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第三章 悲劇

第三章 悲劇


 魔法歴923年 一度はロタリンギアに逃げた廃王シャルル3世が、ロタリンギアの地で兵を集めて挙兵する、腐ってもカロリング家だ、イタリア王国(旧中央フランク王国)や、東フランク王国の一部の諸侯も加わった軍は一万を超える、その軍が城砦都市ソワソンを狙っているとの一報が入る。

 ちなみに、イタリアとは美と愛と豊穣の女神ウェヌスに捧げられたイタロス(仔牛)が語源で、肥沃で豊かな土地と言う事だ。


 父、ロベール1世は直ぐに麾下全軍を出陣させる、ユーグもネウストリア辺境侯として自領であるソワソンの防衛の為に出陣をする。

 六月になって、両軍はソワソンで開戦する

「さて、敵にはどんな魔術師がいるのかな」

とユーグは余裕だった。

 ソワソンの街は城塞都市として、既に要塞化されている。物資も食料も数ヶ月分は蓄えられているので、防衛側は城壁と城門を守れば良いだけだ。

「我らの出番はありますかな?」

とユーグに話かけてくるのは、引退したアンリに変わって、騎兵の指揮を取る義兄のブルゴーニュ公ラウルだ。

 ラウルも都市防衛戦におけるユーグの戦績を良く知っているので、負けるとは思っていない。

更に、この街に国王となったロベール1世の本営が置かれて、カペー家の誇る魔術師部隊が既に到着しているのだ。

 接近する敵の部隊にユーグ率いる魔術師達が、それぞれの魔法で遠距離攻撃をかける。

ユーグが一から教えた若手の魔術師達は、ユーグ程の威力は無い物の全員が魔法での遠距離攻撃ができる様になっている。

 更にこの中には、ノース人のノルマンディ公の子息ギョームも居る、彼は当初は人質としてユーグに預けられていたが、氷魔法の才能と剣の才能の二つに恵まれていた事から、ユーグは弟子として、自身の編み出した『魔法剣技』を伝授したのだった。

 一般の魔法の射程は弓や弩級よりは短いが、防御魔法で矢を無力化できるので、敵の攻撃が当たらない。敵は城壁に取り付く間も無く撃退されると言う、ユーグにとってはいつもの戦いと同じ状況だった。

「おかしい」

「ユーグ卿、どうかされましたか?」

と声をかけてくるのは、もう一人の姉アデルの夫であるソワソン伯の称号を持つ義兄エルベールだ。

「義兄上、どうも敵の動きがおかしいのです、廃王の軍にはかって私と共に戦った者もいます。私の戦い方は熟知しているはず、この様に無策に突入してくるとは思えないのですが」

「確かにそうですな、ふむ?……エルベール卿、もしや、この街に続く裏街道などがあるのですか?」

とラウルが言う。

「街を流れるエーヌ川沿いなら……しかしあの川はそれなりに流量がありますから」

「それです、敵に氷魔法と土魔法の使い手が居れば、川は道になります」

「では、こちらは陽動で敵は、エーヌ川から街に向かうと?」

「ラウル義兄上、ここの指揮をお願いいたします、ギョーム、魔術師部隊の指揮は貴様に任せる」

とユーグは愛弟子のギョームに魔術師達を任せて、義兄エルベールとその手勢を引き連れて街の北東に向かう、そして氷魔法で川の水を凍結させて、土魔法でその上に土を撒き軍勢が川を歩ける様にして、川を遡っていく。

「驚いた、川をこの様に進めるとは」

「義兄上、頭を下げて河岸に上がってください、敵が居ます」

ユーグが指を刺すと、150メートル程先で同じ様に川を渡ってくる敵の軍勢、2000程が見える、魔術師は10人程の様だ。

「義兄上、魔術師と敵の前衛は引き受けます、残りをお願いできますか?」

「もちろん、任せてもらおう」

 ユーグは更に改良した炎の絵画魔法を発動する。以前は数体の炎の狼だったが、今は三体の巨大な竜を描ける様になっていて、その威力は最強の炎魔法を遥に上回る。

 川を凍らせながら進む敵の魔術師とその後に続く騎兵と歩兵に向けて魔法を放つと、500名以上が炎に

包まれて消滅した、これだけ強力な魔法を放ってもユーグのエーテルはまだまだ余裕がある。

「全軍、突撃!!」

ソワソン伯エルベールは、河岸に居る残存の敵軍に騎兵で突撃をかける。

 不意を突かれた敵軍は、一気に崩壊して散り散りに後退して行く。

「ユーグ卿、我らはこのまま追撃をする」

と血気盛んなエルベールはそのまま進軍をしていく。

 この時敵軍は都市正門への陽動部隊兼主力部隊に7000名を当てて、残りがこちらの部隊になっている

その前衛2000が崩壊した事で、敵は残り1000名以下になってしまっている、そして廃王は自らこの作戦を考案した事で、こちらに居るのだった。


 その頃市内では不思議な事が起こっている、数日前まで元気だった市民や将兵達が、突然病死してしまうと言う事態だ。

「どういう事ですか、水や食料に毒でも仕込まれているのですか?」

「いえ、錬金薬で事前に毒を調べておりますが、その様な事は」

「ここ数年、この街も近郊も疫病の発生もありません、いったいどう言う事でしょうか?」

 王の本営でもこの事を重要視して王妃となったユーグの母大魔術師ベアトリスを中心に錬金術師と回復魔法師達が、原因と対策に追われている。

「回復魔法が効かない?」

「はい、原因がわからないので対処ができないのです」

と言う深刻な事態になっている。

しかも最悪な事に、ロベール1世まで病に倒れてしまう事になる。


 ユーグとエルベールの部隊が捕虜とした廃王シャルル3世を引き連れて「ソワソン」に帰還したのは

そんな時だ。

 廃王シャルル3世は、病床のロベール1世と謁見すると、高らかに勝利を宣言した。

「見よ、これが簒奪者の末路だ、ローマから招いた『黒魔術師』の力を思い知ったか」

「ふん、囚われの身で良く言うわ、ここでその首を落としてやろう」

とエルベールが剣を抜く、ユーグはそれを止める。

「その黒魔術師とやらはどこに居るのです?、そうしたら命だけは助けましょう」

そう言うと、シャルル三世は少し躊躇ってから、天幕の中に居る一人の侍女を指差した。

「その女を捕らえよ」

と母が衛兵に指示をする、そして

「魔法を解除しなさい」

と命令するが、侍女として入り込み、メアリーと名乗っていた『黒魔術師』は

「できません、一度発動した『黒死魔法』は解除できないのです、病を治す方法もありません」

と言い放つ。

「まさか、あなたはあの禁忌の『黒死魔法』を使ったの、なんて事を」

と母が天を仰ぐ。

「母上、黒死魔法とはどんな魔法なのですか?」

「その昔、ローマ帝国が東西に分かれたのは知っているわよね」

「はい、我らの国はその西ローマ帝国を後継すると言う事ですね」

「そう、そして東のローマ帝国は西の帝国が滅びた後もしばらく存在していたの、そして突然消滅してしまった」

「消滅ですか?」

「そう、皇帝で大魔術師『コンスタンティヌス1世』の名前を取った都『コンスタンティノープル』から

原因不明の疫病が広まり、住民がほぼ全滅してしまったのよ、その時この疫病を引き起こしたのが『黒死魔法』だったと後でわかり、それ以降『黒死魔法』は禁忌とされていたはずなの」

「あなた、ローマの魔術師よね、まさかローマでは禁忌を学ぶ事ができるの?」

 と母はあくまでも大魔術師の一人として冷静にメアリーに問いかける。

「『魔法教皇』様は、簒奪者ロベール1世を国王とは認めていません、正統な王シャルル3世を排除した西フランク王国は滅ぼしても構わないと仰り、黒死魔法の使用を認めたのです、魔法教皇様に許しを乞い忠誠を誓えば、教皇様の力で魔法の効果から逃れる事ができます」

と堂々と言い放つ、この頃の魔法教皇はイタリア出身の大魔術師のジョヴァンニ10世だ。

「黒死魔法は解除できないのでは無いのですか? それなのに教皇はどうやって魔法を解除するのですか?」    

 ユーグは素朴な疑問をメアリーに問うと、

「教皇様は全ての魔法に通じています、教皇様に不可能な事はありません」

と言う答えが返ってきた。

「ユーグ殿、これはダメですね、話が通じ無い狂信者の様ですな、首を刎ねましょう」

と言うエルベールだ。

 そこで父が言葉を発す。

「父上」

父はまだ意識はあるが、顔色は悪く、体の一部は既に黒く変色している。

「その者を火炙りにせよ、そして廃王シャルル3世はどこかに幽閉しておけ、二度と表に出すな」

と言うと、意識を失った。


 ユーグ達は街の中心の広場に、火刑用の台を設置して、禁忌の『黒死魔法』を使った重罪人としてローマの魔術師メアリーを処刑した。

 これは明らかにローマの魔法教皇ジョヴァンニ10世への宣戦布告になる。


 この時、炎に包まれるメアリーの衣服の下から逃げようとして、叶わず一緒に焼かれる多数の鼠の姿が異様だった。錬金術の本に鼠は疫病を広めると思われるとの記述がある事をユーグは思い出した。

「そうか、そう言う事か」

 魔法には、攻撃魔法や回復魔法の他に生活魔法と言う物もある、その中に家畜を操る魔法がある、犬や猫、馬や牛を思う様に操る魔法だ、つまり『黒死魔法』とは、特定の疫病を鼠を操って流布する魔法だと言う事だろうとユーグは推測した。

 鼠は当然この世界でも害獣だ、その為に生活魔術師として鼠の天敵である『猫』を操る魔術師が多数存在する、ユーグは各地から生活魔術師達を多数集めて、「猫」達に鼠を狩らせた。そして、猫が狩って来た鼠は全て火の魔術で焼却処分にした。

 これによってユーグは『黒死魔法』の厄災からソワソンの街を救った事になるが、残念な事に父ロベール1世はそのまま意識が戻らず、逝去してしまう事になった。


 空位となった西フランク王国の王位を、諸侯達はユーグに継承する様に求めた。

だがユーグはそれを断る。

「父を殺したローマの魔法教皇を許すわけには行きません、私は自分の持つ力全て賭けて教皇を倒します、その事に国を巻き込む訳にはいきません」

と宣言して、父の後継者には義兄のブルゴーニュ公ラウルを推薦して、諸侯がそれを認めた事から。

ラウルは魔法歴923年ソワソンのサン・メダール魔法修道院で即位した。

 この時、もう一人の義兄のヴェルマンドワ伯エルベールは廃王シャルル3世をペロンヌの城に幽閉し、シャルルは3世はそれから数年後に黒死病で獄死した。獄中で鼠の蚤に喰われた事が原因らしいと言う事だ。


 義兄の戴冠を見届けたユーグはパリに戻り、更に自身の剣技と魔法を研鑽しながら、自らの軍団の増強と強化に励む、ローマの魔法教皇と対決する為に、ローマに行くのにはイタリア王国と名前を変えた中部フランク王国を通過する必要がある、だがイタリア王国の諸国が黙って通してくれるとは限らないからだ。

 そして、ユーグはパリ近郊の各地の魔法修道院や魔法教会を反教皇派として纏めて行く。


 そんな中、魔法歴924年ラゲノルドに率いられたノース人が、今度はブルターニュ地方からロワール川を遡り侵攻してくる、ユーグは国王ラウルに加えて更にノース人であるノルマンディ公ロドルフとも共闘してノース人を撃退している、ヴィキングの英雄としても知られるロドルフは、この後魔法歴933年に死去するまで、ユーグの麾下でヴァイキングと戦い、更に西フランク王国に反旗を翻したブルターニュの貴族と戦う事になる。


 そして翌年ユーグは満を持して、自分の軍をイタリア王国へ向けて進撃させる事になる、騎兵15000、歩兵5000、魔術師200と言う、当時としては圧倒的な大軍でパリを出て途中の街、リヨン(ローマ時代のガリア属州植民市ルグドゥヌム)を経て、キスユラブルグント王国に侵入する。

 この行軍の途中にも、教皇派の貴族や教会、修道院を討伐して、ユーグに忠誠を誓う貴族や修道士に統治を委託しながら進軍を続ける、そして、教皇側のキスユラブルグント王国の摂政とイタリア王国の国王を兼任するウーゴ・ダルルスと対峙する事になる、首都アルルを大軍で包囲したユーグは歴史上初めて、魔術師を前面に押し出した城塞都市攻略戦攻を開始する。それはこれまでの、攻城戦や対城塞都市戦とは全く違う戦法だった。

80人の魔術師達が交代で四つの属性の魔法障壁を展開しながら、障壁に守られる形で全軍が前進する。

 都市内からの投石機や弩弓の矢を完全に防御して、こちら側の魔法の射程まで接近すると、温存していた攻撃魔術師が、一斉に城門と城壁に向かって魔法を放つ、これまで自領の城や砦の城門や城壁で

何度も訓練を重ねた結果、この攻撃に耐えるのは、攻撃側と同数以上の魔法力も同程度の魔術師が防御側に存在しないと不可能だと既にわかっている。そしてアルルには、数十人の魔術師しか居ない事も事前にわかっていた、一瞬で城門とその周辺の城壁を破壊された守備側は、雪崩こむ15000の騎兵によって一方的に蹂躙されて、ウーゴ・ダルルスも逃亡する事も叶わず、わずか数時間の戦いで首都アルルは制圧された。

 捉えられた中にはウーゴ・ダルルスの他に盲目のキスユラブルグント王国国王ルイ3世も居たが、教皇側の魔術師達と共に、禁忌の『黒死魔法』を使った背教者で重罪人の魔法教皇ジョヴァンニ10世に与した罪で全員斬首刑とされた。

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