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第82話 エリス、助けて……

 夜、夕食のためにウェリス家の食堂にいたお父さんのもとに、王宮から連絡が来た。


「謁見は明日の昼からのようだ。陛下にお目にかかるのは久しぶりだから緊張するよ」


 王宮からの手紙を見たお父さんが、食卓のみんなにそう告げる。

 王様は気難しいように見えるから、お父さんが緊張するのもわかる。私も何度かお会いしているけど、いつも怒られちゃうんじゃないかって思っているんだ。


「ハーゲン、心配しなくても大丈夫。陛下は虫の居所が悪いからと言って人に当たることは無いけど、今日の教皇国との話し合いが滞りなく済んだから、機嫌は悪くないはずだよ」


 コンラートさんは、昨日は忙しそうで会うこともできなかったけど、今日の夕方、私が王宮から戻って来た時にはお父さんと一緒にお酒を飲んでいた。もう、危険は無いってことなんだろうね。


「コンラート、長く滞在することになってすまないね」


「最初に言ったろ、自分の家にいるように思ってくれって、気にすることは無いさ」


 そうか、謁見が済んだら、お父さんとお母さんは帰ってしまうんだ。寂しくなるけど仕方がないよね。お父さんたちには領主としてのお仕事があるから。

 あ、そういえば、


「お父さん、カチヤはもう大丈夫なの?」


「カチヤか? そうだな、まだまだやることはあるが、教皇国の手引きをしたものたちは王都の騎士団と協力して捕まえたし、普段の業務は代官に頼んでいる。まあ、少しくらい帰りが遅くなっても問題はないよ」


 そうか、それならよかった。もう少しだけ甘えさせてもらおう。






 翌日、王様に謁見して、伯爵位に陞爵しょうしゃくされることと、それに伴ってカチヤから新しい領地に転封てんぽうされることを王様から直接伝えられたお父さんは、夕方ウェリス家で祝いの席を設けられていた。

 お父さんは予定通り王様から東部と南部のどちらがいいかを聞かれ、南部を選んできたみたい。


「ハーゲン、遠慮するなよ。こいつはお前のために取り寄せたんだからな」


 コンラートさんは、珍しいラベルの付いたお酒をお父さんの前に差し出した。このお酒は、今度もらう予定の南部の領地で作られた物なんだって。


「ほぉー、これは珍しい。なかなか手に入らないんだろう。よかったのか?」


「なあに、内務省のやつらに新しい領地の産物がわからんとハーゲンも困るからと言って集めさせたんだ。構わんよ」


 なるほど、お酒の他にもいつもと違う料理が並んでいるのはそのためか。


「手に入らないって、コンラートさん、この甘くて美味しいお酒も香辛料と同じようにあまりこちらには出回らないんですか?」


 今日は私もお酒を飲ませてもらっている。えっ、未成年じゃないかって、いえいえ、この国では16才は成人として扱ってもらうからね。お酒だって飲むことができるんだ。


「ああ、道が悪くてな。時間がかかって食材はほとんど届かない。酒や香辛料は日持ちするからいいんだが、生産量が少なくて王都に来るのも僅かなんだ」


 やっぱりハンス船長が言った通り、南部の物を手に入れるのは難しいんだね。


「この酒、ほんと口当たりがいいな。スルスルと入る。うーん、しばらく飲めないのなら、じっくり味わって飲むか」


「おいおい、何言ってんだ。これからお前の領地になるんだぞ。たくさん作って王都まで運んでくれよ、楽しみにしているんだからな」


「え、私には無理だよ。ただの人のいいおっさんだからな」


「自分で人がいいって普通は言わんよ。それに、私も陛下もお前にはあまり期待していないが、お前にはティナがいる」


「陛下も期待していないって……あまりの言われようだが、ティナが?」


「ああ、ここのいる軍師殿は教皇国をほぼ無傷で追い返したんだぞ。領地を任せても色々と楽しませてくれるだろうって、陛下はおっしゃられている」


 確かに資料を見せてもらった後、アレンとどうやって領地を発展させようかって話していたけど……


「そうだな、アレン様も来られるから、二人に任せて早々に楽隠居と決めこもうかな」


「お、それなら、南部担当の評議員になってくれ。ギーセン卿とこの前話したんだが、あの方もそろそろ隠居して領地に帰りたいって言っているんだ」


「いやいや、私はそういうふうなのは――――」


 お父さんとコンラートさんで話が始まってしまった。私はお酒を飲みながら、珍しい料理でも頂こう。


「お姉さまはお酒にお強いのですのね」


 フリーデは、私がエリスに追加のお酒を頼むのを見てそう思ったみたい。


「ううん、初めて飲むからよくわからないけど、このお酒は飲みやすいよ。もしかして私って強いのかな?」


「羨ましいです。ねえ、お母さま私も少し頂いてもいいでしょう?」


「フリーデ、いけません。16才になるまで待ちなさい。ティナもこのお酒は強いんだから、調子に乗ってると大変な目になりますよ」


 そうかな、美味しいし段々と気持ちよくなってきたよ。


「あ、そうだ。ティナ、コンラートが新しい領地には私たちが住む屋敷が無いって言っているんだが、どんなものがいいかアレン様の意見を聞いておいてくれないか」


「お屋敷……えっと、なんだったっけ……そうだ! それなんだけど、お父さんたちがいいのなら作るのをしばらく待ってほしいかな」


「どうしてだい? あそこには、王国に帰属するまで治めていた領主が使っていた小さい屋敷しかないよ。費用も王国が負担するから遠慮しなくていいからね」


「費用は嬉しいけど、コンラートさん。その小さなお屋敷も使えるんでしょう?」


「ああ、もちろん。これまでも王都から年に数回監察に行くからその宿舎に使っていたし、新しい屋敷ができるまではそこに仮住まいしてもらおうと思っていたからね」


 もらった資料にもそう書いてあった。


「それならそれで十分だよ」


「しかし、アレン様も住まわれるのにそんな粗末な家で大丈夫なのか」


「うん、今日アレンと屋敷を作るお金があったら先に道を整備しようって話したんだ。お金だけもらうこともできるんだよね」


「それは構わないんだが、ほんとにいいのかい?」


「うん、大丈夫……あれ、なんだか部屋が回っている気が……」


 そう返事した後の私の記憶はない。






 翌朝、激しい頭痛で目覚めた。


「うっ、頭痛い……気分も悪い」


「おはようございます、ティナ様。早く準備してください。もうすぐ旦那様と奥様が発たれますよ」


 そうだった。お父さんとお母さんがカチヤに帰っちゃうんだ。

 早く起きなくちゃ……


「エリス、助けて……」


 一人では動けないかもしれない……


「さあ、ティナ様。甘えてないで、このお水を飲んで、すぐに起き上がってください」


 エリスがなんだか冷たい……


「お酒を飲み過ぎて翌日に差し障りがある人には優しくしてはいけないと、母さんからきつく言われておりますので」


 もう、お酒なんて飲ま……ほどほどにしよう。


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