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第二部 第十二章 皇帝の戦い

第二部 第十二章 皇帝の戦い


 対峙している両軍だが、先に動いたのはコルドバ帝国軍だ、

「ほう、歩兵が先に勇敢に攻めてくるか」

とユーグはこちらもヴァイキング兵を全面に出した。

だが、直ぐに様子がおかしい事に気が付く

「ブライス伯爵、ヴァイキング達を下がらせろ、アンハルト侯爵、防御魔法を発動」

とすぐに指示をする。

「歩兵の後方でエーテルの乱れを感知した、どうやら敵の魔術師部隊が隠れていて味方の歩兵諸共魔法で攻撃するつもりだった様だ、敵の司令官は、美しく無い戦い方をする奴らしい」

 マルムーク兵達は状況の変化を全く気にする事なく更に前進をしてきたが、周囲をヴァイキング兵達に取り囲まれて孤立する。

そして、その後方の魔術師達も、アンハルト侯爵の指揮する親衛隊の魔法攻撃によって駆逐されて行く。

「今度はこちらから行くぞ、アンハルト侯爵、親衛隊の半数を前へ、ブライス伯爵ヴァイキング達をその後に、ガルシア殿は敵が崩れたら一気に突入を」

と指示を出す、この時点で既にユーグは自軍の勝利を確信した。

 攻撃の要となる魔法騎士の魔術師部隊の威力や練度がこちらの方が遥に上だからだ。

ガルシア伯は唖然としていた、自分達をあれだけ苦しめた敵、コルドバ帝国軍の攻撃を全く受け付けず

30000の敵軍に対して、まだ半数の兵も動かして居ないのに既に圧倒的に優勢だからだ。


「ルクレチア、エディルド、ハトヴィヒ敵の司令官を捕えろ、抵抗するなら殺してもかまわん」

「はい、陛下」

 三人の皇妃達はそれぞれ宝剣を抜き、白馬で戦場を駆けて敵陣に飛び込んでいく。

「おー、まるでヴァルキュリアの様だ」

とバイキング兵達から大歓声が上がり、アストゥリアス王国の将兵達は眩しい物でも見つめる様にしている。

 ユーグの読み通り、敵は親衛隊の魔法騎士達に全く対応できずに、戦力を削られて陣形が崩壊して潰走状態になって行く。

 そんな中、チャリオットの御者が逃亡してしまい、近衛兵も失ったハカムは、戦場に孤立する事になる。そしてユーグの皇妃達三人に取り囲まれて、豪華なチャリオットから蹴り落とされて地面に這いつくばる事になる。

「敵の司令官を捕縛した!」

とエディルドが大声で叫び、それをハトヴィヒが風魔法で戦場全体に響き渡らせる。

「勝利だ!」

味方の将兵達が歓喜の声を上げる中、戦場に残っていた敵は戦意を喪失して降伏する者、武器や装備を脱ぎ捨てて身軽になり一目散に後方へ逃走する者と一気に崩れてコルドバ帝国軍は壊滅した。

 

「ルクレチア姉様、これどうします?、殺しちゃいますか?」

歩けない、馬にも乗れない肥満体の敵の司令官ハカムの処理に困った三人は、指示を仰ぐ為にルクレチアだけが、ユーグの元に戻る事になった。

「……と言う訳なんですけど、どういたしましょうか?」

 ユーグは特注の戦闘用馬車の屋根の上に立って戦況を見守っていた、ユーグの隣には即位したばかりの

アストゥリアス王国国王オルドーニョ3世が慣れない戦場の空気を感じてか顔を引き攣らせて立っている。

「何を言っている、三人とも浮遊魔法も飛空魔法も使えるんだから、浮かせて運べば良いだろう」

ユーグは笑いながらそう返答した。

「あ、そうですね、忘れてました」

「まぁ良い、誰かザモラの街には護送馬車は有るか知っているか?」

「はい、皇帝陛下」

と国王オルドーニョ3世の警護兵が答える。

「そうか、では誰かその護送馬車を取ってきてくれ、敵の司令官を捕虜にしたので乗せるからな」

「はい直ちに」

と警護兵はユーグに敬礼をして、走っていった。

「(さて、この子供の王をどうした物か、今から鍛えればそれなりになるかもしれんが、エーテル力は微々たる物だし、剣も玩具の様な剣しか持って居ない、それに問題はあの母親だ……)」

 レオンの街を出る時に、王弟カスティーリャ伯ガルシアの強い希望で王太子を同行させたのだが、それに王太子の母である王妃が大反対をして、出立が数時間遅れたのだった。剣も魔法も使えず母親に甘やかされて育った少年の王など、無用の存在にしかならない。ユーグは厳しく育てられている自分の息子達の事を思って少し安堵したが、この王のひ弱な雰囲気は、早世した甥のルイ(ユーグの姉エマとラウル王の子)とそっくりなのが心配になった。


 気を取り直して逃走して行く敵兵の行先を透視魔法で追いかけてみると。どうやら行く先は三々五々で既に軍としての統制は完全に失われている様だ。

「皇帝陛下、大勝利おめでとうございます」

と本陣に戻って来たカスティーリャ伯ガルシアは、ユーグの前で膝をついて礼をする。

 本来、ガルシアはユーグの臣下では無いのでその必要は無いのだが、魔聖ローマ帝国の圧倒的な軍事力を見てしまった今、ガルシアは自身の将来とコルドバ帝国にほぼ奪われてしまっている自分の伯爵領の為にも皇帝ユーグの臣下となる事を決断したのだった。

 「ガルシア伯、それにアストゥリアス王国の将兵達もご苦労だった、まずはこことザモラの戦場の後片付けをしないといかんな、疲れているだろうが、それが終わるまでは頑張ってくれ」

 他国の場合と違い、魔聖ローマ帝国の軍団には魔術師が多く従軍している、特に皇帝の親衛隊は全員が魔術師と言っても良い、なので、戦場での死体処理は、直ぐに行われる事になる。

 早い話が死体を一纏めにして、炎魔法で一気に灰にしてしまうのだ、当然だが味方の将兵の場合は

書記官が名前と軍功を控え、剣や鎧等は遺品として大切に保管して遺族に引き渡す事になっている。

これは、ユーグか西フランク王国の軍権を手にした時から行っている事で、戦死者の遺族には年金も支払われる様になっている。更にヴァイキング兵達は、独自の習慣があるので、それを尊重して名誉の戦死を遂げた勇者としてヴァルハラに送る葬送の儀式が行われる事になる。

 ただ敵兵の場合はそこまで丁重では無く、武器や装備を剥ぎ取られたままで積み上げられて、灰にされる事になる、コルドバ帝国の国教は拝火教であり、偶然にもこの処理方法は拝火教の物とほぼ同じだった、その為、投降した敵の将兵達は、敵の死者にも寛大な魔聖ローマ帝国に対して敬意を持った程だった。

 一方でアストゥリアス王国はゴート人の国でその宗教は基本的にローマ帝国の時代と変わって居ない

つまり、魔聖ローマ帝国と同様だった、ただこちらは魔術師の数の関係から、通常は薪を組んだ祭壇に死者を並べて火葬する方式が主流だ、なので前国王ラミロ2世だけは遺体をその様な祭壇の上に置き荼毘に付される事になる。


 城塞都市ザモラに戻った魔聖帝国軍とアストゥリアス王国軍は一日の休養の後で共同で軍議を開く、その際に捕虜とした者の中から、将官や士官をユーグは謁見する。

 士官達は殆どが、アラブ人とベルベル人だがその中に数人のゴート人も居る。

「貴殿達は、ゴート人の様だが何故『コルドバ帝国』の軍服を着ているのか?」

とのユーグの問いに彼らは

「我らは祖父の代から帝国の市民です、帝国の為に戦うのは当然の事」

と胸を張って答えた。

 イベリア半島にあった西ゴート王国がウマイヤ帝国によって滅ばされたのは魔法歴711年の事だ、それ以降ウマイヤ帝国→コルドバ帝国と変わっても支配階級は同じアラブ・ベルベル人で、ゴート人の彼らもその帝国に組み込まれていったのだろう。

 

 そして最後に引き出されたのは敗残の将ハカムだ。

 「俺はコルドバ帝国皇帝『アブド・アッラフマーン3世』の皇太子ハカム、皇族に相応しい待遇を要求する」

と肥満した身体を護送馬車に入れられたままの状態でも、尊大な態度は変わらず、悪びれる事無くラテン語でそう言った。

「ほう、皇太子とはな、我が国では古のローマ帝国以来伝わる、貴族や王族、皇族にはそれに伴う義務と振る舞いを求められる物だが、コルドバ帝国では違うのか、馬にも乗れない軍司令とは片腹痛い」

とユーグは辛辣だった。

「いずれ何かの役に立つかもしれん、死なない程度に扱ってやれ、幸い言葉は通じる様なので、尋問は

アンハルト侯爵、卿に任せる」

「は、かしこまりました、おい連れて行け」

とハカムはそのまま、他の捕虜達の元に引っ立てられていった。


 そして引き続き軍議に入る。

「物見の兵からの報告によると、ここから西部、南部のアストゥリアス王国領の敵軍は全て撤退したそうだ、東部はまだわからんが、これでアストゥリアス王国は安全だろう、我らはこれよりコルドバ帝国領に侵攻するが、オルドーニョ殿は王都レオンに帰還されるのが良いであろうな」

「皇帝陛下、その件につきましては、レオンの母上……」

とまでオルドーニョが言った所で、カスティーリャ伯ガルシアが口を挟んだ

「恐れながら皇帝陛下、国王陛下にはレオンにお帰りいただく事に賛成いたします、ですが我らは引き続き皇帝陛下と共に、敵に当たりたいと心得ます、オルドーニョ陛下、それでよろしいですな」

「あ、ああ……」

オルドーニョは頷いて顔を伏せた、これまで全て母の決定に従って来たので、自分で考える事ができないのだ。

 そんなオルドーニョを見て、普段なら

「控えろ、私はオルドーニョ殿と話している」

と怒鳴るユーグだが、ユーグは既にこの国王を見限っている、少年であっても見込みがある者は、王族としてそれなりの対応ができる物だが、オルドーニョは全ての面で不合格だった。

 コルドバ帝国を滅ぼしたあとのイベリア半島の統治を考えると、このカスティーリャ伯ガルシアは利用価値があった。

「そうか、では名残惜しいが、オルドーニョ殿とはここまでだな、道中気をつけて行かれるが良い」

と言ってガルシアに頷いた、ガルシアは国王を退席させると、兄が率いていた部隊から100人程付けて王を王都レオンまで送らせる事になった。

 

 「さて、では軍議を続けるか」

とユーグは地図を見ながらガルシアに質問する。

「ここが敵の帝都コルドバだな、そしてザモラはここ、まだ随分と距離があるが、敵の主要な街はどこになるのかな?、ガルシア伯」

「はい陛下、本来の帝国との国境線がこれです、第一はここ、南西の国境から直ぐの街『マジェリト』、ここはウマイヤ帝国の頃からの都で、宮殿や拝火教の神殿がございます、そしてここから南東の国境沿いのは『トレド』の街があり、この二つが敵の重要拠点です」

「なるほど、これが元々の国境か、随分と攻め込まれた物だな、では近い方のトレドを攻め、その後

マジェリトを攻略すると言う事で良いな」

 とユーグは参加している将達を見回す、当然誰も異議を挟む者は居ない。

「オールバンズ卿、兵糧の方はどうか?」

 突然話を振られた、アラスター・オールバンズは、一瞬自分が皇帝から質問されていると気が付かずに

隣のブライスから足を踏まれて初めて自分が呼ばれている事を自覚した。

「馬鹿、陛下は兵糧の確認をしておいでだ」

とブライスに小声で囁かれて、

「は、ヒ……ヒホン、レオンと補給ができましたので三週間は行軍可能です」

と、額に汗をかき、吃りながらも返答する。

「そうか、兵達を飢えさせるわけにはいかないので、早め早めの補給を心がける様に頼むぞ」

「は、皇帝陛下」

 ブライスの副官として遠征に参加したアラスターは海の上では航海長として実力を発揮、さらに陸上では優れた後方兵站担当士官としての才能を認められて、男爵位を授かり、幕僚の一員となっていた。


 こうしてユーグの遠征軍、22000は、トレドの街に向かって侵攻を開始する。 

途中の街道沿いには、幾つもの町や村があったが、敵兵の姿は認められなかった。

 ただ、この軍団を先導するガルシア伯の率いる2000名の将兵の内半数以上は、前国王の近衛兵だった、その中の士官数人が

「あいつ、国を売る気か、コルドバ帝国を退けても魔聖ローマ帝国に国を奪われたら何にもならないじゃないか」

と口にして居るのをガルシア伯は気がついていなかった。


「敵は焦土戦術を取る気は無い様だな」

「は、ここまでの町や村には、領民もそのまま居りますし、食料や水、酒もそのままでした」

とアンハルト侯爵は答える。

「つまり、我々はその程度の敵と思われているのか、それともまだ我々の存在に気がついて居ないのか?」

「さぁ、どうなのでしょう?陛下、私なら、従列陣の行軍が伸び切った所を側面から奇襲いたしますが」

 街道を進む軍は当然隊列が長くなる、そして隊列の最後尾には、兵士では無く職人や商人達の馬車や荷車が続いているのだった。

 先鋒と本隊を先に通らせて、兵糧を積んだ馬車を襲うのはある意味戦の定石でもある。

だからユーグは千里眼魔法を発動させて、軍団の前後左右を確認しているが、今の所敵の姿は見受けられない。

 

 この辺りに敵が居ないのは実は理由があるのだ、それはピレネー山脈を越えて、三箇所からイベリア半島に侵攻した進軍したロタリンギア公エルベール、ヴァスコニア辺境候サンシュ、アキテーヌ公アンリの

三軍に対応する為に、コルドバ帝国が総動員令を発動した結果だ、だがそれを皇帝ユーグ達は知らなかった。

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