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第二章 初陣

第二章 初陣


 ノース人の王フロールヴは、氷の魔女として恐れられる妻、魔術師ポッパ・ド・バイユーを前面に立て

大攻勢をかけてきた。

 これに対して、父ロベールは風の魔女、母ベアトリスを中心に対抗する。

どちらも、決定打を与える事ができないで、戦線は膠着状態になり、エーテル力が枯渇し始めた氷の魔女が一度後方に下がると、その隙を付きロベールは全軍で攻勢をかける。

 だがこれはフロールヴの罠だった、ベアトリスの乗った二頭立ての戦車が敵陣で孤立して包囲されるのを見て、ユーグは、顔面が蒼白となった父に無断で剣を持ち、独自に編み出した風魔法の飛行術で一気に前線まで飛び、母を救出する、傷を負った母に回復魔法をかけて肩に担いで、後方の本営に飛行すると、治癒魔術士に母を任せて、自分は再び前線に戻り母の戦車に降り立った。

 そして初めて実戦で自分の魔法を披露する事になる。四つのエレメントは水>火>風>土>水と言う

関係にあり、氷魔法はその本質が水魔法であり、土の魔法には弱いとされている。

 その為に氷の魔女の魔法に対抗できる土の魔法を発動する事にしたユーグは、自分で考案してカペー家お抱えの鍛治師と宝飾師に作らせた、魔法具を組み込んだ剣を構える。

 魔法具と言うのは、自分の属性の魔法を増幅する事ができる様に宝飾師が調整した道具で、母や他の魔術師達はワンドや杖の形状の魔法具を使っている、土属性には翡翠、水属性にはアクアマリン、火属性にはルビー、風属性にはエメラルド等の宝石が有効とされていて、ユーグの剣には柄頭とガード、グリップの部分にこの宝石が埋め込んである。

 貴族の剣が宝石で装飾されているのは、普通の事なので鍛治師も宝飾師も特に疑問は持たずにユーグの

要求通りの剣を製作してくれた。


 両手で持った剣を肩から前方に突き出す基本の構えをしたユーグは、まだ自分の魔法の威力が良く理解できていなかった。そして詠唱をしながら剣を振り出して最強の土魔法『テラ・アンガー』を発動してしまう、この魔法は地割れと地震を引き起こす魔法で、フロールヴの軍団を氷の魔女諸共、船団ごと大地に飲み込んでしまった。

 妻を失い戦意を喪失したフロールヴとその残存兵士達は、ロベールに降伏して捕虜としてパリまで連行される事になる。

 だがユーグもエーテルを使い果たして昏倒してしまう。この戦いは後に『シャルトルの戦い』と呼ばれる事になり、大魔術師ユーグの初陣として語り継がれる事になった。

 

 ユーグが目を覚したのは、パリに向かって帰還する負傷兵用の荷車の中でアンリ、ギョームに囲まれている所だった。

 直ぐに荷車が停められて、並走していた隣の馬車から父と母が駆けつけてくる。

「ユーグ」

と母も父も泣いている

「この子はなんて無茶をするの、命があったから良かったものの……」

「この馬鹿者が……だが、良く母を救った感謝するぞ」

と両親に言われ、

「爺は生きた心地がしませんでしたぞ、もうこの様な無茶はおやめください」

とアンリに泣かれ

「あれほど、異属性の魔法を使ってはいけませんと申したではありませぬか、師として、もしユーグ様の意識が戻らなければ、伯爵様にこの首を差し出す次第でしたぞ」

と師匠ギョームに怒られた。

 まだ喋る程の体力もエーテル力も回復していないので、呟く様に

「申しあけありません」

とだけ言って、ユーグはまた目を閉じた。

 結局パリに付いてからも数日ユーグは寝たきりとなり、母が保存していた高価なエーテル回復薬を大量に飲んでやっと動ける様になった。


 ユーグが寝ている間に、パリでは大きな出来事があった、

なんと国王シャルル3世が、ロベール伯爵やブルゴーニュ公リシャール達貴族の反対を押し切ってノース人の王フロールヴを赦免したばかりでなく、フロールヴに自分の娘ジゼラを嫁にやり、ネウストリアの一部とブルターニュを領地として与えたのだ。これによりフロールヴは名前をフランク人風にロドルフと改めノルマンディと改められたネウストリアの西部の名を取りノルマンディ公となる、ロドルフは信仰する主神をオーディンからユピテルに改め、西フランク王国の為に自らの氏族ノース人と戦う事を確約したのだった。

 この事でシャルル3世は諸侯や貴族達から蔑視を込めて『単純王』と呼ばれる事になる。

これは武力でカペー家に大きく劣った国王が、カペー家との抗争に備えて仇敵ノース人を傭兵として雇ったと言う事に等しい。そして更にカペー家を懐柔する為に、ロベール伯爵にブルトン辺境侯、ノルマン辺境侯の二つの地位を与えてくる。

 ユーグの父、ロベール伯爵はその地位を受けると、王に皮肉を込めて自らをデマルクス(軍神マルスの子)と名乗る事になった。


 更にこの年、911年魔聖ローマ皇帝を名乗っていた東フランク王国のルートヴィヒ4世が死去するとカロリング家の世襲が絶える事になり、東フランク王国の親西フランク王国派の貴族から臣従を受け、シャルル3世は東フランク王国の一部ロタリンギア王となり、東フランク王となったコンラート1世と争う事になる。


 もちろんまだ少年の域に有るユーグにはそんな事情は関係無く、ユーグは剣と魔法の修行に励む事になり、更に腕を上げていく。

 愛用の宝剣を振りながら、タイミングを合わせて魔法を発動する訓練をひたすら続ける。

以前実戦で使った時は、剣をただ魔法具として使っただけだった、母や他の魔術師達がワンドや杖の形状の魔法具を使うのと同じ感覚だ。

 だが、それを剣技に合わせて使用したらどうなるだろうと言う素朴な疑問から訓練を始めたのだった。

『やはり、最初は風魔法だろうな』

と剣を振り込んだタイミングで『ヴェンティ・カッター』を発動させる。

最初は詠唱を必要としていたが、やがて無詠唱で頭の中に思い描く魔法を剣の動きに合わせて発動できる様になった、つまり単純に魔法を使うのでは無く、剣技と合わせて発動する事ができる様になった事で、剣に風を纏わせて遠距離の敵を切り裂く『ウィング・ソード』を最初に完成させた、後はその応用で、剣に炎を纏わせ敵を焼き尽くして切断する『フレイム・ソード』、冷気を纏わせて周囲を凍らせる『ブリザード・ソード』、大地を切り裂く『クエーク・ソード』等と自ら命名した魔法剣技を開発して行く。

 結果的に剣技と魔法を合わせる事で、魔法の威力が上がり、詠唱が不要になり更にエーテルの消費量も抑えられると言う一石三鳥の技となった。


 この技を父と母に披露すると二人は大いに喜び、既に大魔術師の位にある母は、友人であるサン・マルタン魔法修道院長ロタールを館に招待して、ユーグの技を披露させる。

 この技の効果と魔法学に与える影響を考慮したロタールは、直ぐにユーグに大魔術師の地位を与えて

ユーグは15歳で史上最年少の大魔術師となる。

 カペー家がユーグによって更に武力を増すのを恐れた国王シャルル3世は王権でまだ未成年のユーグを『ミーレス』=『騎士』に任命して、自らの陣営に無理やりに引き込もうと画策する。

「父上、国王の命、どうしたらよろしいでしょうか?」

「少し早いが『騎士』に任命してくれると言うのであれば喜んで受けておけ」

と言う、既にこの時父や諸侯達はシャルル3世を王として見限っていたからだ。

 こうして王の騎士となったユーグは、王の命により何度か「ロタリンギア地方」に出陣する事になる。


 「ユーグ様、昨年に続いてこれで三度目の出陣ですな」

とこの頃もユーグに従っている爺ことアンリが文句を言っている。

 今回は『トリーア』の街が主戦場となる、ユーグが率いるのは王直属の軍で、騎兵5000、歩兵500、魔術師10と言う中規模の軍で、友軍であるロタリンギアのレニエ伯と共に東フランク国王コンラート1世麾下の軍と戦う事になる。


 基本的にユーグの戦法は街に強固な砦を作り、そこで敵を待ち撃退すると言うもので、敵にはかなりの損害が出るが、積極的に攻勢に出るわけでは無いので、味方の損害は軽微だった。

 それゆえ、遠征に出る度にユーグの部隊だけは戦績をあげ死傷者が少ないので、他の王の騎士達と比較

されて、名将として評価が高まり兵達の忠誠心も上がって行く事になる。

 これは父の助言『個人としての武功は大いに上げろ、但し戦域全体に及ぼす様な大きな活躍は控えろ』を忠実に守った結果だ。

 そして、ユーグ個人としては戦場で様々な魔法を実践できる機会なので、実は出陣を楽しみにしていたりもする。

 今回の出陣では、つい先ごろにローマで開発された新しい魔法を取り入れた攻撃魔法を実験してみるつもりだ。

「ユーグ様、敵の第二陣が近づいて来ております、懲りない奴らですな」

 毎回、毎回ほぼ敵は同じ方法で砦を攻撃してきて、同じ様に撃退されて行く、ほぼ魔術師部隊と歩兵の弩弓兵だけで済むので、騎兵の指揮を任されているアンリは暇なのだ。

「爺、此度は爺にも出てもらうので、もう少し待て」

とユーグは声をかけて、砦の櫓の上に登る。

 この新しい魔法は絵画魔法と言われて、炎や水、砂などで空中に絵を描く魔法だ、実用性は全く無いが

華やかなので、王宮等では好評な魔法だった。

 シャルル3世の宮殿でこの魔法を見たユーグは、これを攻撃魔法に応用してみようと思い練習をしていたのだった。

 『うん、絵を描くのは難しいな』

当初思った様に絵が描け無かったユーグは、基礎のデッサンや絵画を伯爵家に出入りの画家に習う事にして、紙に自分の書きたいイメージを書く様にした。

 そしてそれがそれなりになった所で、魔法での絵画に再挑戦したのだ。

今回の遠征がその魔法の初披露になる、

 ユーグが敵兵に向かって剣を振ると、剣の先から炎の狼が数頭出現して、狼が兵達を食いちぎって行く……そう見えるだけだが……

「うわぁ、狼が!!」

敵兵はこれで大混乱になる

「爺!」

「おう」

とアンリが、砦の城門を開いて、麾下の騎兵で一気に突撃をかける。

 結局この戦いでも、ユーグの部隊の損害は殆ど無く、敵は街への攻撃を諦めて撤退していく。

「では、街の防衛はお任せいたします」

とユーグはレニエ伯に任せて、凱旋する事になる。

 こうして、王命で王の軍を率いて戦っていたユーグだが、本来王直属だった将兵が次第にユーグに忠誠を誓う様になっていく、結果的にただでさえ少なかったシャルル3世の軍事力がユーグの元に集まっていくと言う結果になる。


 更にこの頃から、王とレニエ伯の関係が悪化していく

いつまで経っても、パリに籠ったままでロタリンギアに出陣する事が無く、本気でコンラート1世と戦う気が有るのかと思うレニエ伯と、援軍を派遣しなければ自身の領地を守れないレニエ伯達ロタリンギア貴族達への王の不信感がお互いに積もって行った結果だ。

 

 魔法歴921年 カペー家の娘、姉のエマとブルゴーニュ公リシャールの息子ラウルとの婚姻が行われる、これによりカペー家の勢力が更に増すのを恐れたシャルル3世は、翌年922年叔母である祖父シャルル2世の王女ロティルドの娘ジュディット・デュ・メーヌとユーグの縁談を進め、ユーグをなんとか自分の陣営に引き込もうと必死になる、二人は一応王国の全ての貴族や諸侯達から祝福を受けて豪華な結婚式と披露宴がパリ郊外の『サン・ジェルマン・デ・プレ魔法教会』で盛大に執り行われた。

 だが、これがシャルル3世の国王としての最後の姿になる、この年カペー家を始め貴族や諸侯の総意でシャルル3世は廃位される事になり、廃王はパリを捨ててロタリンギアに逃亡する。

 変わってユーグの父がロベール1世としてランスの魔法大聖堂で、西フランク王国の王位についた。

 この時廃王が傭兵として期待したノース人ノルマンディー公ロドルフはカペー家と争う姿勢を見せるだけで実際に戦う事は無かった、王は自らの飼い犬ロドルフにも見限られていた事になる。


「父上、国王就任おめでとうございます」

 ユーグは父の宮殿となった王宮の謁見の間で、父に片膝をついて挨拶をする。

「ああ、ありがとう、私の本意では無いのだがな、国王など面倒だ」

と言う父はそれでも嬉しそうだ、本来はユーグの叔父のウード王が亡くなった時にロベールを次の国王に推す声もあった、だがロベールはそれでは当時はまだ勢力があったカロリング家のシャルル3世と内戦になる事を恐れて、シャルル3世に臣従した経緯があった。

「ユーグ、お前をパリ伯兼ネウストリア辺境侯に任命する」

「はい、ありがとうございます全力を尽くします」

 この時ユーグはこの父の王としての時代が続く物と思っていた。

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