第20話(2)
ヤタが剣の柄尻にあるブラドの刻印を凝視する。
間違いない。
じゃが何で今こんな一気に大量に流出したんじゃ?
ヤタは店の主人に声を掛けようとする。
「おい、マスターや……」
するとその時、
ズズン!
と直下型地震の様な地響き。
「な、地震か!?」
手にしていた剣を置き、店の外に出ると
まだ朝方なのに空が薄暗くなりはじめていた。
天候によるものではない。
肉眼で分かるほどの濃い瘴気……魔素だ。
ここの民なら大丈夫じゃろうが、
城下町の外から来た田舎者どもには
耐えられぬかもしれんの。
発生元は……西門と南門か。
ここからなら西門が近い。
よし、すぐに向かうとしよう。
恐らくこれは奴の仕業じゃ。
…ん?
これが奴の仕業?
だとしたら奴のメリットは何じゃ?
2箇所同時という事は陽動に違いない。
陽動した場所に自らが赴くなど愚策。
仮に、杖を奪うハイエルフに助力していたとしても、
この陽動を機に奴なりの動きを見せるはず……
ヤタがそう思っていると、
頭上に青色の折り紙で折られた鶴が舞い降りた。
ミズの伝書!
ヤタは手に取ると急いで広げて文を読む。
そしてニヤリと不敵な笑み。
「了解じゃ、
アタシも今からそちらに向かう。
エギルとやら……今度は逃がさんぞ!」
この現象は城門を出たケイトとドールも
感じ取っていた。
城門からは西門も南門も遠いのだが、
2人は王国上位の魔法使い。
この程度は魔力感知不要で感じ取れる。
「西門と南門か。
しかも2箇所同時って事は、
典型的な陽動作戦ね。」
杖を狙っているハイエルフの仕業かしら。
何百年と生きるハイエルフは知略に長けた者が多い。
見た目の若さに反し老獪な知謀を持つ……
それにしては単調な作戦よね。
「ケイト様、これが陽動作戦と仮定すれば、
敵側のハイエルフは例の杖を手にしていると
思われます。
城下町の門をわざと通して泳がせるのが理想です。」
バーバラお婆ちゃんが用意した偽物の杖を
本物の杖と思い込み手にしている。
追跡が容易になるから、是非とも
ボスの手元まで持って行ってほしいところ。
でも、今それを伝えるには距離があった。
それなら手はひとつ。
「ドール、急いで家に帰って伝書鳩を飛ばして。」
「承知いたしました。
ですが、わざわざ家に帰る必要はなさそうです。」
そう言って魔法街の方に視線を移すと、
向こうからベレッタがカートを押してやってきた。
椅子にもなるカートの上には
占い用の小さな折り畳みテーブルを載せて。
ちなみに椅子の座面を開けると、
中には占い用の水晶と鏡、
そしてお昼のサンドイッチと水筒が入っている。
いつもお馴染みの内容であった。
「お婆ちゃん、ちょうど良いところに!」
ベレッタは、はいはいと言いたげにケイトを見据え
「この前の夜と同じ魔素が溢れたんだ。
さすがに言わなくても分かるよ。
伝書鳩は飛ばしておいたから安心おし。」
なんでこう、
あたしゃ伝言係が多いんだかね。
まあいいけどさ。
「バーバラお婆ちゃんは?」
「もうとっくに動いてるよ。
なんせ偽物の杖を作った製作者様だからね。
追跡はお手のもんさ。
追跡係もいるし。」
「追跡係?」
「老婆が走って追いかけるわけないだろ?
バーバラにはあたしのケルベロスを付けている。」
抜かりないなー、
それって兼お目付け役だよね。
とりあえず、今はあたしが動く必要は無いか。
「ではケイト様、私は一旦家に帰り、
国令印に従ってご同行の準備をしたいと思います。」
「あー、うん、よろしく頼むわ。」
これを聞いてベレッタがニヤリとする。
「女王様の御付き役ご苦労様だね。
ま、魔法陣絡みなら仕方ないさ。
魔法陣を使用不可にするには
解魔術師と封魔術師がいる。
ケイトとキャサリンが同行するのは必須だろうよ。」
「それは分かってるんだけどね……」
邪龍ラハブを囲っている魔法陣か、
嫌な予感しかしないわー。
「ま、今は体を休めておきな。」
瘴気の濃い最中に言われる台詞ではない気がした。
「現状の対応は不要でいいの?」
「ああ、大丈夫さ。
南門にはミシュランが、
西門にはグラッグがいるからね。」
「え……グラッグって、グラッグ・ドーガン?
宿場町からこっちに来てたの?」
「今回の杖騒動の事もあって、
第4軍が依頼したみたいだよ。」
あの2人が動くのか。
あたしは行っても邪魔になるだけね。
「……分かった。
あたしもドールと一緒に家に帰るわ。
お婆ちゃん、何か進展があったら教えてね。」
「あいよ。」
城下町で瘴気が濃くなろうとも、
全く気にもしないケイトたちであった。




