第16話(3)
ダイニングキッチンでは母の姿が無く、
祖母ベレッタが座って食事していた。
お婆ちゃん、今朝は早いなー。
「おはよー。
お婆ちゃん朝早いけど、すぐバーバラさんとこに行くの?」
「ああ、なんか昨日の夜にひと騒ぎあったらしい。
朝イチで話を聞いてくるよ。
あとはそのまま広場で占いさね。」
昨日の夜…大量の魔素と何か関係があるのかしら。
話しながらケイトも椅子に座ると、朝からニコニコ顔で
妹キャサリンがやってくる。
「あ、おーはーよー。」
他の人が聞けば眠そうに聞こえるイントネーションだが、
ケイトは微妙な違いを聞き取っていた。
ホエホエ妹のテンションが高い。
こんな時はロクな事が無いんだけど、少し探るか。
「何か良い事でもあったの?」
この何気ない会話が、爆弾級の答えを呼ぶ。
「ポーラさんから杖の製作を頼まれててね。
“試作品”が素晴らしかったから、
“完成品”も期待してるって言われたのー。」
……はい?
なんですって!?
杖って、あの杖のことよね!!?
あたしに杖の捜索頼んで、
妹に杖の製作頼んでたの!!!?
挙句、試作品はもう作って渡したってか!!!!?
ひとっことも(一言も)聞いてないわよ、
ポォラァァァァァ!!!!!
元々ポーラに文書を問い質すつもりではいたけど、
王宮魔法陣に行くのは予定ではなく確定になったわ。
なんでこの国の人間って、神算鬼謀の極悪人揃いなのよ。
神経ブチブチな状態のケイトの元に、
ドールが朝食を差し出した。
焼き立てのパン2枚、
塩コショウを軽くふった目玉焼きとベーコン焼き、
フレッシュサラダの胡麻ドレッシングかけ、
そして淹れ立てのコーヒー。
ケイトは勢いよくパンにそのままかじりつく。
(注:一口サイズにちぎって食べるのがマナーです。)
「おねーちゃん、おぎょーぎ、わるーい。」
誰のせいでこうなったと思ってんのよ!
朝から血圧爆上がりすること言われたら、誰でもこうなるわ!
と思いながら、ベーコンをフォークでブスリ。
「杖はあたしのとこに捜索依頼が来てたやつよ。
ポーラは保険をかけていたって事?」
これにはベレッタが割って入る。
「それでほぼ正解だろうね。
長寿種族ハイエルフならではの怠慢による技術衰退。
杖の捜索を依頼したって事は、
同じ仕様の杖を製作する技術が無いって露呈しちまったもんだ。
なら、製作を頼んでいても不思議じゃあない。」
それはケイトも想像はしていたけれど、確信が持てずにいた。
あのプライド高いハイエルフが杖の製作まで依頼するか?
という事である。
おそらくそれはほぼ有り得ない。
独特な技術で製作したもので2本目を製作するのは困難だとか、
そこそこ理にかないそうな言い訳を用意して、
杖の捜索しか手はないんだと言い切るだろう。
なら何故キャサリンが杖の製作を依頼された?
一番の可能性は、この国が積極的に杖の製作に動き、
ハイエルフの国マハラティーニと何らかの交渉をしている……
もしくは、海千山千のハイエルフの王が直接関与している。
この2択、或いは両方とも正解かもしれない。
あの女王は、杖騒動の裏で何を画策してんのよ。
ケイトは、まるで丼飯をかきこむようにサラダを喰らい、
ガツガツと勢いよくパンと目玉焼きとベーコンを喰らい、
最後にゴクゴクとコーヒーを飲み干して立ち上がる。
ベレッタはそれを見て、いつでも騎士団や護衛団に
入団できそうだねえと思っていた。
「ドール、用意したらすぐに王城に行くわよ!」
「かしこまりました。」
ケイトの、荒れに荒れまくりそうな1日が始まる。




