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第九話 謎が解け、謎が生まれること

 謝霊が言い切ると、艾琳はふっと笑って手を叩いた。

「お見事。さすが探偵さんね」

「あまり褒めすぎないでくださいよ。あなたがなぜこんなことをしたのか、私にはまだ分かっていないのですから」

 謝霊も不敵に笑って言い返す。

 艾琳は大きく息をつくと、「そうねえ」と言って切り出した。

「動機ね。何でしょうね? ただひとつ言えるのは、私も昔は子どもがいたってこと。双子だったの、とっても可愛かったわ……でも子どもたちは生まれたばかりのときに道士に取り上げられて、私は立派な丈夫をたぶらかす悪霊だと言って糾弾された。仕方ないわね、だってそのときすでに私は死んでいたんだから」

 艾琳はそう言うと立ち上がり、戸棚の一番上の段から古い木箱を取り出した。蓋を開けると、中には古い髑髏が安置されている。

「死ぬ直前も私には子どもがいたわ。私、実はその子をしばらく育てていたのよ……その子はお寺に引き取られて、私は安心して冥土に渡るよう言われたわ。でも冥府には行けなかった。死んでからも人に愛されて子どもを持てたときは天にも昇る心地だったけれど、あんなことをされたら地の果てまで憎んでも憎み切れないわ。ひとつ言えるとすれば、私はまだその道士を探してるってこと。みんなの精気を集められるのが妓女の良いところね……正直、小妃のことは駄目元だったわ。でもあの子の健気な様子を見ていたら昔を思い出して。そんなところかしらね」

 艾琳はほうと息をつくと、謝霊を見据えて言った。

「でも探偵さん、あなたもあまり人のことを言えないんじゃなくて? あなたは私から人ならざるものの気配がすると言ったけれど、私もあなたから同じ気配を感じるわ。あなたはどちらかというとこっちの側の人よ。人間としては生きているけれど、その気になれば簡単にこちらに渡れてしまう」

 謝霊はきょとんとして目をしばたいた。謝霊自身も知らなかったことをどうやら艾琳は言い当てたらしい。

「……養父からは、私は赤子のときに一度死にかけたことがあると聞いたことがあるのですが」

「それは関係ないわ。あなたは生まれつきこちら側に片足を突っ込んでいる――もしかしたら、あなたの生みのお母様も鬼なのかもしれないわね」



***



 こうして小妃の髑髏の謎は解けた。しかし艾琳の言ったことが気になっているのか、謝霊の顔は晴れないままだ。

 私たちは無言のまま事務所まで帰り、黙ったまま階段を上った。

「何もないなら、私はモリソン商会に戻りますが」

 私は謝霊に声をかけた。すると謝霊は唐突にこう言った。

「慧明兄。もし私が鬼の類なのだとしたらどう思いますか?」

 思いがけない問いに私は目をしばたいた。鬼だ何だと言われても、私はすでに謝霊と距離を置きたい気持ちは捨てている。

「もしかすると、父はそれを知っていて私を謝家に迎えたのかもしれません。あの人はこの手の術に長けていましたから……」

「そうだとしても、あなたの心臓がすでに止まっているわけではないのでしょう。謝霊兄」

 私が言うと、謝霊は寂しげな笑顔を一瞬だけ見せた。しかしそれはいつもの人の良い笑みに早変わりし、口調も軽く謝霊は言う。

「そういうことを言ってくださる人は初めてですよ」

「……それを言うなら私にだって秘密はあります。私の両親は昔後宮に仕えていた宦官と女官でした。清王朝が滅亡すると私たちの暮らしは途端に厳しくなり、私は各地を放浪して上海に来たんです」

 なぜかは分からなかったが、今ならこれが言えるような気がした――謝霊は突然の告白に目を丸くしたが、すぐにふっと笑みを見せて言った。

「なんだ、そんなことですか。だったら私の秘密の方がすごいですね」

 子どもが各々自慢をし合うような軽さで謝霊は言った。私もつられて笑い、「そうですね」と返す。

「なんにせよ、私は助手の親のことはとやかく言いませんよ。これからも手伝ってくれるんでしょう?」

「仕事が休みのときにはですが。私の本分は雇われ人なんですから、あまり穴をあけると本業がなくなってしまう」

 私が答えると、謝霊は少し唇を尖らせた。

「モリソン商会を辞めてこっち一本に絞ってくれてもいいんですよ。寝室も空いてますし、当然報酬の一部はお渡ししますし」

「は、まあ考えておきますよ」

 私はそう答えると、脚に寄りついてきた七白を撫でてやった。謝霊の腕の中にはいつの間にやら八黒が収まっている。

「ではこれからもよろしくお願いしますよ、慧明兄」

 謝霊はそう言うと、空いた手で丸眼鏡をちょ、っと押し上げた。

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