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第二部 第二章 ウィンチェスター陥落

第二部 第二章 ウィンチェスター陥落


 ロンドンで食料や馬の調達をして、休養を充分取った遠征軍はノルマンディ公とブルターニュ公の旗とヴァイキングの旗を掲げてゆっくりとウェセックスの首都ウィンチェスターに向かって進軍を開始した。

 ウィンチェスターまでは二日の距離だ。この時ウェセックス(イングランド)の王位はアゼルスタンの異母弟であるエドマンドが継いでいたが、まだ13歳の少年であり、先王とその軍隊を失った国内は混乱したままだった。しかも貴重な魔術師はアゼルスタンの遠征事にほぼ全滅していて、少数の治癒魔術師が

残っているだけだった。

 それでも果敢にウィンチェスターを出撃したエドマンドはウェセックス全土(旧マーシアも含む)から

魔術師を掻き集めて、7500の兵と20人の魔術師を伴い、ロンドンとウィンチェスターの中間点、ギルフォードで遠征軍と対峙した。

 一方で遠征軍は、マグニとその配下、更に参陣した他のバイキング達、ロンドンの傭兵などで兵力は

25000を超えている、この軍団を率いるのは、魔聖ローマ帝国で第二の魔術師を自負するブルターニュ公ギョームだ、その妻リュートガルドと共に騎乗した二人は並んで軍団の先頭を率いている。その後ろにはギョームの父ノルマンディ公ロドルフ、ヴァイキング世界ではフローブルと言う名の方が有名だ、だがそのロドルフは騎乗しているものの顔色は悪く、時折馬上でふらついている。

 静かに安静にしていれば、まだしばらく生き存えるかもしれない、だがロドルフはそれを望んではいなかった。

 参陣を申し出たヴァインキングの首長達と酒を酌み交わし、最後の戦場に向かっているのだった。

今この軍に居る全ての将と兵士達が、ロドルフがこの戦を死場所とする事を望んでいると知っている。

戦場で剣を持ったまま、敵と勇敢に戦い息絶える事でヴァルハラへ旅立てるとのヴァイキングの死生観を

体現しようとしている、勇敢な王の最後に立ち会える事を皆喜んでいるのだった。

 この戦いを指揮するのはギョームだが、彼は父の願いを叶える為に、先鋒を父と父に長年従って来た

ヴァイキングの将兵、それに父と一緒に戦いたいと言うヴァイキングの首長達に任せる事にしている。


 ギルフォードの北東に布陣したウェセックス軍7500に対して、ロドルフ率いる約5000のヴァイキング兵が突撃を敢行する。

 兵力差があるが、歴戦のヴァイキング兵に対して寄せ集めのウェセックス軍では戦力的には4対3位になるだろう、それでもウェセックス軍は少ない魔術師達が魔力が切れるまで魔法障壁を貼り、矢を防いだ。だが、それも長続きはせずに、ウェセックス軍は盾で作ったシールドウォールを維持できなくなり

戦場は混戦となる。

 ロドルフは長剣を掲げて先陣を切り、敵兵を三人ほど斬り捨てた所で、血を吐いて動きが止まる。

一度は膝をついたロドルフだが、剣を杖に立ち上がると、その場で兵を指揮して言る自分と同じ年配の男を見つけて、声をかける。

「ノルマンディ公ロドルフ、いやお前達にはバイキングの王フローブルと名乗った方が良いな、貴公名は?ワシの相手をしてくれんか?」

「エゼルウルフ王の嫡孫、エゼルウェアルド伯爵だ、相手にとって不足は無い」

 二人は剣をぶつけ合う、体調が万全ならロドルフの敵では無いだろう、だが病魔に冒されたロドルフでは既に立っているだけでやっとの状態だった。

 そして一瞬の間を置いて、お互いの剣が相手の首を狙って振るわれる、一瞬早く攻撃をしたロドルフは

エゼルウェアルド伯爵の首を切り落とした、だが同じタイミングで頸動脈を切られて、ロドルフも膝を突く。

「フローブル王……お見事です」

すぐ側で戦いを見守っていた、イヴァルがロドルフを寝かせると、その胸の上に剣を乗せて両手で握らせた。

 ヴァイキングの死の作法で、これにより戦乙女ヴァルキュリヤに魂が導かれて主神オーディンが支配するアースガルズのヴァルハラに招かれると言う事になる。

 ロドルフの亡骸の周りにはいつの間にか多数のヴァイキング達が集まって死者とオーディンを讃える歌を歌っていた。


 戦場にバイキングの歌が流れる中、ギョームは父の死を知った。

「我が父、バイキングの王フローブルはヴァルハラに召された、この戦、父の魂に捧げる、魔術師部隊

敵の中央に向かって一斉攻撃!」

 ギョームはここで温存していた魔術師部隊を使う、妻リュートガルドの氷魔法が敵陣を切り裂き、その穴に更に魔法攻撃が集中されて、ウェセックス軍は、実質的に全軍の指揮をしていたエゼルウェアルド伯爵を失った事により一気に潰走状態になる。7500の兵は散り散りになり、半日以上走り続けてウィンチェスターに逃げ戻ったのはエドマンド王以下100名にも満たなかった。

 エドマンド王は城門を閉めて閉じ籠った、直ぐにもギョームの遠征軍が追撃してくると思っていたからだ、だが二日立っても遠征軍の姿は見えななかった。

 

 ギョームは父の葬儀を行う為に一度ロンドンに戻る事にした、ギルフォード周辺には小さな川があるだけで、ヴァイキングの伝統に則った『船葬』を行うのに相応しく無かったからだ。

 イヴァル他父の子飼いの兵達を先にロンドンに向かわせて、葬儀に使用する船の手配や色々を頼む。

「任せてください、良い船を用意いたします」

イヴァルはそう言うと、馬をロンドンに向けて走らせた。

 父の亡骸を調達した馬車に乗せて全軍でロンドンに帰還する。通常なら、司令官を失った軍と言う事になるのだが、ギョームの遠征軍は末端の兵士まで、父ロドルフの健康状態が伝わっていた為にロドルフがその希望通りに戦場で敵の指揮官と相打ちで死亡した事を皆喜んでいた。だからここで父の希望通りにヴァイキング式の葬儀を行う事で、更に軍団の士気を上げる事が可能なのだった。

「まぁウィンチェスターなどいつでも落とせるからな」

と妻に言う位、ギョームには余裕すらある。

 その妻リュートガルドは、馬車の御者席のギョームの隣で、風魔法の練習をずっとしている。

自分が飛べない事が悔しい様だ。だが氷魔法と風魔法を同時に使える様になれば更に高度な攻撃魔法を使用できる様になる、例えば『アイスブリザード』などの魔法がそれに当たる。


 ロンドンに戻ったギョームは直ぐに葬儀に取り掛かった、テムズ側の対岸サザークでイヴァルが調達してきたヴァイキングのロングシップに剣を持ったロドルフの遺体を寝かせて、その周りをロドルフの私物や金銀宝石で見たして花を飾る。そして船に油を注ぎ、船を川に流す。

 最後に祈りの言葉と共にギョームが火矢を船に打ち込むと船は炎に包まれて、テムズ川を海に向かって降っていった。

 これがヴァイキングの伝統的な『船葬』だ。

 この後、ギョームは予め用意されていた、父の遺言と皇帝ユーグの承認書によって、父の地位『ノルマンディ公』を継承して、ブルターニュ公と兼任する事になる。

 この事に異論を唱える者は誰も居なかった。ノルマンディの将兵達もギョームの実績と実力を良く承知していたからだ。

 

魔法歴933年秋、満を持して遠征軍はロンドンから再びウィンチェスターに向けて進撃を開始する。

二日目にウィンチェスター市街の城壁前に布陣した遠征軍は、降伏勧告の使者を送る。

 ウェセックス・イングランド王のエドマンドの退位と王位を魔聖ローマ帝国ノルマンディ・ブルターニュ公のギョームに譲渡する事、エドマンドはギョームに臣従する事などが勧告の内容になる。

「一日待ってやったが返答は無いか、フランドル伯、全軍攻撃準備、魔術師部隊は前進して、敵の弩弓の射程外で待機、私が行くまで待て、 ヴェルマンドワ伯、騎士達の指揮は任せる、城壁が崩れたら一気に突入せよ、兵達には街を落とした後で略奪を許可すると伝えよ」

「は、了解いたしました」

 ギョームには副官扱いの三人の伯爵が従っている、その内のコルヌアイユ伯は自分の部下だが、フランドル伯とヴェルマンドワ伯は父の部下だった、だが今の所、父から受け継いだノルマンディ公としての部下達と元々のブルターニュ公としての部下達は何の問題も無く共闘をしている。

 彼らの殆どが元ヴァイキングかギョームの様にヴァイキングとフランク人の混血だからかもしれない、元を辿ればヴァィキングもフランク人も、目の前のウィンチェスターに居る、アングロサクソン人も

同じゲルマン人なのだが。

 そして、この時点でウィンチェスター市民の運命は決まっていた。つまり、男は皆殺し女と子供は奴隷として売られる事になると言う事だ。

 残虐な様だが、これにより降伏したロンドンと抵抗したウィンチェスターとの対比が明らかになり、この後他の街を攻略する時の助けになる筈だ。


 「さてでは行こうか」

ギョームはこの遠征から着始めた白銀の甲冑に深紅のマントと言う姿で、騎乗して宝剣『ジョワユーズ』

を抜いて掲げる、その隣にはギョームと同じ意匠の甲冑とマントに身を包んだリュートガルドが宝剣『バルト』を掲げて寄り添うに馬を走らせる、二人が前線に出ると、全兵士から大歓声が上がる。

「魔術師部隊、用意、放て」

配下の魔術師部隊1000人の攻撃魔法が一斉に城門と周囲の城壁に降り注ぎ、魔法の煌めきが消えた後には、完全に無防備になった市街が見えるだけとなった、既に街を守る兵も無く、一瞬で城門と城壁を失った、ウィンチェスター市民達は、街の中央の王宮や魔法教会、魔法修道院に逃げ込むが、当然そこも安全では無い。だが教会と修道院を避難先に選んだ市民達は少しだけ幸運だっただろう、彼らは奴隷として売られたが命だけは助かったからだ、ギョームによって一瞬で城門を破壊された王宮は殺戮の舞台となり、国王エドマンドやその母等の王族は悉く捕えられるか、斬り殺されるかの二択しか無い、これは王宮に居た貴族達も同様だ、その中でポーエル伯マテュエドイは、片腕を切り落とされた状態で、玉座に座ったギョームの元に引き出された。このポーエル伯は元ブルターニュの貴族で、逃亡してアゼルスタン王の庇護を受けていた。

「これは懐かしい顔だなポーエル伯殿では無いか、こんな所で生き恥を晒していたとはな」

とギョームに言われたが、もはや言葉を返す気力も無かった。

 国王エドモンドと共に打首になり、首は城門に晒される事となる。

これにより、エドワード長兄王以後三代続いたイングランド王国とその中心だったウェセックス王国は滅亡する事となった。

 ギョームは、直ぐにウェセックス王国の主要都市、西から「エクセター」「ワーラム」「チッペンハム」

「エディントン」「リッチフィールド」「ウォンテージ」「ロチェスター」「カンタベリー」の八つの街に

降伏を呼びかける、ウェセックス王国は滅び王が打首となった事を魔法教会の修道士が使者となって伝える事になる。降伏すれば市民も領主もロンドンと同じ様に安全を保証される、拒否すればウィンチェスターの街と同じ目に合うと言う事なのだが、幾つかの街は多分反抗するだろう。

 ギョームはコルヌアイユ伯にウィンチェスターとその周辺地域を領土として与えて、2000の兵を残してロンドンに帰還する。

 そして、ロンドンから帝都ユーグウルブスの皇帝ユーグの元にこれまでの報告書を送り、八つの街からの回答を待った。

 その間にギョームはロンドンに将来自分の統治の拠点となる場所を探す事にした。最終的にギョームが決めた場所はローマ時代の城壁に囲まれた、狭いロンドン市街では無く、テムズ川沿いに南西に少し移動した場所「アイクロス村」で、ここを中心に、帝都ユーグウルブスを模した街を建築する事になるが、取り敢えずは、まずはここに中心となる館を建てさせる、これはロンドンの大商人達からの税で賄う事になり、ロンドンと近郊の大工や石工が動員されて、建築が始まる。合わせて魔法大教会、庁舎、広場、市場

なども建築が始まると、付近は工事に携わる職人達で賑わう様になった。

 ギョームの父、ロドルフは街づくりの才に恵まれていたが、それはギョームも同様で、数年の後には

旧ロンドン市街も街に取り込まれ、ノイエ・ロンドンと呼ばれる大都市に成長していく事になる。

 旧ウェセックス王国の主要都市のうち、最初に降伏を知らせて来たのはロンドンから近い、東側の

「ロチェスター」「カンタベリー」だ、この内カンタベリーにはこの頃イングランドで最大の魔法教会と修道院があり、カンタベリー魔法大聖堂と呼ばれている。

 そしてこのカンタベリー大司教の名で、イングランド全土の魔法教会に対して、ギョームと魔聖ローマ帝国皇帝ユーグ一世に対して忠誠を誓う様に伝達がされる。

 残りの都市の内、「エクセター」「ワーラム」も同様に降伏を受け入れた、だが「チッペンハム」

「エディントン」「ウォンテージ」の三都市は降伏を拒絶、さらに一番遠い「リッチフィールド」の街

は、そもそもエドマンド王にも臣従をしておらず独立を宣言していた。この辺りは旧マーシア王国の版図であり、最後のマーシア王エゼルレッド2世の息子を自称する、エゼルレッド3世が「リッチフィールド」を中心として『マーシア王国』を再興したと宣言していた。

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