第05話(3)
冒険者は過酷な肉体労働だ。
そしてほぼ全てが自己責任で行われる為、長続きする者はなかなかいない。
銀等級まで上り詰めれば別だろうが、昇級試験または国からの推薦が条件にあり、現実の厳しさを突き付けられる。
誰でもなれる冒険者は貧困した過疎村からの出が多く、勉学していない者が多い為、筆記試験は実質不可能。
国からの推薦など夢のまた夢だ。
だから冒険者は、なんとしても若いうちに大金を稼ぐか、次の就職先を探す事に集中する。
それすら出来ないと、盗賊などに成り下がる者どもは決して少なくなかった。
一攫千金を狙うような冒険者は尚更で、定職して地道に稼ぐという事が苦手だとか。
職業訓練所があっても、行く気にはなれないらしい。
正直国も頭を抱える問題であった。
闇に生きる組織はそんな者の心情に容易く付け入る。
おいしい話がある。
楽に稼げる仕事がある。
そして使い捨てるように元冒険者を利用。
護衛団の矛先が直接我らに向かぬよう、巧妙に悪意を覆い隠すのだ。
壊滅した盗賊ギルド“セイル”は窃盗が主な業務だった。
貴族本人やその召使いが町に出てくるところを狙い、スリを行う。
狙うのは身に付けている貴金属。
国外で換金し、ギルドの資金とするわけだが・・・。
ここに停泊している帆船が、国外移動の手段だったのかしら。
ケイトが妹キャサリンを連れてくるまで待っている中、トレーシーは考えていた。
手段だとすると、大きな問題があるわ。
ここは流れのある地下水路。
流れのまま行くとしたら、どうやってここに帰ってこれるの?
普通に考えればまず無理よね。
・・・ん?
「ロバス、どうしたの?」
声を掛けられたロバスは、足音を消して歩き出した。
それを見たトレーシーは咄嗟に念話に切り替える。
『ロバス?』
『・・・私たち以外の気配を感じます。』
『侵入者?』
『それを言うなら私たちの方が侵入者でしょう。
こちらの存在には気付いているでしょうに、敵意はまるで感じないのが気になります。』
トレーシーはそれを聞くと
『なら、私のバーに招待してあげるわ。』
と言って呪文を詠唱しだした。
その呪文は夢魔術。
周辺が大きな泡のようなものに包まれていったかと思うや、霧状のものが視界を遮っていく。
そこに地下水路や船などは見えなくなり、一軒のお洒落な平屋の建物が新たに出現していた。
迷い込むようにやってきたベティーは目が点に。
「ど、どうなってんの、これぇ!?」
バー“ナイトメア”の看板が付いた扉は、誘うようにゆっくりと開いていった。
「・・・あ!
ナイトメアってまさか!!」
ベティーは何かに気付いたのか、誘われるがままに扉を入っていく。
「いらっしゃいませ。」
店内では、トレーシーがカウンターに立ってグラスを用意していた。




