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第70話 ゆっくりやろう。私も傍にいるから

「コンラートさんは、資料ができたらここに来てくれることになったよ」


 ベッドに腰かけて足をぶらぶらさせているアレンの横に座り、話しかける。クラーラさんが席を外している隙に、打ち合わせを済ませとかないといけないのだ。


 ちなみにクライブは、早速エリスと二人きりで話したいと言って肖像画のところまで連れて行った。ここから丸見えだけどね。頑張れ、クライブ!


「それなら、エリスの資料と見比べる事ができるね」


 アレンは私の左手の上に手を置き、返事をくれた。

 実はエリスの情報屋仲間から集めた東部と南部の資料は、すでに届いている。ただ、王宮しか知らない情報はもちろんわからないので、コンラートさんが持ってくる資料を見ないとどの領地がいいのか決めることはできない。そして、王宮から出される資料が正確かどうかは、情報屋の資料と比べてみたらある程度分かるだろうってアレンは言っていた。


「私じゃよくわからないから、お願い」


「わかった。よく考えて決めるよ、ボクたちの問題だからね」


 もし、アレンと一緒になれるのなら、アレンは将来的にカペル男爵……今度伯爵になるんだった、を継ぐことになるので、ちゃんとしたところを選ばないと私たちが苦労することになるんだよね。


「そして、昨日コンラートさんはね――」


 アレンに昨夜コンラートさんから言われたことを伝えた。


「そうか、順番が間違っていたんだ」


「うん、まずはクライブの結婚相手が決まるのが先じゃないとうまくいかないだろうって言ってたよ」


 王様……王家にとっては、すでに王位継承権の無いアレンよりも皇太孫殿下であるクライブのことが何よりも優先される。だから、私とアレンがいくら頼んでも認めてもらえないかもしれない。逆に言うとクライブのお妃候補としてエリスが決まったら、反対する理由は無くなるはずだって。


「それで、エリスをクライブのお妃候補にするためには船長に会う必要があるんだね」


「そう、前の王妃様だった船長の妹さんは庶民の出だから、同じ庶民のエリスが王族と結婚するために必要なことを教えてくれると思うの」


「船長か、面白い人だから会うのは楽しみなんだけど、覚えていないふりするのが辛いかな」


 デュークは元々アレンさんだったような気がするけど、その時の記憶が残ってないのは確かだ。でも、船に乗っている間は常に私の傍にいたから、ハンス船長の事は知っているんだよね。間違ってその時のことを話しちゃったら大変だよ。


「あとは、カミラさんからビアンカさんへ手紙を書いてもらって協力してもらおうと思っているんだ」


「お母さまはどうするの?」


「ハンス船長と話したあと、直接お願いしてみるつもりなんだけど……」


「そうだね、お母さまはエリスと一緒にいることが多いから、きっと協力してくれるよ」


 現役のお妃であるビアンカさんとクラーラさんが、エリスはクライブのお妃としてふさわしいと王様に話してくれたら、王様もそうなのかって思ってくれるかもしれない。


 それにしてもアレンって、デュークの時と比べて話し方が大人になった気がするな。やっぱり体を持つと違うのかな。


「なんだか、アレンがお兄さんになった気がするね」


「ボクは元々ティナよりもお兄さんだからね。いつでも頼ってくれていいよ」


 うん、頼りにしてます。


「でも、今日はティナにお願いをしてもいいかな……」


 なんだろう。


「何をしたらいいの?」


「少し歩いてみたいんだ。ほら、もう足も動かすことができるし、もしかしたら歩けるかもしれないじゃない」


 確かに足はプラプラと動かすことはできているようだけど、まだまだ細いから体を支えるのは無理じゃないかな。


「クラーラさんが戻って来てからやってみようか」


「朝からお母さまに頼んだんだけど、危ないからだめだといってさせてくれないんだ」


 今の自分の状態を知るためにやってみてもいいんだけど、クラーラさんはアレンが目覚めたばかりで、もし転んで怪我したらいけないって思っているんだろうな。

 クラーラさんがいない今なら試しに立たせてあげることができるけど、私の足はまだおぼつかない。うーん、いい感じの二人には悪いけど協力してもらおう。


「クライブ、エリス。ちょっと手伝って!」


 二人はすぐにやってきた。手こそ繋いでないけど、雰囲気が……うん、昨日よりも距離が縮まっているのは間違いないね。


「ティナ様、どうされました?」


「アレンを立たせてあげようと思っているんだ」


「先ほどアレン様にも頼まれましたけど……よろしいのですか? クラーラ様は危ないからまだやめるようにおっしゃられていたのですが」


「アレンの頼みだからね」


 まだ、立てるはずはないから、しっかりと支えてやったらいいと思う。


「クライブ様、よろしいですか?」


「兄上の事に関してはティナとエリスに一任することになっているから、二人が必要だと思ったらやっていいと思うよ」


「そうですね、ティナ様も早く歩きたいとおっしゃって、無理に立とうとされてました」


「今歩けるようになっているのは、そのおかげじゃないかって思うんだよね」


「あの時のティナは頑張っていた。ボクはずっと見ていたからわかるよ」


 とにかくリハビリは辛い。少しでも前に進んでいるって思えないと、諦めてしまいそうになるのだ。


「分かりました。それではクライブ様、アレン様を横から支えて下さい」


 私はエリスと入れ替わりにベッドから立ち上がる。


 エリスとクライブはアレンを両側から支えて立たせてみる。


「どう?」


 アレンの足は地面についている。けど、それはただついているだけで、二人が支えるのをやめたらすぐに床に這いつくばることになるだろう。


「ダメ、今日は全く歩けそうな気がしない」


 今日は……さすがはアレン、やる気はあるようだ。


「少し足を動かしてみる?」


 うんと頷いたので、クライブとエリスと協力してアレンの足を歩くように動かしてみる。


「歩くって、こんな感じだったかな」


「兄上、わからないときはいつでも僕の体で試してください」


 そうだ、デュークは他の体に乗り移れるんだから、歩く感覚はそうやって取り戻してもいいかもしれない。


「ありがとう、クライブ。でも、ボクはアレンとして生きていくって決めたから、できるだけ自分自身で頑張ってみるよ」


 そうだね。結局筋肉がつかないと歩くことは出来なんだから、十分鍛えたのにかかわらず歩けないときにクライブにお願いしたらいいかもしれない。


「ありがとう、みんな。まだダメダメだってことがわかったよ」


 私たちはアレンをベッドに座らせる。


「ティナのようにワゴンで体を支えたら歩けるのかな」


「もう少し腕と上半身の筋肉が必要かもね」


 アレンはまだ長い時間、支えなしで座ることができない。少なくとも、座るのが普通にできるようになっていないと、ワゴンで体を支えることはできないと思う。


「ふぅー、先が長そうだ」


「ゆっくりやろう。私も傍にいるからね」


 クライブのお妃の件は急ぐ必要があるけど、私は少なくとも学校が終わるまでは王都にいることができる。一年あったらアレンもかなり歩けるようになっているんじゃないかな。


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