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異世界謎解き真実探し  作者: サード
第1章 エルフの村編
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第1話 エルフの村

ユーラはエルフの村の入口に到着し、ソードと共に村の中心に向かって歩きながら、ほっとした様子で言った。


「ついた!ここがエルフの村よ!森で倒れてたんだから、検査のためにもまずは治療院へ行かないとね。」


そう言ってユーラがソードに笑顔を向けた瞬間、彼女の背後から低い声が響いた。


「へぇ?彼は森で倒れていたのかい?」


声を聞いた途端にユーラは青ざめ硬直した。そしてか細い声でソードに確認する。


「……ソード?私の後ろに何がいる?」


ソードがそっと彼女の背後を見やると、そこには威圧的な雰囲気を放つ女性が立っていた。


「すごい形相の女の人がいる。」


その言葉に、ユーラの顔色はさらに青ざめる。


「ひぇっ!?……も、もしかして……」


その時、鋭い声が空気を切り裂いた。


「ユーラ!!」


現れたのは、銀色の髪を三つ編みにまとめ、腰に手を当てた大柄なエルフの女性だった。雷雲のような威圧感を放つ彼女の目は、見る者を射抜くほど鋭い。


「ティックさん……!」ユーラは思わず小さくつぶやいた。


ティックと呼ばれた女性は、ユーラを鋭い目で睨みつけながら問い詰める。


「今日は宿に顔を見せないと思ったら……!あんた、あれほど森に入るなと言ったでしょうに!!」


ユーラは後ずさりながら、慌てて弁解する。

「ひ、ひぇえ!ごめんなさい!ティックさん!でも、森で倒れてた人がいて――」


ティックは腕を組み、さらに厳しい表情で彼女の言葉を遮った。

「言い訳は聞かないよ!森には危険がいっぱいだって、何度も何度も言ったでしょう!?ウルファンにホワイトウルフ、それに最近は妙な噂まであるんだから!」


その時、ソードが静かに口を開いた。

「……妙な噂?」


ティックは一瞬言葉を詰まらせ、ソードに視線を向けた。彼を頭からつま先までじっくりと見つめ、疑念の色を含んだ目を向ける。

「……あんた、誰だい?森で倒れてたって言ったね?ユーラ、この人は一体――」


慌てたユーラが説明を始めた。

「この人、記憶がないみたいなの。森で見つけたとき、すごく弱ってて、それで治療院に連れて行こうと思ったの!」


ティックは少し考え込んだ後、ようやく落ち着いた様子で頷き、低い声で言った。


「……なるほどね。それは一大事だ。いいよ、まずは治療院へ連れて行きな。今ならエルフィーもいるだろうから診てもらえるはずだ。」


彼女はユーラを鋭い目で見据え、静かに続けた。


「それから、ユーラ……あんたには後でじっくり話を聞かせてもらう。覚悟しときな。」


ユーラは小さく肩をすくめながらも、ティックにお礼を言い、ソードを連れて足早に村の中心へ向かっていった。彼女の心は少しだけ安心したものの、ティックの厳しい言葉が頭に響いていた。しかし、今は目の前の問題を解決することが最優先だ。ソードの記憶を取り戻す手助けをし、少しでも安心できる状況に持ち込まなければならない。


二人は村の道を歩きながら、周囲の風景を見渡した。村は穏やかな空気に包まれ、木々の間から差し込む陽光が温かく照らしていた。エルフたちが静かに行き交い、彼らの足音が舗装された道に響く。村の中心へ向かうにつれて、建物の屋根が見え始め、その一つに立派な教会が姿を現した。


教会の一部が治療院となっているようで、白い壁と青い屋根の建物から薬草の香りが風に乗って漂い、静かな祈りの気配が感じられた。ユーラは深呼吸をし、少しだけ落ち着きを取り戻すと、ソードに向かって話しかけた。


「ここが治療院よ。エルフィーがきっと手伝ってくれるはず。」


ソードは何も言わずにうなずき、ユーラの後をついて歩いた。村人たちの優しい視線を感じながら、二人は急ぎ足で治療院の扉を開けた。


「エルフィー!大変なの!」


中にいた銀髪の若い医師、エルフィーが顔を上げた。青い瞳が穏やかに輝き、黒いズボンに青い服を羽織った白衣が清潔感を際立たせている。手元の薬瓶に注いでいた水滴を拭いながら、彼は眉を軽く上げた。


「どうしたんだい、ユーラ?また何かやらかしたのかい?」


「やらかしたとかじゃないってば!」ユーラは慌てて手を振りながら、ソードを振り返った。「この人、森で倒れてたの。記憶もないみたいで、とにかく診てあげてほしいの!」


エルフィーはソードに視線を向けた。一瞬だけその目が険しくなったが、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。


「なるほど、森で倒れていた……ね。それにしては、見た目は随分としっかりしているようだけど。」


ユーラは静かに頷きながら答えた。


「……確かに、怪我とかはなさそうなんだけど。頭がぼんやりしていて、何も思い出せないんだって。」


エルフィーは頷くと、診察台を指さした。


「分かった。とにかく座ってくれる?ちょっと調べてみよう。」


ソードが診察台に座ると、エルフィーは手早く彼の脈を取り、瞳や肌の色を確認し始めた。ユーラはその様子をそわそわしながら見守っていた。


「ふむ……外傷も異常もないね。君の身体は健康そのものだ。」


そう言いながら、エルフィーはソードの近くに置かれている黒い剣に目を向けた。その剣は、異様な威圧感と冷たい輝きを放っていた。


「ところで、この剣は君のものかい?」


エルフィーの問いかけに、ソードは困惑した表情を浮かべた。


「分からない。でも、なんとなく自分のもののような気がして……。」


その瞬間、黒い剣がかすかに光を放った。まるでソードの言葉に反応したかのように。


エルフィーは驚きつつも冷静さを保ち、その剣に慎重に近づいた。


「この剣……ただの武器じゃないね。強力な魔力が宿っている。しかも、それが君と共鳴しているように見える。」


「えっ……どういうこと?」ユーラが不安そうに問いかけた。


「簡単に言えば、この剣は彼に繋がりがあるってことだよ。もしかすると、記憶喪失もこの剣と関係があるかもしれない。正直、魔術や呪術だとお手上げだね。」エルフィーは険しい表情で答えた。


その時、治療院の扉が急に開き、一人のシスターが現れた。金髪を持つ彼女の目には、ただならぬ緊張が漂っていた。


「エルフィー、急いで来て!」彼女は震える声で言った。


エルフィーは顔を上げ、その様子に驚きの色を見せた。「アリアさん?どうしたんです?」


「村の警備の冒険者が大怪我で運ばれてきたわ。もしかしたら例の噂の奴かも!」


「噂……あれが本当だっていうのか?」エルフィーの顔が険しくなる。「分かった、すぐに行く。ごめん!急患が優先だ。母さんに伝えておくから先に宿の方で待ってて!」


エルフィーはユーラにそう告げると、アリアと共に礼拝堂へと駆け出した。


ユーラは少し肩をすくめながら、ソードに向かって言った。


「エルフィーが後で向かうって言ってたし、私たちも宿に向ったほうが良さそうね。」


ユーラとソードは治療院を後にし、村の宿へと向かって歩き出した。穏やかな村の空気には、心地よい日差しと周囲を行き交うエルフたちの温かな笑顔が溶け込んでいた。しかし、ユーラの心にはまだティックの厳しい言葉が響いており、その足取りにはどこか落ち着きがなかった。


「ティックさん、絶対に怒ってるよね…」ユーラはため息交じりにそうつぶやき、少し早足になる。


「大丈夫だよ。君はちゃんと謝ったんだから。」ソードは励ますように優しく声をかけた。


しかし、ユーラは苦笑いを浮かべ、首を軽く振る。「謝ったところで、あの人の厳しさは変わらないよ…でも、今はそれより、ソードをなんとかしないと。」


二人が宿へとたどり着き、扉を開けると、そこには温かな空気と賑やかな喧騒が広がっていた。木造の天井に響く笑い声やグラスがぶつかる音が、心地よいリズムとなって耳に届く。暖炉の薪がはぜる香りと焼きたてのパンの匂いが混じり合い、どこか懐かしい安心感を漂わせている。


しかし、ユーラの視線は入口付近から動かず、胸には重い緊張がのしかかっていた。この宿の経営者であり、彼女にとって逃れられない存在――ティックのことが頭を離れなかったのだ。


「来たね、ユーラ。」

冷たく低い声が宿全体の明るい雰囲気とは対照的に響いた。


ユーラが顔を上げると、カウンター越しにティックが立っている。その鋭い視線がユーラを捉えると、彼女は無言で室内の一角を顎で示した。


「ちょうどレニウムも来たところだ。」

ティックの視線の先には、険しい表情を浮かべた男性がテーブル席に座っていた。


ユーラは息をのむ。レニウム──村長であり、彼女の父がそこに座っている。厳格な性格の彼の前で、今日の行動を説明しなければならないことが、さらに重くのしかかった。


ティックが指し示す方向にソードとともに歩きながら、ユーラは心の中で必死に考えを巡らせる。どう説明すればいいのか、どうすれば父が理解してくれるのか。


「ユーラ。」

レニウムの低い声が、彼女の思考を断ち切る。


ユーラはテーブルの前に立ち止まり、頭を下げた。

「お父さん、ごめんなさい。森に入ることがルール違反なのは分かっています。でも――」


「言い訳は後だ。」

レニウムの冷静だが厳しい声が、ユーラを制した。彼はソードに視線を移す。

「この青年が、森で倒れていたと言うのか?」


「はい。」ユーラは答え、ソードを一瞥する。「彼は記憶がなくて、治療院で診てもらったんだけど、怪我もなくて……でも、剣が……」


「剣?」

レニウムの眉がぴくりと動いた。ユーラは彼女の背後で立っているソードの持つ黒い剣を示した。


レニウムは席を立ち、剣に近づく。その視線には、警戒と興味が入り混じっていた。

「この剣だな。」彼はじっくりと剣を観察する。「ただの武器ではないな。魔力を感じる。どうやら、君もこの剣に心当たりはないようだが……」


ソードは小さく首を横に振った。「はい。これが自分のものかどうかも分かりません。ただ、なんとなく自分に関係がある気がして……」


レニウムは険しい表情で考え込むと、ティックに視線を送った。「ティック、この剣を詳しく調べる必要がある。念のため、ラバーさんに見せてみよう。」


ティックは頷いた。「了解。あの魔導士なら、何か分かるかもしれないね。」


「待って!」ユーラが声を上げた。「ソードの剣を取り上げるなんて……!彼がどうなるか分からないじゃない!」


レニウムは娘の言葉に一瞬ため息をつき、しかしその目は優しさを宿していた。

「ユーラ、私も彼を危険視しているわけではない。ただ、この小さな村を守るために慎重になる必要があるんだ。」


ソードは静かに頷き、剣を手渡した。「分かりました。調べていただけるのなら、それで構いません。」


レニウムは剣を受け取ると、それをティックに手渡した。「ラバーさんのところへ運んでくれ。私は治療院へ寄って状況を確認してくる。何か分かったら、屋敷のトトに伝えてくれ」


「あいよ」


短く応じると、ティックは剣を手に取り、足早に宿を出て行った。その背中が見えなくなるのを確認してから、レニウムは改めてソードに向き直る。


「君はしばらく村に留まるといい。記憶を取り戻す手助けは約束しよう。だが、村の外に出るときは必ず誰かに知らせること。いいね?」


ソードは深くうなずいた。「ありがとうございます。」


レニウムはそれを確認すると、ユーラに視線を向けた。

「ユーラ、お前は村の外が危険だと理解しなさい。今回は大目に見る。ただし、これが最後だ。」


「……はい、お父さん。」


村長の威厳に押されつつも、ユーラはほっと胸をなでおろした。ソードの問題が解決するまで、彼を助ける時間が得られたことが嬉しかった。そして、これが二人にとって新たな絆の始まりになることを、まだ彼女自身も気づいていなかった。


次なる出来事は、穏やかなエルフの村にどんな波紋をもたらすのか──。

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