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第二部 第十一章 ヴァイキングの王

第二部 第十一章 ヴァイキングの王

 

 イングランドでは、南部と中央部をギョームがほぼ制圧して、北部ノーザンブリアがまた抵抗を続けている状況になっている、当初はノーザンブリアのヴァイキング達もデーンロウのヴァイキングと同じ様にギョームの遠征軍を歓迎する様子だった、だが、ギョームがかってノルウェイー王ハーラル1世が追放したフロールヴの息子と知ると掌を返す、彼らにとってフロールブは王への反逆者でノルウェーの王位を狙う者だったからだ、事実フロールブは、追放後に『カレドニア』(スコットランド)西岸のヘブリディーズ諸島を手中に収めて『王』を名乗っていた、その後ブリテン島各地を略奪した後に大陸に渡りノルマンディ公となった事は周知の事実である、そして現在ノーザンブリア王を自称しているのは、ヨルヴィック(ヨーク)を王都としたエイリーク1世で、ハーラル1世の息子になる、この王はあまりにも残虐な為『血斧王』と称されて、魔法歴934年に異母弟ホーコン1世にノルウェーを追われて、ノーザンブリアに逃れて王を自称する様になったのだ、そして長年ノルウエー王位奪還の為の軍を養っていた。

 エイリークはギョーム……この頃にはイングランド風にウィリアムと名乗っている……を、自分の競争相手とでも思ったのか、敵対する道を選び、ヨルヴィック南方のウーズ川付近に7500の兵で布陣する。

 この時ウィリアムが直接指揮する軍勢は15000を超えており、しかも主力は大陸で数々の戦を戦った歴戦の軍だった。これに対してエイリークの軍勢は旧態依然のヴァイキング軍で、魔術師も10人程度しか居ない。

「ギョームの小僧を迎える準備はできているな?」

「はい、仰せの通り、前方のウーズ川に掛かる橋は全て破壊しております、敵はどこかで船を調達するか

仮橋を掛けるか、もしくは川を直接渡河するしかこちらに渡る手段はありません」

「向こう岸の船は全て破壊してあるな」

「はい陛下」

「この冬空、しかもこちらには氷の魔女が居る、川に入ったらその場で全員凍らせてやる」

 

 だがしかし、このエイリークの目論見は完全に外れる。

ウイリアム率いる軍は川の手前で進軍を止めると、幕舎を張り悠々と昼食を食べ始めたのである。

そして、食事を終えると……


「何だと、人が空を飛んでいる?」

エイリークは愕然とする

 敵陣から現れた二人が、空を飛び川の中程まで来ると、魔法を発動して川に土の橋を二本かけたのだった

「何だあれは、何であんな事が可能なんだ?」

エイリークの魔法の知識には、こんな魔法は存在しなかったし、そもそも空を飛ぶ魔法なども聞いた事が無い。


 ウィリアムとリュートガルドの二人は悠々と空を飛んで、陣地へ戻って行く、度肝を抜かれたエイリークの軍勢からは矢を射る者さえ居なかった。

そして、呆然として何もできないまま……氷の魔女を自称する魔術師も氷壁で防御する余裕も無かった……ウィリアムの騎士隊に蹂躙されると、全軍が恐慌状態のままヨルヴィックまで敗走する事になる、だが彼らは街に入る事はできなかった、ウーズ川の下流を迂回した、ヴェルマンドワ伯率いる別動隊10000によって、軍不在のヨルヴィックの街を既に占拠されていたからだ。

エイリークは更に北のダラムへと敗走して、そこから更に北方の都市エディンバラに逃げ込む。


 ウィリアムは投稿したヴァイキング兵達も自分の軍に組み込んで、ダラムを攻略してエディンバラを30000の大軍で包囲して、降伏勧告を行う。

 ウィリアムは異民族である、アングロ・サクソン人やブリトン人には厳しいが、父と同族であるヴァイキングにはやはり甘い所がある。

 現に中部の街「リッチフィールド」を王都として『マーシア王国』の再興を宣言した、マーシア王エゼルレッド2世の息子を自称する、エゼルレッド3世を相手にした時には、無駄な抵抗をする者の末路を見せつける為に、エゼルレッド3世を街と共に消滅させている……一応街の住民には退去勧告をしてあった、逃げなかった者達は自己責任と言うことになる。


 当然だが、エイリークは王としての矜持に掛けて断固降伏を拒否する。

ウィリアムは更にエディンバラの住民とエイリークの将兵達に風魔法を使って直接呼びかけた。

「投稿すればヴァイキングの同胞として迎え入れる、反抗する者は死んでもオーディンの元に行けない様に戦士としてでは無く奴隷として扱う」

 そしてリュートガルドに目で合図をすると二人同時に魔法を発して、氷の防御壁で覆われた、城壁と大門を破壊した。

 すると街の中から将兵と住民が一斉に飛び出して来た、後に残ったのは、エイリークとその愛人の氷の魔術師と、側近の数人だけだった、残虐な『血斧王』エイリーク1世は殆どの将兵にも領民にも見捨てられたのだった。

 街に入ったウィリアムは、そこで戦斧を二本持って兵達に取り囲まれているエイリークを発見する。

足元には魔法具の杖を持ったままの女性が血を流して倒れている。

 エイリークはウィリアムの高価そうな甲冑を見て判断したのだろう

「貴様が、反逆者フロールブの息子か、ヴァイキングの男らしく俺と戦え!!」

と叫ぶ。

 ウィリアムは馬から降りて、宝剣ジョワユーズを抜こうとした、そこで

「旦那様、この男の相手は私が」

と妻リュートガルドに先を越されてしまう。

「小娘、怪我をしたくなければ引っ込んでいろ」

と言うエイリークに、宝剣バルトを掲げたリュートガルドが、『スカジ・ランス』を放つ。

「ふん、お前も氷の魔女か、だが、こんな児戯効かぬわ」

とエイリークは『スカジ・ランス』を全て斧で叩き落とした。

「へえ、おじさん強いじゃない、これならどう?『スカジ・テンペスト』

無数の氷の剣が風に乗り渦を巻きながら、エイリークに向かって飛んで行く。

エイリークは数本は弾いたが、残りの剣に全身を貫かれて絶命した。

「氷魔法と風魔法の合わせ技か、恐ろしいなぁ」

とウィリアムは苦笑した。我が妻ながら魔法の進歩の速度が普通では無いのだ。

「旦那様、それは褒めていただいているのですか?」

「ああ、そうだよ」

とウィリアムは妻に言った後で、投降したエイリークの部下達を呼んで

「俺の敵とは言え、仮にもヴァイキングの王だ、それに相応しくオーディンの元に送ってやれ」

と船葬の指示をした。

 ヴァイキングには極めて単純な倫理観がある、強い者が正しい、強い者は慈悲深い事、また吝嗇は恥であると言った物だ、ウィリアムのこの態度は彼らに感銘を与えて、ウィリアムは新たに5000を超える忠実なヴァイキング兵を得たのだった。旧ノーザンブリア王国をヴェルマンドワ伯に任せて、ロンドンに戻ったウィリアムは、妻リュートガルドを連れて遠征の報告の為に一度帝都まで帰還する事に決めた。

 皇帝ユーグからの命令『イングランド全土を平定』は達した事になるからだ、だがブリテン島には

まだ、ウィリアムに従っていない、南西部ウェールズのケルト人、北部の『カレドニア』(スコットランド)そしてブリテン島の西隣にはヴァイキング達が多数入植している『アイルランド島』がある。

 ウィリアムはこれらを帝国に臣従させ、敵対する様なら滅ぼし更に、現在敵対中の父の故国ノルウエーのヴァイキング達を攻めると言う希望がある、これを皇帝ユーグに認めてもらう為の帝都への帰還だった。

「ロンドンの事、頼んだぞ」

「はい、お任せください、閣下が留守の間に、普請を進めておきます」

とフランドル伯に後を託して、ウィリアムは妻と船に乗った。


 帝都に戻ったウィリアムは、皇后マロツィアに謁見して、そこで皇帝ユーグの不在を知る

「ご苦労様でした、お父上ロドルフ殿の事は残念でしたが、お望み通りの結果になったのですね」

「はい、陛下の温情には感謝の言葉もありません、父は今頃ヴァルハラで酒でも飲んでいる頃でしょう、それで皇后陛下……」

と言葉を続けようとしたウィリアムをマロツィアは遮った。

「あなたも、他の公爵の方々と同じ様に援軍に出たいと言うのはわかってます、でも駄目ですよ、必要があれば陛下から連絡がありますから、帝都で待機していてくださいね」

と笑いながら言われた。

「はい、かしこまりました」

皇后に先にこう言われては、何も言えないウィリアムだった。


 その後は、先に帝都に帰還している、他の公爵達と情報の交換などをして、皇帝ユーグからの連絡を待つ事になる。

 そんな中、ハンガリー公ジョルトから聞いた、ヴァイキングの王『剛勇のビョルン』の息子『エリク・ビョルンソン』の話を聞いたウィリアムは、妻を伴って、デンマーク侯領に向い彼に会いに行った。

 元々、デンマーク侯は父ロドルフの長年の友人であり、父の率いいるノルマンディー軍が当時のザクセン公国を攻めた時には、後方支援を担当して功績を上げている、当然ウィリアムとも顔見知りだ。

「良く来てくれた、お父上の事は聞いたよ、ヴァイキングらしい立派な最後だったそうだな。私もそのような死場所を得たいと思っている」

「ありがとうございます、これは、父から預かったナイフです、オーロフ卿に渡す様にとの事でしたので

持参いたしました」

「おう、これは懐かしいな、昔一緒に旅をした事があって、その時の狩りの獲物を二人で分けたんだが、あいつ皮を剥ぐのが下手でなぁ、私がこのナイフで皮を剥いだんだ、このショールがその時の物だ」

「見事な白熊だったんですね、そう言えば父もそのショールを持って居ましたが」

「はは、暖かいノルマンディでは必要無かっただろうからな……」

 そこに二人の男女が戻ってきた様で、広いログハウスの中に入って来て、囲炉裏の側で暖を取る

「おう、戻ったか、ブルターニュ公、娘とは顔見知りだったな、紹介しよう、これは娘婿のエリク・ビョルンソンだ」

「エリク、こちらがブルターニュ公……今はノルマンディー公でもあるんだな……で、私の古い友人の息子ギョーム・ノルマンディーだ」

「そうか、君が『剛勇のビョルン』の息子エリクか」

「貴方が、『フロールヴ王』の息子のギョームさんですか」

 二人の若い(ハーフ)ヴァイキングは直ぐに意気投合した、お互いに酒を飲み、肉を喰らい、語り合った、そしてウィリアムが

「次はカレドニアを攻める予定だ、カレドニアにはノルウエーのヴァイキングが多数入植しているそうだ、味方になってくれれば良いが敵になると手強いだろうな、良い戦いになりそうだ」

と言うと、目を輝かせて

「是非、一緒に連れて行ってくれ」

と言う事になり、ウィリアムは皇帝ユーグの許可が下りればと言う事で、エリクを納得させた。



 時は少し巻き戻り、皇帝ユーグは全軍を率いてレオンの街を出て、ザモラの街救援に向かった。

ザモラの街を包囲していたコルドバ帝国軍は、突然司令官が落雷で死亡した事で指揮系統が乱れていた事に加えて、敵の援軍を全く想定していなかった事(既にアストゥリアス王国に予備兵力が無い事は周知していた為)から不意を突かれて総崩れになり、コルドバ帝国軍本隊と合流する事になる。

 ユーグはザモラの街で、満身創痍のアストゥリアス王国国王ラミロ2世の救出に成功はしたが、国王の体は既に毒に侵されており治癒魔法や錬金薬の効果も無く、数刻後には息を引き取ってしまう。

 国王の遺言により、王太子オルドーニョが王位を継承する事となったが、まだ9歳で実戦経験も無い事から軍権は王弟のカスティーリャ伯ガルシア管掌する事になった。

 非常時でも有るので、ザモラの魔法教会で簡易的に行われオルドーニョ3世として戴冠、臨時の即位式で魔聖ローマ帝国皇帝としてユーグが王太子を戴冠させた事により、形式上アストゥリアス王国は魔聖ローマ帝国の保護国という扱いになるが、この事に意義を申し立てる者はいなかった、何しろ国が滅びる寸前の状態だったからだ。

 ちなみに、数日前にユーグが雷撃で抹殺したザモラ包囲軍の司令官は、ガーリブ・ナースィリー将軍で、この遠征軍の総司令官で皇帝の長男ハカムの腹心の部下だった。

 有能な部下を失ったハカムの怒りは突如現れた、魔聖ローマ帝国軍にぶつけられる事になる。


 コルドバ帝国軍30000、魔聖ローマ帝国軍22000(アストゥリアス王国軍を含む)

はザモラ南西郊外の平地で対峙する。

 コルドバ帝国軍は10000が主力のマルムーク兵で、何割かは錬金薬によりアサシン兵となっている。そして、炎の魔術師が500、アサシン兵の突撃と共に攻撃魔法を発動させる準備はできている。

 ハカムは特注のチャリオットの豪華な椅子に座ったままで、右手を掲げて振り下ろした。

彼は肥満体の為、馬にも駱駝にも乗れないので、古のローマ時代のチャリオットの様な物に乗っているのだった。

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