第67話 協力者を見つける必要があるみたいだね
「あら、お茶が無くなってしまったわね。まだ時間は大丈夫でしょう。新しく入れてくるから、エリスも手伝ってもらえるかしら」
エリスと一緒に部屋を出ていくクラーラさんの後姿は、以前とは見違えるようだ。
「よかったね、クライブ」
「うん、ティナと兄上のおかげだよ」
クライブも前よりも肩の力が抜けたような気がする。私たちにはこういうゆっくりとした時間があってもいいよね。
「ねえ、ティナ。領地の資料はどうなったの」
そうだった、アレンと打ち合わせをしとかないといけなかったんだ。のんびりしている場合じゃなかったよ。
「コンラートさんが新しい領地の資料を見せてくれるって言うんだけど、私が見てもよくわからないと思うんだ」
「ボクのところに持ってきてほしいけど……理由が必要いるよね」
そうなのだ。カペル家の領地の移転とアレンとは今のところ何も関係は無い。今回コンラートさんが見せてくれる資料には、その土地の産業や人種、宗教、軍事など様々な情報が載っていると言っていた。いくら王族と言っても興味本位で見ることができるものではないだろう。
「兄上、新しい領地って何のことですか?」
あれ、クライブはカペル家の事は聞いていないんだ。クライブにも全くの無関係というわけではないので、教えておいた方がいいかも。
「えっ、ティナは王都から遠くに引っ越しちゃうの!」
東部にしても南部にしても、新しい領地は王都からかなり離れることになる。カチヤのように、数日で行き来することは出来なくなってしまう。
「引っ越すと言っても、領地が変わってからだし、学校がある間はウェリス家でお世話になることになっているよ」
いつ領地が変わるかわからないけど、少なくとも来年の8の月までは王都にいることはできると思う。まあ、クライブと結婚させられたら、引っ越し自体無くなって王都に永住することになっちゃうけど。
「引っ越しかー。その時は、エリスも一緒に行っちゃうよね」
「私の専属のメイドさんだから、王都にどうしても残りたい理由がないとついてくるんじゃないかな」
例えば、クライブのお妃になるとかね。
「これから、どうしたらいいんだろう」
クライブの呟きもわかる。ほんと、どうしたらいいのかな……
「ティナが領地の資料を見たら、おじさんは王都に呼び出される……」
「うん、そこでカチヤから移動してもらうための説得を、私とコンラートさんでやることになっているよ」
「お父様はきっとその時に、ティナをクライブの嫁にしたいから許可してくれって言うと思うんだ」
もしそう言われてしまったら、たぶんお父さんは王家からの申し出を断ることはできない。王家との間で話が決まったら、後でいくら私たちが頼んでも覆すことはできないだろう。
「どうすんの。それまでに何とかしないとクライブと結婚しないといけなくなっちゃうよ」
いっそのこと、領地の資料を見るのを何かと理由をつけて先延ばしにしちゃうか。でも、それって根本的な解決にならないよな。お父さんが王都に来ないのなら、カチヤに使者を送るかもしれないし。
「あの、兄上が父上にティナと一緒になりたいと話されたらいいのではないですか?」
「やってみないとわからないけど、お父様はともかく、おじいさまはティナのことをかっているから、継承権がないボクに渡すのはもったいないって思うんじゃないかな」
でも、王様が私のことを気に入っているのは、あの時の私の知識がデュークのものだって知らないからじゃないの?
「たぶんおじいさまは、ボクの知識よりもティナの度胸が欲しいんだと思う」
「度胸……そう言われても」
あの時は必死だっただけだし……
「それに、もしボクとティナのことを認めてくれたとしても、クライブとエリスのことはどうするの?」
「エリス……」
「クライブだって、ハッキリとしないと好きな子と一緒になれないよ」
ようやく二人で意識しだしたのに、すぐに結論を出さないといけないとか……時間があればなあ。
あれ、そういえば、
「ねえ、アレン。王様って私たちがそう言ったからって、認めてくれるのかな」
御前会議の時やアレンが目覚めた時に見た王様の目は、簡単に意思を曲げることはしないと語っていたような気がする。私たちが頼んでも一時の気の迷いだとか言って、取り合ってくれないかもしれない。
「相手はおじい様か……ボクたちだけじゃだめかも、協力者を見つける必要があるみたいだね」
協力者か、いったい誰に頼んだらいいのかな。