第17話(1)
当たり前な話だが、
個人の持つ能力は秘匿性が高い。
自身の切り札とも言えるので、
間違っても履歴書に書ける内容ではなかった。
もし書く場合、例えば戦士の場合は、
片手剣と盾が得意とか、
剣技の流派を習っていれば流派名とか、
あとはだいたいの熟練年数を記載する程度である。
馬鹿正直に全てを記載したら、
いつ足元をすくわれるかわかったもんじゃないから。
自身の敵は味方にだっている。
それが実力主義で弱肉強食な世界の厳しい現実の一端だ。
だが、例外が何名かいる。
如何に自らが己の能力を隠しても、対策すら講じられず
簡単に惨敗してしまう強者どもが。
それが王宮護衛団王城区域班、通称“御庭番”の
トップ12人だ。
王宮護衛団の総責任者セイクレッド・ウォーリアの息子
アルフレッドを筆頭に、一騎当千の猛者揃い。
“手出し厳禁”の5人に入っていなくても、
その5人と互角に渡り合えるだろう。
しかしながら、そんな猛者でさえ一目置く者たちが
一般国民の中に数十名いるという驚きの事実もあった。
筋肉ムキムキの長身男
ミシュラン・マーク・レイバーもその一人だ。
筋骨隆々な肉体美とは裏腹に、魔法使いとしての実力は
花屋のフランソワを凌ぐ王国ナンバー4の実力。
そして肉体美に比例する格闘術のスペシャリストと、
両極端な実力を併せ持っている。
それでいながら性格は穏やかで温厚。
妻シャディの為に愛妻弁当を自炊するなど、
家事得意で家庭的な男性でもあった。
普段は自宅にあるボディビルジム“ビューティフル”で
コーチをしている。
朝の日課は筋トレ腹筋から始まっていた。
そこにシャディが顔を出す。
「おはよ。
悪いけど急用で早朝出勤するから。
朝飯は用意しといたわよ。」
そう言われて、腹筋していたミシュランが身体を起こす。
「え、言ってましたっけ?」
「朝っぱらから伝書が飛んできたわ。
昨日の夜中、西区の辺りで何かあったみたい。」
「分かりました。
お気を付けて行ってらっしゃい。」
シャディが出勤した後、
ミシュランが筋トレを早めに終えて立ち上がった。
「では、今日の愛妻弁当は
カロリー高めにしましょうかね。」
それは、自分の弁当もカロリー高めに設定するようだ。
こんな日は、必ず何か厄介事が起きるもの。
ハイエルフのメリルの護衛で、
最も護衛らしい日になりそうな、そんな予感がしていた。
ハイエルフのメリルとスージーたち4人は、
顔を合わせぬよう別棟に泊まっていた。
当然食事も別。
用心して場所だけでなく時間もズラしている。
そのメリルの元に、王宮魔法陣のポーラが来ていた。
メリルも長身なのだがポーラも負けていない。
席に座れば座高も同じ。
そんな美女二人が対面して朝食をとっていた。
もちろん会話も兼ねて、である。
会話しながら食事の中、
メリルのフォークを持つ手がピタリと止まった。
「杖の代替品を製作してスージーに手渡した!?」
「ええ、試作品ですが大変驚いた様子でした。
数日後に完成品もお渡しする予定です。」
「まさか、試作品も含めて2本お渡しすると?」
「はい。
その2本があれば、貴国で長男の王位継承の儀に
使用するのは何ら問題が無いはずです。」
喜ぶべき内容であるが、
メリルの額からは冷や汗が流れていた。
魔道具製作技術の衰退が露呈したからなのか、
それとも何か別の理由があるからなのか。
ゴクリと生唾を飲み込みながらも声を出す。
「しかしながら、やはり本物でなければならない、
と言われる可能性もあります。」
「ええ、もちろん本物の捜索は継続いたします。
私の愛弟子にも頼んでおきましたので、
数日中には“良い知らせ”が届くと思いますよ。」
どこか含みを持たせた声に聞こえてしまう。
このポーラという女、いったい何を考えているの?
メリルが内心そう思っていると、
ポーラはニコリと笑みを見せた。
メリルが思わずゾクリとする。
「…お気付きになりませんでしたか?」
ポーラにそう言われ、
メリルは『え?』といった表情を見せた。
どうにもポーカーフェイスは苦手なタイプらしい。
「何を…ですか?」
「試作品と完成品の供与についてです。
貴国の国宝に匹敵する杖を無償で提供するほど、
この国の王はお人好しではありません。」
!
言われてみればそうだ…。
スージーたちは何を要求されたの?
「いったい、彼女らに何を要求したのです?」
「エレナ女王はまだ何も要求していません。
全てが終わった後に要求する予定ですので。」
「私たちが帰国した後の話に?」
「ええ。
本国内では要求できないお話ですから。
エレナ女王自ら貴国に赴くつもりですので。」
「ええっ!?
…我が国の資源か何か…でしょうか?」
メリルはもはや冷静さを失っていた。
あまりに突拍子もない話の連続に、
ついていけなくなりつつある。
ポーラの笑みが、どこか不敵に見えていた。
「今回の話のタネですわ。」
「え、タネ?」
「こちらにメリル殿とスージー殿の伝書が届いた後、
女王は貴国の王に伝書を送っております。
早ければ本日中にもその返答が届くことでしょう。
その中身次第では明日にでも出立すると思いますよ。」
メリルは今になって、とんでもない国を相手に
しているのだとようやく理解するが、もう遅い。
慌ただしくなる長くて短い1日が始まる。




