第19話(2)
冒険者の間で一般的に知られている
瞬間移動の魔法具は1つだけある。
『帰還の巻物』だ。
使用回数1回きりの使い捨てアイテムだが、
確実に安全な地上に瞬間移動できるもので、
迷宮などに挑む冒険者にとっては最高の保険と言われている。
それ故に発見したら売らずに手元に残す為、
市場に出回る事は無い。
噂では、座標を指定してどこにでも瞬間移動できる
『転移の巻物』が存在するらしいが、
超レアアイテムで見かける事は皆無だ。
だが、極東の島国インタテスラには、
そういった話をあざ笑うかの様なアイテムが存在する。
それが『転移の依り代』だ。
自分が戻りたい場所に木彫りの人形を置き、
使用する時はセットになっている
魔核の様な珠の魔力を開放するだけでいい。
使用後は、魔核に魔力を込め直せば
再度使用できるという優れ物だ。
だがこの『転移の依り代』は秘匿性の高い超極秘アイテムで、
関係者以外が手にする事はあり得ない。
魔法だと魔法使いの唱える転移魔法があるが、
かなり高位な魔法使いでないと習得できない魔法だという。
王国内で習得しているのは、ポーラ、ケイト、ドールの
わずか3人のみ。
ミシュランとフランソワですら習得には至っていなかった。
それを考慮すれば、転移の魔法具がどれだけ希少で貴重な
ものかがよく解かる。
だから玩具屋のリックが語る答えも当然、
「そんなの無いですよ。」
の一言だった。
ヤタは残念でもあるがどこかホッとしたような、
複雑な気持ちになっていた。
「あー、やっぱり無いかのう。
実は今追っている者がそのような魔法具を使っている
可能性があってな。
アタシはそれを調べておるのじゃ。」
ヤタはそう言いながら、
王宮護衛団のドッグタグ(認識票)を見せた。
「あ、王宮護衛団の方でしたか。」
言いながらリックは、うーんと唸りながら腕組み。
そしてボソリと
「……まさかな……」
と口に出てしまった。
ヤタがその声にピクリと反応する。
「なんじゃ、何か心当たりがあるのかや?」
ヤタに間髪入れずに突っ込まれ、
リックが、あーっ、と言いながら頭をポリポリかく。
「……ここじゃなんですから、中に入って下さい。
店内でお話しますよ。
ただ、眉唾ものの噂話みたいなものですが。」
「眉唾でもなんでも構わん。
とにかく1つでも多くの情報が欲しいんじゃ。
邪魔するぞ。」
ヤタはさっさと店内に入っていった。
その店内の商品棚には、
いっぱいの玩具で埋め尽くされていた。
商品(玩具)が少ないと夢が少ないように感じるから、
常にいっぱいの玩具を陳列していたい。
子煩悩なリックの素直な思いが感じ取れる。
ヤタはその店内の奥にある応接室に通された。
リックは緑茶を用意する。
「どうぞ。」
「お、すまぬな。」
椅子に座り、お茶を飲んで落ち着いたところで
リックが語り出した。
「知り合いの冒険者から以前聞いたのですが、
城下町内をリヤカー引きながら移動販売している
『雑貨屋』がいるらしいんですよ。」
「雑貨屋?」
「要は『なんでも屋』みたいな感じで。
販売だけじゃなく不用品の買取もしてくれるそうですが、
商業ギルドにそれらしい登録が無い事から
モグリだろうと言われていました。
ローブのフードを深く被っていて顔は分からないらしく、
声の感じからして初老の男だろうと。
背が低くいが体格がありそうなので、
ドワーフかハーフじゃないかという話です。」
「眉唾にしては随分と詳しいの。」
「実際に出会ったという冒険者の話ですから。
ただ会えた冒険者が極端に少なく神出鬼没なので、
『ホラ話じゃないか』みたいに言われていて、
ある種の都市伝説な話になっています。
そんな話ですし、
どこかの店の商売敵という訳でもないので、
商業ギルドも本気で捜し出す気は無いようです。」
「なるほどの。
商業関係者だから知っている都市伝説というわけか。
ちなみにその冒険者は其奴から何か買ったりしたのかや?」
ここでリックが一息つくように残りのお茶を飲み干した。
その後、まさかと口走ったその内容を語る。
「それですよ。」
「む……?
それとは……まさか!?」
「ええ、転移の効果を秘めたアイテム。
確か靴だったと思います。
表面に転移の魔力を込めた魔石で飾り付けした靴だとか。
転移の効果は使い切りなのか再利用可能なのかは
分かりませんがね。
ま、そんな突拍子もない靴なんで、
尚更話が都市伝説になった訳ですが。」
「そうは言うが、その購入したという冒険者は
実在するのだろう?」
「話を聞いた後は会っていないので、
今も城下町にいるかは分からないですね。
名も聞いていませんでしたし……
あ、そういえば。」
「なんじゃ?」
「その雑貨屋が売るアイテムですが、必ずどこかに
『Blad』と刻まれているそうです。」
「ブラド……其奴の名である可能性が高いの。
よし、冒険者ギルドに行って聞き込みをする。
御主人、情報提供感謝する。」
ヤタがそう言って立ち上がった。
そこにリックはスッと小さな木箱を差し出す。
「何やら大変なご様子なので、
試作品ですがこれを差し上げます。」
「……開けてみても?」
「あ、どうぞどうぞ。」
開封して中に入っている物を取り出してみると、
鎧武者のお人形であった。
1/5スケールくらいだろうか。
いかにも男の子が欲しがりそうな玩具に見える。
「鎧武者の人形?」
「以前、王宮騎士団第1軍から頼まれた時に製作した
鎧武者人形の試作品です。
きっとお役に立つと思いますよ。」
!
そうじゃった。
すっかり忘れておったがこやつ、
第1軍からスカウトされていた封魔術師。
……しかし、いくら鎧武者とはいえ、
こんなちっこい人形に何が出来るんじゃか。
まあ、とりあえず頂いておくかの。
「では、有難く頂戴する。」
ヤタは鎧武者人形を仕舞うや、
その小さな木箱を抱えたまま冒険者ギルドへと
向かっていった。




