第18話(3)
城下町には、呪われていると呼ばれるいわくつきの場所が
2箇所ある。
1つは、ケイトの家族が住んでいる魔法街。
そしてもう1つは、北北東にある旧グローリー邸であった。
100年近く昔、一代で富を築いた商人が建てた豪邸。
余程無謀な経歴の持ち主だったのか恨んでいた者が多く、
行商の旅の途中で野盗に襲撃され、殺されたらしい。
当時の事件に関する資料は見出しが残っている程度で
詳細は無く、屋敷にいたという執事やメイドたちも
忽然と姿を消していた。
噂では、野盗の正体はその執事とメイドたち。
元々復讐するつもりで屋敷に勤め、
殺す機会を窺っていたという。
そんないわくつきの屋敷なもんだから、
夜な夜な商人の霊が徘徊しているとか、
この土地に入れば執事とメイドたちの亡霊に殺されるとか、
真夏の夜にぴったりなお話が囁かれている。
所有者のいない屋敷な為、
国は寺院にディスペル(お祓い)してもらい、
その後解体しようかと思っていたのだが、
近隣住民からは反対のご意見が飛ぶ。
『解体したら周辺も呪われるんじゃないのか。』
とか、
『解体に国の税金を使う気か。』
とか。
ありきたりな意見ではあるが無下にできず、
頭を抱える話であった。
そこで国は、大手不動産業者に話を持ち掛け、
誰かこの屋敷を買い取ってリノベーションしてくれないか
広告を出してほしいと要望する。
その結果、一人の女性が格安で買い取った。
女性は時間をかけて掃除し、小綺麗にして、
庭先に小さな小屋を建ててヘンデル魔道具店を開店。
そして今に至っている。
まさかその女性が、
盗賊ギルド最高顧問の一人だとは誰も思うまい。
そこに、小人族の女の子ベティーが
お店の扉を勢いよく扉を開ける。
「バーバラ婆ちゃん、おっはよー!」
「なんだい、朝っぱらから元気だね。
今日は午前中から客人が来るんだ。
用件があるなら手短に言いな。」
手短にと言われたのに、
ベティーはそれを無視するかのように椅子に座る。
「え、婆ちゃんに客人?
その人、どんな極悪人?」
バーバラの客人は
全て極悪人扱いしているベティーであった。
しかしバーバラはそれを訂正させず鼻で笑う。
「フン!
とんでもない魔獣使いの悪友さね。
あんまり長居すると、魔獣に踏みつぶされて
更に背が小さくなるよ。」
気にしている背のことを言われたが、
ベティーも負けじと言い返す。
「フン!
あたしの素早さについてこれる魔獣なんて
いるわけないもんねー!」
ギャーギャー言い合っていると、店の扉が開いて
その悪友が入ってきた。
「ほう、あたしのケルベロスが追い付けないとは、
なかなか優秀な女の子がお友達にいるようだねえ。」
「え……ケルベロ…ス?」
バーバラは、早すぎるだろと言いたげな顔をする。
やってきた悪友、ケイトの祖母ベレッタは、
壁際に置かれていた椅子を引っ張り出し、
よっこらしょ言いながら座った。
ベレッタがジロリとベティーを見る。
「あんたも杖の件に一枚噛んでいるようだね。
バーバラ、特に隠さなくてもいいんだろ?」
「……ああ、お調子者で問題児だから、
隠したいところは隠したいんだが、仕方ないさ。
まあそれはどうでもいいとして
ベティー、さっさと用件を言いな。」
「例の杖なんだけど、2番の宝物庫なんでしょ?
マティスのおっちゃん、
婆ちゃんから聞いてなかったみたいだったんだけど、
どうやってあの宝物庫に入れてたの?」
「あそこを宝物庫に利用すると決めた時にだよ。
だから大分昔の話さ。
それに、狼人の能力を利用したあのギミック扉は、
あたしが設定したんだからね。」
「なるほどねー。
っていうか婆ちゃん、
それあたしに言ってくれなかったじゃん。」
「大事な杖をニセの宝物庫に保管する馬鹿が
どこにいるんだい。
それくらい言われなくても察しな。」
ベティーは正論を言われてぐうの音も出なかった。
だから話をズラす。
「そ、そういえばさ、
こっちの婆ちゃんは何の用で来たの?」
それにはベレッタが口を出す。
「バーバラがニセの宝物庫に用意していたっていう、
ニセの杖の行方を聞きにきたのさ。
……で、動きはあったのかい?」
「一昨日の夜に少し動きはあったが、それっきりだ。
国外に持ち出す手段を模索しているのかもね。」
「国外って話になると北・東・南は距離がある。
マハラティーニに向かうなら南の線もありだが、
真っ当に考えたら最短距離の西だろうね。」
ここでベティーが口をはさむ。
「南西の門は?」
「あそこの門は利用頻度が低いってんで、
先月から閉門したままになっている。
門の脇にある緊急の通用口は
厳重にロックされているよ。」
「あー、そんな単純じゃないかあ。」
「ま、手段としては、門の前でひと騒ぎ起こすのが
一番分かりやすいけどね。」
ベレッタは、言うだけ言うと、
またよっこらしょと言って席を立った。
「庭にあたしの魔獣を待機させている。
バーバラと一緒に行動するよう命じているから、
あたしはこれで失礼するよ。」
ベレッタの一番の目的は獣魔術の魔獣を
連れてくる事だったようだ。
まあ、元々言っていた事ではある。
護衛という名の目付役。
それでもバーバラはひとまず礼を言った。
「ありがとよ。」
ベレッタが外へ出ると、南の方から
見慣れた顔がハイエルフと共にやってくる。
ん、なんだヴェスターかい。
「おや、こんな所で会うとは奇遇ですねえ。
スージーさん、こちら私の母でベレッタといいます。」
「ベレッタ殿!?
あの獣魔術師の!?」
「おや、私のことを知ってくれるとは嬉しいねえ。」
「隣国にまで聞き及んでおります故。」
「何しにこんなことまで?」
「例の杖探しですよ。
この辺にあるという
ヘンデル魔道具店を訪ねてみようかと思いまして。」
「あそこはあたしの悪友が営んでいる小さな店だ。
杖の類は売っていないよ。」
「あー、じゃあ行くだけ無駄ですね。
ではスージーさん、他を回るとしましょう。」
「分かりました。
ベレッタ殿、機会があればまたお会いしましょう。」
「ああ、それじゃあね。」
ベレッタは、ヴェスターとスージーが
バーバラの家から確実に離れていったのを確認するや、
軽く息をついた。
「やれやれ、早めにここに来ておいて正解だったね。
それにしても、店関係全部回るつもりかい。」
その中でも特異な店の一つにベンハー玩具店がある。
王国に7人しかいないという封魔術師の一人
リック・ベンハーという名の店主が店を構えていた。
そこに、ロバスの部下であるヤタが向かっている。




