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第93話 そういう抽象的なのが怖くて、見てみたかったんだがな

「ティナお姉さまとも踊ることができて大満足です!」


 今日のパーティーが終わり、ウェリス家での反省会の席でのフリーデの感想だ。


「私も楽しかったよ」


 舞踏会の時は、男女で踊らないといけないという決まりはなく、男性同士、女性同士で踊っても構わない。ただ、最初のうちは男性から女性を誘ってエスコートするというのがならわしらしく、今日もクライブたちが帰るころまではみんなそうしていたみたい。


「私は無事終わっただけで、もう十分だよ」


「それはこっちのセリフだ。お前の晴れ舞台を台無しにするわけにはいかなかったからな。最後まで気が抜けなかったよ」


 お父さんもコンラートさんもパーティーが問題なく終わったことに、二人そろって胸を撫でおろしている。


「ねえ、お父さん。カチヤにはいつ帰るの?」


 カペル家の領地は南部に決まったけど、今度お父さんたちが帰るのは元の領地のカチヤだ。新しい領地には、カチヤを王家に返す手続きがすべて終わらないと行けないんだって。


「明日のうちに今日のパーティの整理を済ませて、明後日には帰るよ。来週には王家の代官が来ることになっているから、その準備をしないといけないんだ。ところでコンラート。私はいつ頃新しい領地に行けると思う?」


「うーん、領地の転封てんぽう自体、私の代になって初めての経験だからハッキリとはわからないが、少なくとも暖かくならないと無理なんじゃないのか」


 コンラートさんも知らないんだ……貴族が領地を替わること自体、あまりないのかな。


「暖かくなって……確かに冬の間は動けないか。引っ越し前に一度、メルギルに行ってみたかったんだが、難しそうだな」


 メルギルというのはカペル家の新しい領地の中心都市の名前で、カチヤと同じように港町だと聞いている。気候は温暖で冬でも雪が降ることはほとんどないみたいなんだけど、王都からメルギルに向かうには山を越える必要があって、冬の間は道がぬかるんで通りにくいみたい。


「メルギルに行ったことのある監察官の話では、いいところらしいぞ」


「いいところ……そういう抽象的なのが怖くて、見てみたかったんだがな」


「まあ、そう言うな。今回の件は異例尽くしで前例がないものも多いんだ。お前は伯爵になれるんだし、多少のことは目をつぶってくれ」


「ああ、そうだな。もしかしたらあの時に死んでいたのかもしれないのだから、贅沢は言ってられんな」


 お父さんとお母さんは、カチヤが占領されたときに教皇国に捕まってしまった。こうして笑って話すことができるのも、生きていたこそだからね。感謝しないと。


「そうだ、ティナ。頼まれていた例の件だけど、うまくいきそうだよ」


「本当ですか!」


 よかった。どうなったか、コンラートさんに聞こうと思っていたんだ。


「いったい何の話だい?」


 お父さんにコンラートさんに頼んでいたことを話した。


「ほほう。すると、南部に向かう道のうち、王家の所有の土地の部分は王家で改良してくれるというわけか」


 エリザベートちゃんから、王都から南部に行くにはデコボコの道を通らないといけないと聞いていた。これは南部にある貴族の領地の中だけの話かと思っていたら王家の支配地でも同じで、王都を出てからずっと道が悪いそうだ。領地の中なら南部に行った後に自分たちで道を良くすることもできるけど、王家の所領の中はそうもいかない。そこで、カペル家が貰う支度金の一部を使っていいから道を良くしてくださいって頼んでいたのだ。


「内務省の中にもあの酒のファンがいるからな。あいつらもいつか道を良くしたいと思っていたようなんだが、王家の土地だけ良くしても意味ないから二の足を踏んでいたみたいなんだ。そこに新しい領主ができて道を良くしたいと言うだろう。さらに予算も出してもらえるならやらない理由はないということみたいだね」


 確かにあのお酒は美味しかった。スルスルと入るんだもん。でも、あんなに高いとは知らなかった。王都の人たちが年に一度、コップ一杯を飲めるかどうかとか……あのあとコンラートさんに聞いてびっくりだよ。知ってたらあんなに飲まなかったのに……

 これから道が良くなって、お酒をたくさん運べるようになると、多分値段も下がるんじゃないかな。せめて、何かの記念日には心置きなく飲めるくらいにはなって欲しいかも。そうしないと私も飲みにくいしね。


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