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第1話 デバッグとテストプレイ

初めて投稿します。よろしくお願いします。



「緑の書」は完結部分までできています。

一話と最終二話は少し長くなってしまいました。

毎日1話か2話を投稿します。


よろしければ、お楽しみ下さい。


 □□□□


 ── ログインしました ──


 意識の片隅にログが流れる。

 何度も経験していることだ。特に気にすることもなく、周りに意識を向ける。


 目の前では無数の小さな光球が浮いている。それぞれの光球は色合いや大きさが微妙に違う。


 そのうちの一つに近付き、そっと手を添える。ちらりと確認した後、そのまま手先から吸収する。その後適当な光球を選んで同じことを何度か繰り返す。


 あまり選り好みするとジャンルが偏ってしまう。いくつかは適当(ランダム)に選ぶことにしている。


「今日は、こんなところかな」


 私は今日の「副業」内容を改めて確認する。


「えーと、『VR用お絵描きアプリ』 ふーん? ああ、コーデックのバージョンが違っているみたい。よし、これでいいかな?」


 手早くデバッグを済ませる。


「ついでにサンプルもいくつか入れておくね」


 サービスで自作のフリー素材も入れておく。その後何度かテストプレイを繰り返し、バグが残っていないか確認する。どうやら大丈夫みたい。


「次は、と、 げっ!?」


 次のアプリは変身ものだ。しかも苦手な昆虫系。


「サッサと終わらせよう⋯⋯」


 アプリ自体の不具合はすぐに直せたけれど、テストプレイは最低だった。


 幼虫になるだけならまだしも、鳥に食べられたり、肉食昆虫に食べられたりするのは、フルダイブ完全没入型VRならではの新鮮な体験ではあるんだけど。


 あるんだけどね?


 寄生虫に卵を産み付けられて脳を操られたり、せっかく秋の終わりまで生き残れたのに冬虫夏草になる経験はもうしたくない!


「これは年齢制限が上限イッパイの内容だったと報告しておこう」


 自然の摂理は厳しいけど、ネットの年齢制限も厳しいんだよ! 


「次はと、イソギンチャク!?」


 ⋯⋯今夜はハズレが多いみたい。


「イソギンチャクになって何が楽しいんだろう?」


 イソギンチャクの気分を味わえるアプリのデバッグとテストプレイを終えると、他のアプリの分も次々と終えていく。



 □□□□


「これくらいにして、次に行くよ」


 私は一つ上のフロアに移動する。


 さっきのフロアはCレベル。簡単な審査にパスして守秘義務の契約とサイトへの登録さえしていれば誰でも入れる。


 デバッグやテストプレイの依頼をすることも、依頼を受けることもできる。


 もし悪質なウィルスが仕込まれていたり仕込んだりすれば、登録抹消のうえアクセス禁止となってしまう。他の同じようなサイト同士でも違反情報は共有される。


 ⋯⋯さっきの昆虫系は悪質なアプリとして報告しておいてやろうかな。


 フルダイブ完全没入型VR環境を使った犯罪もあるみたい。そのためVR環境下ではVR環境にいることを常に意識の片隅に通知し続けなければならない。


 一定時間以上経ったり強すぎるストレスを受けると自動的に切断するプログラムや回路を、ソフトとハードの両方に組み込んでおかなければならない。


 そういったところは、さっきの昆虫系はしっかり守っていた。


 捕食されている実感があるのに、精神的苦痛を許容範囲内に収めるとか、無駄な方向への努力はしていた!


 BレベルになってもCレベルのアプリのデバッグはする。そうしないとCレベルのアプリをデバッグする人が経験の少ない人ばかりになってしまう。


 自分より下のレベルのデバッグは不人気なアプリでもやらなければならない。努力目標なので強制力はないけど、この業界全体のことを考えるとやっておいた方が良い。


 ⋯⋯後は偉い人に任せよう。


 気を取り直して、私はBレベルのフロアに入る。ここにある光球はさっきのフロアのものより大きい。その中から「人の形を保ったまま」動けるアプリを選ぶ。


 ⋯⋯ここからは好きに選べる!


 このフロアからは有料のアプリが増えてくる。ここに入れるテストプレイやデバッグをする人は、下のフロアで実績を重ねた中でも評価の高い者だけだ。


 アプリの方もメーカーが大金を投じて作ったものが多くなる。テストプレイやデバッグをする人は実績と評価が、メーカーの方は登録料が必要になる。


「まずは、これかな?」


 私はある程度名前が売れているメーカーのアクションゲームを手に取った。中身はよくある剣と魔法モノ。


 ざっと見たところ大きなバグは無かったので、パラメータを少しずつ調整して動作の最適化を行いながら小さなバグを潰して行く。


「次は、ん? 武術トレーニング?」


 添付のテキストを読むと「武道」ではなく「武術」で合っている。


 気になるのは「色々な状況」を乗り越える動きのお手本を希望しているところだ。完全に乗り越えることが無理なら、少しでもそれに近い状態でも良いみたい。


 ⋯⋯うーん、やってみようか?


 自分の「治療」に良い影響を与えることが分かってからは、スポーツや武道や武術のトレーニングアプリは積極的にやった。


 できるところだけでもやっておこう。もう少しでAレベルに行けるし。Aレベルになれば年齢制限のある(大人向けの)アプリでも扱えるようになる。


 実年齢が足りていないので数字の羅列しか見ることはできないけど、そこはまあ何事にも抜け道はある。


 何といっても私は妄想力(生きるのに必要な力)⋯⋯ではなく、想像力(あった方が良い力)に自信がある!



 == ログインしマシた ==


 パリン(わたしの)



 ん? ちょっと違和感が。まあ、大したことはなさそうだ。


 どこかの道場の中みたいな風景だ。木刀を持った二人が対峙している。


 手前が十代半ばの私と同じ年齢ぐらいの少女で、奥は少し年上の男の人だ。早速二人の打ち合いが始まった。


 少女が打ち込むと、男の人は丁寧に(さば)き、その動きをそのまま利用して少女の無防備なところに一本入れる。


「⋯⋯イットウ流?」


 今の動きだけだと分からないけど、剣道の(かた)の一つに近い動きだ。


「次は私がお手本を見せれば良いのかな?」


 説明文を確認してから、少女と交代して男の人と対峙する。


 特に「始め」の声はなかったので、男の人の呼吸に合わせ、ゆっくりとした動きでスッと軽く打ち込む。


 木刀の先が吸い込まれるように男の人に当たる。


「これでいいのかな?」


 私の動きを真剣に見ていた少女と交代する。再び練習が始まり少女が男の人に打ち込む。


 おしい! あと半歩踏み込んでいたら一本取れそうだった。


 失敗するたびにまたお手本を見せる。素振りもしてもらい、体捌きや足捌きも同時に教える。


 少女も私に話しかけようとしてくるけれど、会話は成り立っていない。少女が動くときに手を添え何とか伝えてみる。


 そうこうしているうちに、少女が男の人から一本取れるようになった。いくつかの例を残すため、何度か繰り返す。


 このアプリを使う人にとって、私がお手本を見せたり少し指導したりする役になればいいんだよね?


 ログは自動的に記録されている。お手本になるような動きをする。上手くいかない人への教え方を何通りか残す。で良いみたいだ。


 最初は中程度のアプリだと思っていた。少女の動きや飲み込み方の作りが細かい。


 ときどき話しかけてくるときの様子もやけに再現度が高い。会話は成り立っていないけれど、何やら一生懸命に話そうとしている。


 依頼には載っていなかった音声データの方も、後でデバッグしてみようか。ここまで再現されると、まるで本物の少女剣士を鍛えているような気がしてくる。


 良く見ると顔立ちは整っているし、立ち姿もスッキリとしている。快活な大和撫子というちょっと矛盾している言葉が似合う。


 元々は快活そうなんだけど、今は少し(うれ)いを帯びている様子に、庇護欲が掻き立てられる。


 ⋯⋯モチベーションが上がってきた!


 私の守備範囲は結構広い(だいたいイケル)。ノーマルはもちろん、多少腐っていたり耽美でも大丈夫! 少しくらいなら、腐っていても大丈夫!


 大事なことなので、自分に対して2回言いました!


 今の時代の「腐る」は性別で差別はしない!

 GLもBL平等だ!

 これも大事なことですワヨ!


 次は打ち込まれた場合の対処の練習だった。これも何度か繰り返すと攻守共に男の人に勝てるようになってきた。


 木刀同士の練習が終ると、木の槍になったり小太刀(こだち)くらいの長さの木刀に変わった。


 風景も外になり足場も変化してきた。人数も一対一ではなくなった。一対複数や複数対一、複数対複数の練習になってきた。



 □□□□


 パリーン(たいせつな)



 次に場面が変わったとき、少し違和感を感じた。少女と男の人がこちら側なのは良い。木刀ではなく太刀なのも良い。ただ対戦相手が人間ではなくなった。


「別のゲームが混ざった?」


 武術なので足場が悪くなったり相手の人数が変わる練習は分かる。真剣を使った練習もする。けど人間以外と戦う練習なんているの?


 もう一度説明文に目を通す。お手本を見せる。少女の動きを修正していくぐらいしか書かれていない。


 後は何かの割合が一定以上になれば直接操作もできるそうだ。


 これが「色々な状況」ということ?


 そんなに深い意味はなく、単なるオマケのミニゲームかも知れない。


 考えている間に二人が動き出していた。相手はダンゴムシを大きくしたような感じ。大きいといっても1メートルぐらいなので、危なげなく倒していた。


 次に出て来たのは2メートルぐらいの大きさでカマキリに似ていた。ついさっき私を食べたヤツを思い出す。


 今度は男の人が前衛の壁役になる。スキを見つけて少女が斬りかかっていく。


 男の人は傷付きながらもシッカリ少女を守っている。その様子を気にしながらも少女は攻撃を続けていく。


 ⋯⋯二人は「兄妹」なのかな?


 チクリと胸が痛くなった。「その辺り」の記憶は曖昧なんだよね。


 見ているうちに巨大カマキリは弱ってきた。この調子なら大丈夫かな。


 しばらくすると少女の剣が足の一本を斬り飛ばし、巨大カマキリが怯んだ瞬間、男の人が鋭く踏み込み斬り付けた。


 それが決定打となって巨大カマキリが倒れていく。



 □□□□


 私は事故に巻き込まれて大きな傷を負った。体や脳の一部も欠損してしまった。普通の治療では助からなかった。


 そこで治験中の治療方法と治験の承認が下りたばかりの治療方法が使われた。最初は治験に使われたことがある有機ナノマシーンを使った。


 脳の欠損で肺や心臓を動かす神経も繋がっていなかった。有機ナノマシーンでは間に合いそうになかった。


 時間さえあれば有機ナノマシーンはDNA情報を読み取る。その後本物とほとんど見分けの付かない人工細胞を作る。


 ただ私の場合はその時間がなかった。


 そこで使われたのが治験承認が下りたばかりの、有機と無機のハイブリッド・ナノマシーンだ。開発者の教授は「画期的な新技術」だと言っていた。


 無機ナノマシーンは各国で開発も進んでいる。新たな素材や丈夫で小さな構造物も作れるようになってきている。


 丈夫で大きな構造物まで作れるようになれば、計画中の軌道エレベーターに使えるようになるかも知れない。


 ただ有機体との相性はまだ良くない。


 そこでどこかのマッドな教授が、有機ナノマシーンで作られた人工細胞の中に無機ナノマシーンを入れることに成功した。


 何でも動物プランクトンでありながら植物プランクトンを体内で育てる「ミドリゾウリムシ」という生き物からヒントを得たと言っていた。


「お、女の子の体の中に、そ、そんなモノを入れるなんて!」


「そ、その言い方はやめたまえ。私が犯罪者のようではないか!」


「でも『合意』した覚えがありません!」


「また誤解を招くような言い方を⋯⋯ これは君を救うために必要だったのだ」


「男の人はみんなそう言うって聞きました!」


 という教授との一幕はあったけど、本当に私を救うための苦渋の決断だったそうだ。


 ⋯⋯今でも犯罪者だと思っていることは内緒にしよう。


 いや、でも本当、どこまで合法?

 色々考えると「アウト」な気がする。


 もちろん元々は有機細胞同士のことだから、そのまま真似をすることはできない。


 何度も試行錯誤を繰り返し、疑似有機細胞の中に無機ナノマシーンを取り込める様になった。


 この技術があったので私も生き延びることができたし恩恵も授かった。


 私の「脳」を構成している細胞は、本来のものと見分けが付かない人工細胞もあり、そこに金属を使った神経網モドキも混ざっている。


 通常の神経細胞なら信号が伝わるのにある程度の時間がかかる。そこが金属に代わったらどうなるのか。信号の伝達速度が上がる。


 それが脳のある程度以上の部分に置き換わったら「思考」の速度が上がることになる。


 有機部分との接続は有機ナノマシーンに任せ、金属同士の接続は無機ナノマシーンに任せることができる。


 普通なら治療が難しい神経網の欠損でも比較的短時間で治せるようになる。


 脳のいくらかを別のものに変えたので、思い出や考え方の一部は変わったと思う。「自我」について悩んだこともあるけど、失ってしまったものは仕方がない。


「君は君だ。変わっていない」


 ⋯⋯気にしてもしょうがない。


 いつものように自分に言い聞かせていく。



 □□□□


 最初の何日かは意識もなかった。それからは自分のリハビリだけではなく次第に「副業」もできるようになった。


 今の私の状態とフルダイブVRシステムは驚くほど相性が良い。


 普通は頭部に脳波の検知装置や電磁波の出力装置を取り付ける。そこでVR環境と情報のやり取りをする。


 普及しているものはヘッドギア型が多い。コアなユーザーの中には効率を少しでも上げるために、完全なスキンヘッドになる人もいるらしい。


 VR環境の扱いはデータ量によって変わってくる。


 比較的データが小さい学習用やトレーニング用ならヘッドギアのメモリで足りる。演算もヘッドギア任せだ。


 逆にデータが多い大規模シミュレーションやオンライン・ゲームは、サーバーで殆どの処理を行う。ヘッドギアは単なる接続端末として扱う。


 ゲームによってはメモリを増やし演算速度を上げると動かしやすくなる。私の中にあるナノマシーンはメモリや演算処理の代わりも行う。


 ヘッドギアが無くてもダウンロードしたアプリ本体さえあればVRゲームが高速でできる。


 今の私は外に出られない。ちょっと、おど⋯⋯教授の「好意」もあって世界中のネットワークに接続できる回線を使わせてもらえている。


 その世界的ネットワークには、今夜私が接続したような、開発中のアプリのテストプレイやデバッグの依頼をしているサイトも数多くある。


 最初はCレベルのアプリのデバッグを繰り返した。一つ一つの報酬は無かったり少額だった。数をこなすことで実績や高い評価をもらうことができた。


 実績や評価が一定基準を上回ると、Bレベルのアプリの依頼を受けることができた。私は特殊だったのでテストプレイも何倍もの速さでできた。業界では少し有名人になってお金もたまってきた。


 使う機会があるかどうかは分からない。いざというときの保険ぐらいになるかも知れない。


 それよりも今は体を自由に動かしたい気持ちが強い。デバッグやテストプレイはスポーツや武道のトレーニング用アプリを多目に選んでいる。


 先日武術トレーニングの依頼があったので受けてみた。中には「失伝」した流派もあった。


 同じ時代の似た流派から、残っている文献に近いものを選んで、それっぽく調節して「復元」した。


 リハビリ用のVRアプリと、副業の運動用VRアプリとVRアクションゲームのデバッグもたくさんこなした。


 体を動かすイメージはかなり固まった。


 VRで上手く体を動かす練習を積めば、現実でも動かしやすくなるのは、ここ何週間かで実感している。


 学習用VRアプリのついでに、SとかLとかの「耽美な趣味」用のVRゲームのデバッグにハマったのは内緒だ。



 □□□□


 ⋯⋯少し思い出に気を取られてしまった。


 二人を見ると男の人の怪我が残っているみたいだ。それを「妹」が心配している。いつの間にかこの二人のことを「兄妹」として見ていた。


 ⋯⋯問題ないよね?


 今までも怪我をする場面はあったけど、次のステージに進むとリセットされていた。リセットされないということは⋯⋯⋯⋯嫌な予感がする。


 二人の前に巨大カマキリが現れた!

 しかも今回は3匹いる!


 さっきの戦いで巨大カマキリの戦闘力は把握している。二人のことは何度も見ているのでこちらの戦闘力も分かる。今の状態で3匹の巨大カマキリはきつい。



 ⋯⋯今回が駄目でも次回以降で勝てば良いんだよ。


 ⋯⋯ここで手を出したところで、別の人がプレイしている最中に手を出すことはできない。


 ⋯⋯もうじきAレベルになれそうなのに、ゲームの主旨に合わない改編でもして評価が下がるのも困る。


 自分に対する言い訳を重ねる。


 ⋯⋯「兄妹」だと思ったのが失敗だった。


 そう考えている間にも二人に向かって巨大カマキリが近付いて来た。少女は男の人に向かって何か叫んでいるようだ。


 男の人は少女を背中で庇うように立ち上がる。少し振り向き何か言った。少女はイヤイヤをするような素振りを見せる。




【兄】は一瞬困ったような顔して、少し強引に【妹】を後ろに押す。




  っ!!




 ⋯⋯【妹】をかばって【兄】が死ぬなんて!


 ⋯⋯残される【()】の気持ちも、分からないの!?




 ⋯⋯気が付いたら走り出していた!!

 



 私は【兄妹】の前に飛び出した!


 ⋯⋯無力だった【あの時】とは違う!


 一番手前のヤツからだ!


 一気に距離を詰めると、半身になりながら、巨大カマキリの心臓あたりを左の掌底で突く。連続技の初擊だ。


「!」


 掌がすり抜けた!?

 直接攻撃はできないってこと?


「なら、こうよ!」


 大きなペナルティーでも構わない!


 さっきの魔法モノのコンポーネントを、周りのデータに上書きして即行で組み上げる!


「ファイア!」


 炎のかたまりが巨大カマキリに向かって飛ぶ!


「くっ! これも駄目!?」


 炎のかたまりは巨大カマキリをすり抜けて、飛んで行った!



「じゃあ、こっち!」


 私は【兄妹】に近付く。【兄妹】は少し驚いた顔で私を見ている。

 二人を抱えて逃げようと手を伸ばした。



「っ! なんて、意地の悪い!」


 さっきまでは触れた【妹】が今は触れない!


【兄】は何かを察したように、私に黙礼し【妹】を強く押した。


【妹】は嫌がりながらも私の方によろけて来た。


「っ! 今度は掴める! 抱えられる!」


【兄】の方は⋯⋯⋯⋯駄目か!


 二人同時は駄目だけど【妹】だけなら抱えて逃げられる。


 そのようすを見ていた【兄】は、私と【妹】に向かって柔らかく微笑んだ。


 そのまま【兄】は巨大カマキリに対峙する。どうやらここを⋯⋯








 ⋯⋯ふざけるな!!



 ⋯⋯【()】の目の前で【(お兄ちゃん)】が死ぬところなんて、例えゲームであっても、もう二度と見たくない!!



【「お兄ちゃん!!!」】



 初めて【妹】の声が聞こえた。


 言っている中身が一緒だから、ひょっとしたら私の気のせいかも知れない。




 == エモーショナル・シンパシーが一定値を超えました ==


 見慣れないログが流れるとともに、私は【妹】と【重なった】


□□□□ などの記号は視点を表しています。


途中からいくつかの視点に切り替わります。

自分の筆力では描写が不十分になるかと思い、変則的な方法に頼らせていただきました。


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