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第92話 クライブ、次の曲は踊ろう

「ティナ、お疲れ様。うまく踊れていたよ」


「途中危なかったけど、何とか出来たー」


 アレンの傍に控えていたルーカスさんが、私のために椅子を持ってきてくれた。


「ありがとうございます。あ、ルーカスさん、お食事はとられましたか?」


「ティナ様、お気遣いありがとうございます。先ほど、交代したときに頂きました。美味しかったですよ。私は後ろにおりますので、何かあったらお申し付けください」


 ルーカスさんは、さっきと同じようにちょっとだけ離れてくれた。


「ルーカスたちの料理は?」


「裏に控室があって、そこにお弁当を用意していたんだ」


 ここでみんなに食べてもらっている料理とほぼ同じものを、警備してくれる人たちにも用意していたんだよね。


「今日の料理はウェリス家の料理人さんたちが作っていたのでしょう。さっき食べた時、前の時と味が違うような気がしたんだけど、気のせいかな?」


 アレンはルーカスさんに聞こえないように耳打ちしてきた。


「私はお屋敷と同じ味に思ったけど……」


 前ってことはデュークの時だよね、アレンはウェリス家に来たことは無いし。ということは、私の中に入って食べた時かな。


「もしかして、この体とティナの体とじゃ味の感じ方が違うの?」


 アレンはさらに声を落として話しかけてきた。

 確かに、その体が感じたことをデュークも感じていたはずだからそうなのかもしれないけど、私には確認のしようがない。


「私にはわからないけど、男と女で違いがあるのかな?」


「うーん、そうかも。今度また試させて」


 試させるって、私に入るってこと?


「嫌だよ。自分の体があるんだから、それで我慢しなさい」


「そこを何とか」


 そう言われても……


「ティナ、兄上。楽しそうですね」


 クライブがやってきた。


「どうしたの?」


「楽隊さんが休憩するって言うから、僕も一休み」


 そういえば、音楽も止まっている。アレンと話をしていて気付かなかった。


「そうだ。アレン、クライブに頼んで味比べしてみたら?」


「それはやった。同じ味だった」


 やってみたんだ……同じ味ってことは兄弟だからかな、それとも男女間で違うのか、なかなか興味深い気がするけど、かと言ってデュークに体を貸すのもなぁ。結局私がわかるわけでは無いし……


「何の話?」


 クライブにこれまでのことを話す。


「あー、この前ですね。一緒に食事しているときに、味が違うのかって話して試したことがあります。兄上は一緒だったって言うんですけど、僕にはそれを確認する手段が無くて……」


 やっぱり、デュークにしかわからないから、体を貸すのはやめておこう。ちなみにデュークはアレンの近くなら体から出ることができるみたい。離れられる距離は私の時と一緒で約5メートル。でも、私が近くにいない時にはほぼそこから動くことができないわけだから、ほとんどアレンから出ることは無いんだって。


「それで、ティナ。次は僕と踊ってくれる? 僕たちはそろそろ帰らないといけないからさ」


 そういえば、クライブとアレンは先に帰るんだった。一緒に踊っておかないとせっかくクライブをパーティーに呼んだ意味がなくなってしまう。


「わかった。クライブ、次の曲は踊ろう!」


「それでは兄上、ティナをお借りします」


「クライブ、ボクの代わりにティナをお願いね」


「お任せください! さあ、ティナ。楽隊が戻ってきた。行こう!」


 私とクライブはアレンに手を振り、ホールの中央に歩いていく。







♪ズンチャッチャ、ズンチャッチャッチャッチャーー~♪


「ふぅー、お互いうまくできたね」


「ほんと、最初の頃が嘘のようだよ」


 クライブとのダンスも無事に終わらせることができた。これで、一応このパーティの目的の一つが達成できたことになる。


「クライブ様、そろそろ」


 私とクライブが最後の礼を終わらせたところで、ファビアンさんがやって来た。

 アレンの方を見ると、ルーカスさんが車いすを押して移動している。

 私もクライブとファビアンさんと一緒にホールの出口まで向かうことにした。


 出口には、すでにお父さんとお母さんそれにエリスにベルタさんも来ていて、私たちの到着を待っていたようだ。


「カペル卿、本日は楽しかった。呼んでいただき感謝します」


 クライブとアレンはお父さんに頭を下げている。


「おやめください、こんなところを他の人に見られては大変です。でも、喜んでもらえたのならよかった。準備を手伝ってくれたウェリス卿にも伝えておきます」


『ありがとう』といってアレンとクライブは帰っていった。


「ふぅ、これで一安心だね」


「あなた、まだお客様がいらっしゃいますよ。それに最後の挨拶も残っているでしょう」


 お父さんはそうだったと言いながら、お母さんと一緒にホールの中に戻っていく。


「エリスもご苦労様。ずっと給仕してくれていたんでしょう?」


「はい、ベルタ様がついてくださいましたから、大変ではございませんでした」


 ベルタさん、近衛兵で剣の技もすごいのにメイドの技能もピカイチなんだよね。エプロンドレスの中のズボンのところには短剣も忍ばせているし、人は見かけによらないってこのことだと思う。あ、そういえば、エリスも短剣を忍ばせていたんだ。こっちも見かけどおりじゃなかった。だって、忍者だし。


「ティナ様、どうされました?」


「ううん、何でもない。行こう、まだお客様が残っている」


 私もエリスとベルタさんを連れてホールの中に急いだ。


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