表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

第二部 第十七章 コルドバ帝国滅亡

第二部 第十七章 コルドバ帝国滅亡


 マジェリトの街で数日の休養後、魔聖ローマ帝国軍は皇帝ユーグの指揮の元、帝都コルドバに向かって

進軍を開始した、この時負傷して捕虜になっていた、コルドバ帝国総司令アバン・ブン・アブド将軍は静かに息を引き取り、皇帝ユーグは名将の死を帝国公爵の格式で弔った。

 この事は街に残っていた、ゴート人の旧コルドバ帝国軍将兵に大きな感銘を与え、彼らは志願兵として参陣する事になる、ゴート人はウマイヤ帝国以前にイベリア半島を支配していた民族で、200年程前には西ゴート王国と言う国が存在していた、そしてゴート人もまたユーグ達フランク人と同じゲルマン民族の末裔なのだった。


 マジェリトからコルトバまでは途中いくつかの街を経由して、通常の行軍速度なら一週間以上の距離になる。全軍で80000を超える魔聖ローマ帝国軍は、悠々と行軍し、途中の街や村は白旗を掲げ、ある街ではどこで入手したのか魔聖ローマ帝国旗を掲げて一行を歓迎した。

「国が滅びると言う事はこういう事なんだろうな」

ユーグは馬車の中で皇妃達にそう呟いた。

「そうですね、どこの街や村でもコルドバ帝国皇帝への不満ばかり聞こえてきます」

「私も戦争に負ければこうなるのかな?、そう思うと少し寂しい思いではあるな」

「陛下は善政を行い、臣民に慕われておいでです、その様な事はありません」

と三人に慰められた。

 実際コルドバ帝国の失敗は、無理な領土拡張政策の結果魔聖ローマ帝国の領土に侵攻した事による、

それがなければ、アストゥリアス王国を滅ぼしイベリア半島全域をその支配下に置けただろう。

だが、そもそもコルドバ帝国が魔聖ローマ帝国領ガリア地方に侵攻したのは、帝国内の人口の増加に食料の生産が追いついていなかった為だ、これは中東でコルドバ帝国の前身のウマイヤ帝国を滅ぼしたアラブ人の国アッバース帝国が、ペルシア人の新興勢力のブワイフ帝国に圧迫された事で大量のアラブ人がジブラルタル海峡を超えて押し寄せた結果でもある。


 コルトバまであと一日と言う所で、斥候に出ていた騎士が戻って来た。

「皇帝陛下に申し上げます、コルドバの街にも白旗が掲げられています、コルドバ帝国のアッラフマーン3世は一族を連れて、南東の街『エルビラ』に逃亡したとの事です」

「そうか、ご苦労だった」

「敵の皇帝逃げたんですね」

ルクレチアがそう言う。

「素直に降伏すれば命は助けてやるのに、往生際の悪い奴だな」

「あら、そうなんですか?」

「ああ、街の一つ位は残してやって生活できる様にしてやろうと思っていた」


 魔法歴936年新春、魔聖ローマ帝国軍はコルドバの街に入城した。この日を持ってコルドバ帝国は滅亡した事になる。

 この当時のコルドバの街の人口は50万人を超える、それに比べて、帝都『ユーグウルブス』の人口は約40000、魔聖ローマ帝国最大の街パリでも50000人だ、いかにこの街が巨大かその事からもわかるだろう。

「これは、またもの凄い街だな、残念ながら我が帝国のどの街より素晴らしい、帝都もこの様な街にしたい物だ」

「本当ですね、凄い規模ですね」

 街路は広く、街の中心に巨大な拝火教の大聖堂が鎮座している、この建物だけでもパリのノートルダム(ユピテル)大聖堂の数倍の大きさだ。そしてその横には、見事な庭園を持つ皇帝の宮殿がある。

 街中の街路や主要な建物には、先遣隊が掲げた魔聖ローマ帝国の旗が掲げられ、市民達が不安そうな表情で、街路を行進する魔聖ローマ帝国軍の軍団を眺めている。


 意外な事だろうが、我々の世界でもこの世界でも、10世紀は中東圏の方が、文明、文化、技術、芸術全ての面でヨーロッパより進んでいるのだ、彼らからしてみると、ヨーロッパの各国は文明の劣る蛮族の国に等しいのだ、それゆえアッラフマーン3世は野蛮な(と思っている)魔聖ローマ帝国軍を恐れて逃げ出したのだった。

 占拠した大聖堂を仮の玉座とした皇帝ユーグは、エルビラの街に逃げた皇帝とその一族の捕縛を、アキテーヌ公アンリに命じ、ロタリンギア公エルベールには、旧コルドバ帝国の西方の領域の制圧、ヴァスコニア辺境候には南方の領域の制圧を命じ、コルドバの街は皇帝直轄領とする事を宣言した。


 占領から数日経つと市民達も落ち着きを取り戻し、市場には商品が並び、酒場や飯屋は兵士で溢れる様になってくる、ユーグも目立たない普通の服装で皇妃達を日替わりで連れて、市内を探索している。

「しかし、この街の料理は美味いなぁ」

「そうですね、スパイスが効いていて、彩りも鮮やかで」

 文化……料理の分野でもこの頃は中東アラブ圏の方がヨーロッパより進歩していて、数々のスパイスや

まだ、食べた事の無い野菜や果物もこの街には溢れているのだった。

 何しろ当時のヨーロッパの食事は皇帝でも、塩を振って焼いただけの肉に、パン、豆や玉葱、大蒜、人参、ケールなどを煮込んだスープ程度しか食べていなかった。

なので、ユーグは遠征に同行しているコック達を呼び寄せて、この地の料理を修行させている。


 そしてユーグがこの街で一番驚いたのが『大図書館』だ

図書館は古代アッシリアで粘土板の公文書を保存した場所が最初と言われている。

その後古代ギリシアや古代ローマにも図書館は存在したが、やがて魔法教会・魔法修道院が設立されると

書物はこちらで管理される様になる、また公文書は王の宮殿に保存される事になり、フランク王国では

図書館という概念がなくなっていた。

 だが、この街の大図書館には、歴史書、魔法書、地図、文学、宗教書、数学、天文学等全ての分野の本が揃っている、しかも殆どの本がヨーロッパではまだ貴重で殆ど出回っていない『紙』に書かれている、この頃の魔聖ローマ帝国では公文書もまだ『羊皮紙』を使用するのが普通だった、更に主要な本はギリシャ語、ラテン語、アラビア語と様々な言語に翻訳されている。

「うーん、これは本当に凄い!!」

 感銘したユーグはそれから、毎日の様に図書館で魔法書を閲覧している、中にはユーグが初めて見る、古代の魔法書が山の様にあるからだ。

「これは皇帝陛下、何かお調べ物ですか?」

と声をかけられた、誰かと思って顔を上げると、アラスター・オールバンズ男爵がユーグと同じ様に山の様な書物(巻物)を抱えている。

「オールバンズ卿か、貴殿も来ているとはな」

「はい、ここは私の様な人間には宝の山でございますから、いやこれ程の書物があるとは夢の様です、それに陛下はアラビア語やギリシャ語もお読みになられるのですね、感服いたしました」

と言う、確かにユーグはラテン語以外の魔法書を読んでいる、だがこれはユーグが『大天使ラジエル』から授かった『ソロモンの指輪』の加護のおかげだ、この指輪の力でユーグは殆ど全ての言語の書籍を読む事ができるのだった。

「そう言う卿こそ、これがアラビア語だと良くわかるな」

と聞くと

「はい、航海術はアラビアが一番優れておりますので、と彼は腕に抱ええている巻物を大事そうに抱え直した」

「オールバンズ男爵、明日私の元に出頭しろ、卿に任せたい仕事がある」

「は?仕事ですか、かしこまりました」

とアラスターは少し嫌そうな顔をしている。ユーグはそれを無視して読書に戻った。

何しろ、失われていたと思われていた幻の魔法書『天使と悪魔を使役する方法』を示した魔法書、いや魔導書のアラビア語版を発見したからだ。

「(なるほど、正確には光の魔法と闇の魔法を使うと言う事なのか凄いな、光の魔法は治癒魔法の上級魔法

、闇の魔法は例の『黒魔法』の上級魔法と言う事か、それが天使や悪魔の力に見えると言う事なのか)」

と納得した。

 特に光魔法の『浄化魔法』は疫病や毒に対して効果がある様で、ユーグはすぐにでも実際に魔法を発動させてみたくなる。

 

 翌朝、出頭したアラスター・オールバンズ男爵に対して、ユーグは

「貴兄を帝都『ユーグウルブス』の『大図書館』建設の責任者にする、合わせてこの街の図書館の蔵書全てをラテン語に翻訳して新たな大図書館の蔵書とせよ、人手も費用も卿に一任する」

「は? はい、かしこまりました、そう言う事でしたら喜んで全力で仕事に充たらせて頂きます」

アラスターはそう言って一礼をして去ろうとしたが

「それともう一つ、卿をハイデルベルグ伯爵に任ずる、期待しているぞ」

と皇帝ユーグに言われて驚愕する、アラスターは、ユーグの元では武人しか重用され無いと思い、男爵位を得た事で満足していたからだ。

「ありがたき幸せ、このアラスター命に変えましても」

と大袈裟な礼をして、皇帝の御前から退出した、向かう先は親友のブライス・ユーグポルトゥス伯爵の宿舎だ。

 詳細を聞いたブライスは自分の事の様に喜んだが

「しかし、大図書館の建設とは……どうも俺には全く想像がつかん、頑張れとしか言えんが、何か手伝える事があったら言ってくれ」

とだけ言う。


 それから一月程して、旧コルドバ帝国領各地の平定に向かっていた、各公爵の軍団が続々と凱旋して戻ってきた。

 それぞれ、帝国に臣従を誓う各地の領主達を引き連れての帰還だったが、アキテーヌ公アンリだけは浮かない顔をしていた。皇帝一行は『エルビラ』から更に地中海沿岸の街『マラカ』へ逃走した後、逃げられないと観念したのかそこで全員自決して果ててしまったからだ。

「皇帝陛下、申し訳ありません、皇帝アッラフマーン3世を捕えよとの仰せでしたが、叶いませんでした」

と、ユーグの前で片膝を突いて頭を下げた。

「そうか、死んだか、どの様な人物か一目見てみたかったのだがまぁ良しとしよう、皆ご苦労だった、皇帝が死に、各地も平定された事で、長き遠征の旅も終わりだな、これより各軍団凱旋帰国をせよ、そしてその後帝都ユーグウルブスで此度の戦の恩賞を与える物とする、良いな」

 ユーグはの自分の親衛隊から5000、他の軍団から5000を集めて10000の守備隊とし、親衛隊長のアンハルト侯爵を総督代理に任じて、皇帝直轄領となったコルドバの街の防衛に当たらせる事にした。

 それぞれ自分の領地に帰還する事となった各軍団は、それから数日の間に隊列を整えて進発していった。

「さて、我らも戻るか」

 ユーグは帰路もレオンを通り、ヒホンの街から海路で戻る事にした、コルドバからヒホンまでは、三週間程の移動距離になるが、既に戦闘は終わり、季節もこれから暖かくなるので、のんびりと風景を楽しみながら戻る事になると思っていた。


 だが、その気楽な旅はアストゥリアス王国領に入った所で、突如終わりを告げる。

隊列が街道沿いの街『サルマンティカ』近くに差し掛かった時に、ユーグの乗る戦闘馬車に向かって、

矢が打ち込まれたのだ、行軍中は戦闘馬車の周囲には常に皇妃達が交代で風魔法で空気の防御壁を展開している、なので数十本の矢は、全て無効化されて、馬車は全く無傷だった。

 だが、更に行軍の先頭に居る、カスティーリャ伯ガルシアの部隊が同士討ちを始め、その内の数十名が

ユーグの馬車に抜剣して近づいてくる。

 全ては、魔聖ローマ帝国と皇帝ユーグ、それに従うカスティーリャ伯ガルシアを排除しようとする、

アストゥリアス王国の元王妃アドシンダの扇動による物だった、ユーグが親衛隊の半分をコルドバ守備の為に残した事で好機と判断したのだろう。

 カスティーリャ伯が率いていた部隊の内1500名の先代国王ラミロ2世の元親衛隊騎士達がそれに呼応して、今回の襲撃を引き起こした事になる。

 だが、たかが1500名の騎兵と数十人の弓兵程度では、ユーグの親衛隊5000と三人の皇妃の敵では無く、ほぼ全員が討伐され、指揮官初め数人が捕縛される事になった。

「おのれ、国を売り渡した国賊め、天罰が降るぞ、インフェルヌム(地獄)へ堕ちろ」

と反乱部隊を指揮したカルロス・ヒロン男爵はガルシアに毒つく。

「バカな、皇帝陛下は国を滅亡から救ってくださった大恩人、その陛下に弓を引くとは貴公達正気か?」

とガルシアは言うが男爵達は聞く耳を持たなかった。

「そうか、地獄か、ヒロン男爵だったな、では希望通り地獄に落としてやろう」

ユーグは、そこで覚えたての闇魔法を発動する『ハデス・ニグラフラマ』だ。

 これは魔法を発動したユーグからは男爵が黒い焔に包まれた様に見えるが、他の者からは、男爵がディアボルス(悪魔)達に生きたまま食い尽くされる様に幻覚が見える、精神的に効果のある魔法だった。

男爵が消滅したのを見た反乱部隊の士官達は恐怖に包まれ失禁をしている者も居る。

「正直に白状すれば命だけは助けてやろう、誰が首謀者だ?まだ子供の国王ではあるまい」

「アドシンダ王妃陛下です」

 恐怖に駆られた彼らは全員で口を揃えて白状した。

「愚かだな、その女は自分と息子、国の処刑命令書にサインしたのだな」

「皇帝陛下、せめてオルドーニョ陛下の命だけは……」

と、皇帝の慈悲を願い。甥の助命を願ったガルシアだが、ユーグの氷の様な冷たい目で見据えられて言葉を飲み込んだ。

「全軍、これよりレオンの王宮を地上より消滅させる、続け!」

ガルシアは、怒らせてはいけない人物を怒らせてしまった愚かな王妃を呪った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ