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第三部 第五章 東方侵攻 

第三部 第五章 東方侵攻 


 全員で皇宮の中庭の練兵場に場所を変えて、二人の大剣使いの立ち合いが始まる。

「ウィリアム、卿が審判を努めよ」

「は、陛下」

 ウイリアムは皇帝ユーグ以外の誰からも剣士とは思われていない、ユーグの弟子の魔術師と認識されているので、公平な審判だと誰もが思った、だがユーグとしてはこの試合が危険な状況になった時に、ウィリアムなら二人を止められると判断していた。

 

「では両名前に、始め」

 二人は練兵場の真ん中で、お互いに木剣を立てて胸の前に構える『剣礼』をしてから、向かい合う、

お互いによく似た構えで両手で持った剣を切先を相手に向けて肩の上で構えている。

 そこから先に動いたのはダークナイトだ、剣を上方に振りかぶると一気にアルベリーコの肩を目掛けて振り下ろす、これは本来の両手剣の戦い方では禁忌とされている、重い両手剣を上から下に振り下ろすのは体力を無駄に消耗すると言う事だからだ、その為に両手剣は左右に払うのが本来の定石だ。

 だが、ダークナイトはその定石を無視して剣を振るう事ができる、その為に剣技と体幹を鍛え上げているからだ、ダークナイトはこの戦いを一瞬で終わらせるつもりで剣を振り下ろしたのだった。

 振り下ろす剣の速度は左右に振り払う動きで止められない、アルベリーコは剣を弾かれてそこで勝負ありとなるつもりだった。

 しかし、アルベリーコはダークナイトの剣筋を読むとそれより速い動作で、一度振り下ろした剣を跳ね上げて、ダークナイトの剣を受け止めた。更に今度はそのまま振り上げた剣を振り下ろしダークナイトの肩を狙ってくる。

「面白い」

 ダークナイトは先程のアルベリーコと同じ動きでその剣を受け止めた……その瞬間に二人の木剣は両方共折れてしまう。

 二人は同時に木剣を手放すと、拳を固めて殴り合う、お互いが一発ずつ殴った所で、二人の間に

アイスランスが打ち込まれて二人は後ろに下がった。

「両名とも控えてください、皇帝陛下は剣技の勝負を命じられました、殴り合いの勝負ではありません」

と諭すウィリアムに二人とも、冷静さを取り戻して、ユーグに一礼をした。

「すまん、つい熱くなった、アルベリーコ卿、見事な腕だ」

「いえ、こちらこそ、まさか私と同じ剣技を使える方が居るとは驚きました」

と二人は握手を交わした。

「両名とも見事、勝負は引き分けという事で良いな、ではこれにて解散、皆の者大義であった」


 この後二人は肩を組んで酒場に行き、お互いの剣技についての話で盛り上がり

「……何と、すると貴殿のお父上はその剣技を戦場で身につけたと?」

「はい、父はその半生をサラセン人……こちらではアラブ人と言うのでしたね……との戦いで過ごしておりました、私は幼き頃に父よりこの剣技を教わりました」

「そうか、俺の剣は我流、俺も皇帝陛下に従って戦をする中で、この剣技を身に付けた、もし御父上がご存命なら、一度師事して見たかった残念だ」


 こうして酒を酌み交わし朝帰りをした二人だが、ダークナイト・ユーグはその妻マーリカに、アルベリーコはその母である皇后マロツィアに厳しく怒られる事になる。

「なんで、良い歳をして軽率な真似をするのか」

と二人共、同じ様に当分の間の夜間外出禁止を言い渡されて、ダークナイトは悲しそうに領地の館があるフランクフルトへ戻ることになった。

 まぁとにかくこれにより、ローマ公アルベリーコも武断的傾向の強いユーグの家臣団の一員として正式に認められる事になった。

 そして、皇帝ユーグを交えて、ヴァスコニア公、ロンバルディア公、ローマ公、それに帝都に呼び寄せられたヴェルマンドワ侯爵アルベールの五人は皇帝の執務室で旧東ローマ帝国の版図が描かれた大地図を

元に侵攻作戦を立案する事になった。


「陛下、このラインからこちら側が我が帝国領、そしてこちらが旧東ローマー帝国領になります」

そして、これが『クロアチア王国」、そしてこちらが『ブルガリア帝国』です。クロアチア王国は元々建国の王であるトミスラヴがジョルト殿の御父上と敵対してハンガリーの侵入を抑え、当時の魔法教皇ヨハネス10世により王として戴冠した国であり、当然魔法教皇に対して忠誠心を持っております、陛下がまだ西フランク王国の王子だった頃に、ヨハネス10世を誅殺した事、またこの度魔法教皇を廃止した事で魔聖ローマ帝国に対しては敵対心以外を持ち合わせていないですね」

「成程な、何とも懐かしい名前だ、あの痴れ者の名をこんな所で聞くとはな」

「次にブルガリア帝国ですが、東ローマ帝国が滅びたのはこの国との争いによるものと言う見方が正しいでしょう、追い詰められた東ローマ帝国が、禁忌の『黒死魔法』をブルガリア帝国に向けて発動させようとして暴発、これによって都『コンスタンティノープル』が壊滅、周辺の地域にも被害が広がり、現在の

『死の都』と言う状態になっています、そしてブルガリア帝国も無傷では無く、帝国領の南東『トラキア』地方とその周辺は現在も人の住める状態では無いと言う事だそうで東方進出を諦めたブルガリアはクロアチアの隣国セルビア王国、マケドニア王国、ギリシア王国と言う以前の東ローマ帝国領を制圧して更に西側に侵攻を計っていると言う状態ですね」

「流石だな、この短期間に良くこれだけ調べられた物だ」

「は、ありがとうございます、アラブの商人達が多数ボルドーに訪れる様になった為に情報収集は楽になりました、一重に皇帝陛下の御威光の賜物かと存じます」

「そう言う事なら、当然最初はクロアチア攻略だな、どう攻める?」

ユーグはお世辞の部分はあっさりと聞き流して、続きを促した。

 まずは軍を三つに分け、一軍はルテニア王国の領地から、北西部のドラバ川を超えて、敵領内に侵入

北部の要衝『アンダウトニア』を攻略、その後東に向かいます。次にもう一軍は西部から侵攻、アドリア海沿岸の街『フィウメ』を攻略した後に東に向かいます。

 そして三軍目はアドリア海側から、敵の王都である『ニン』を攻略、この時に前途の二軍が敵の主力を

釣り出しておけば、王都の陥落は間違いありません。その後はアドリア海沿岸の各都市を落とせば良いかと」

「成程、見事な策だな、それで誰が何処を攻める?」

「では、最初の軍は私が」

と手を挙げたのはアンリだ。

「そうですね、機動力が要求されますので、ロンバルディア公が適任かと」

「ならば海は私ですね、アドリア海は我らの庭、お任せいただきたく」

とローマ公アルベリーコも手を挙げる。

「そうなると我らは自動的に中央と言う事になりますね、陛下これでいかがでしょうか?」

「良いだろう、ただ我らが、クロアチアに侵攻したとすると、ブルガリアも手を拱いている筈は無いな、

漁夫の利を得ようと西進してくるのはまず間違い無いな、ではそれは私が抑えよう、それで良いな」

「は、皇帝陛下の御心のままに」

 これで軍議は終了して、あとは春、三月を待つばかりとなった。


 魔法歴937年最初に軍を動かしたのは、南のヴァスコニア公サンシュだ、サンシュは新たに編成が終わった魔法騎士20000とその他の兵10000の30000でボルドーを出立して、クロアチア王国との国境近いトリエステの街からそのまま東進して国境を越えた。

 ロンバルディア公はやはり30000……ヴェルマンドワ侯爵アルベールの10000を含む……で公都ミラノを出撃、そのままルテニア王国の都市グラデツを経由してドラバ川を超えた。

 ローマ公アルベリーコは『ヴェネツィア』に20000の軍と1000の艦船を用意して待機をしている。


 戦端を最初に開いたのは、サンシュの方だった、アドリア海を望む小村『カスタブ』で、魔聖ローマ帝国軍、国境突破の第一報を受けた、近隣の領主の連合軍3000と相対したのだ。だが30000の軍を3000の兵、しかも騎士と農民兵のみで迎撃できる筈も無く、サンシュの軍はそのままカスタブを抜けて『フィウメ』を目指す。

 初代国王トミスラブの息子である、クロアチア国王トルピミル2世に率いられた20000のクロアチア軍は迎撃の為に王都『ニン』からカスタブに出撃しようとしたその時に、北部の要衝『アンダウトニア』の街が包囲されていると言う報告を受け、王は悩んだ末に、20000の軍を二つに分けると言う策を取る。 更に王都の予備兵力5000を招集して、自らは10000の軍を率いてアンダウトニア救援に向かい

フィウメには弟ムンチミールが15000の軍を率いて向かう事になる。

 トミスラブの時代には、20000の騎士と30000の歩兵、1000の魔術師に50隻以上の軍船を擁すると言われたクロアチアだったが、度重なる隣国ブルガリアとの戦争でその兵力は2/3程になっている。

 トルピミル2世の軍略は、途中の町や村落から騎兵を5人、その従者25人、魔術師5人といった具合に兵力を増やしつつアンダウトニアを目指すと言うもので、アンダウトニアの街が到着まで持ち堪えてくれれば、魔聖ローマ帝国軍を背後から攻撃可能と言う物だ。

 事実、数年前にブルガリア帝国の侵略の際にはこの方法で、敵を撃退している。

トルピミルの軍がアンダウトニア付近に着いた時にはその兵力は20000近くになっている。

だが、その時既に街には魔聖ローマ帝国の旗が翻っていた。

「どういう事だ、もう街が落ちただと?」

愕然とするトルピミルに待ち構えていた、ロンバルディア公アンリの魔法騎士部隊が突撃をかける。

「防御陣、魔術師防御魔法を」

とトルピミルは指示を出したが、防御魔法はあっさりと突破されて、攻撃魔法が全軍に降り注ぐ。

「こ、こんな事が……」

クロアチア国王トルピミル2世の呆気ない最後だった。


 そしてこれは、フィウメの村を救援に向かったた王弟ムンチミールの軍も同様だ。

占領したフィウメの村を背後に円錐系に整列して待ち構えるヴァスコニア公サンシュの魔法騎士の軍に対して、自軍を定石通りに横陣に展開し攻撃を指示をする。

「なんだ、あの陣形は敵は戦い方を知らんのか」

と魔聖ローマ帝国軍の陣形を嘲笑したムンチミールだったが、前進を始めた魔法騎士達に味方の陣があっさり突破分断されて愕然とする。

「なぜ、こちらの魔法攻撃が効かない、敵はどうやって防護魔法を展開しているんだ」

と現実を理解できないまま、一方的に攻撃されて兄王同様に最後を迎える事になる。


 先史時代から続いていた野戦の常識であり、ある意味マナーでもあった、戦場で両軍が横陣で対峙すると言う戦い方は、魔聖ローマ帝国の魔法騎士の出現によって完璧に過去の物になっている、ただそれを他国の王も将軍達も知らないのだった。

 旧来の戦い方しかできないクロアチア軍に対して魔聖ローマ帝国軍は正に『熱したナイフでバターを切る』様に敵の前線を分断して壊滅させていった。

 王と王弟と幕僚たる貴族や領主達、ほぼ全ての軍を失ったクロアチア王国は、満を持して出撃したローマ公の軍がアドリア海を横断して、もはや兵力の無い王都『ニン』に海側から押し寄せた事に全く抵抗できずに、王都は簡単に占拠されて王宮には魔聖ローマ帝国の旗が翻る事になった。更にローマ公はアドリア海沿いの港湾街全てを攻撃して占拠降伏させた。王族と貴族、主要な街をわずか数週間で全て失ったクロアチア王国はここに消滅したのだった。

 王都ニンの魔法大教会大司教の名で出されたクロアチア王国各地の魔法教会、魔法修道院への通達によりこの事を認識した生き残ったクロアチア各地の領主や貴族達は、魔聖ローマ帝国皇帝ユーグに臣従する事を誓い、それぞれが領地の兵を率いて、ブルガリア帝国との国境地帯に赴く事になった。


 一方でブルガリア帝国も隣国が魔聖ローマ帝国に飲み込まれるのを傍観している訳では無い、皇帝シメオン1世は自ら50000の兵を率いて帝都『プリスカ』を出陣、旧セルビア王国の王都だった『ベオグラード』の近郊まで進軍している。

「クロアチアの戦況は?」

「間者達の報告では、既に王都は陥落、クロアチア王国は事実上消滅した模様です」

「なんとも不甲斐無い、もう少し粘ると思ったのだがな、仕方が無い、このまま前進して国境を突破

クロアチア領をなるべく多く占拠せよ、その上で魔聖ローマ帝国と休戦交渉に持ち込むのだ」

 配下の将軍達を幕舎に集めて、軍議を開いていたシメオン1世は、自分達が既に魔聖ローマ帝国皇帝ユーグ自身によって監視されている事に全く気がついていない、そしてその夜、季節外れの落雷が皇帝の幕舎に落ち出火、火は野営地全体に燃え広がり、夜間だった為に就寝中だった皇帝以下主たる幕僚や将軍が全員焼死、50000の軍は四散してしまうと言う事件が起こる。

 この時ベオグラードでは星明かりの中で、四人の人型の何かが中に浮いていたと言う目撃情報があり

皇帝は『死の都』の使いに殺されたのでは無いかと言う噂がたったと言う。


 皇帝とその幕僚を事故で失ったブルガリア帝国は、皇帝の弟ゲオルギを急遽即位させたが、この事で国内は分裂して、内乱状態となる。

 そこにクロアチアを制圧した、魔聖ローマ帝国軍が旧セルビア王国、旧マケドニア王国、旧ギリシア王国に侵攻、何も対応できないままに制圧され、魔聖ローマ帝国軍はブルガリア帝国本国の西の要衝である

『セルディカ』の街で合流して、100000の大軍となる。

 この時侵攻軍の前衛となったいたのは、魔聖ローマ帝国皇帝ユーグに臣従を誓った旧クロアチア、セルビア、マケドニア、ギリシア各地の領主や貴族達とその兵士達だ。

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