイトは一足遅かった、彼らが町に入った時には、スウェーデン王エリク・エイマルソンはデンマーク侯エリク・ビョルンソンに討たれたあとだった。

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