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第66話 素直にならないと一生後悔するよ

「エリス、もういいでしょう。さっきはどこから聞いていたか教えてくれないかな」


 みんなでエリスが用意してくれたお茶を飲んでいる。この四人でいるときは、エリスも当然一緒だ。


「ティナ様、私は何も見ておりませんし、聞いてもおりません」


 エリスはスンとすました表情で、ティーカップに口をつけた。

 うん、さすがはエリス。メイドとしては100点の答えだけど、今回はちゃんと答えて欲しい。だって、エリスの気持ちがはっきりしないと先に進めないからね。

 よーし、こうなったら、単刀直入に聞いてみよう。


「エリスはクライブのこと好き?」


「クライブ様ですか……私の家は庶民です。そのような大それたこと、考えたこともありません」


 まあ、そうだよね。身分が違いすぎるから、意識しようとすらしていないはずだ。


「私ね、このままだとクライブと結婚させられそうになっているんだ」


「え、でもティナ様にはアレン様が……」


「そう、私はアレン以外と一緒にいたいとは思っていないし、クライブも私のことは好きじゃないみたい。でも、周りはそのことを知らないから、その話がどんどん進んでいっているようなんだよね。エリスは、私とクライブが一緒になっても平気?」


「私は、ティナ様が幸せになられるのなら……お傍で見守らせていただきます」


 傍でね……


「アレン、お願い」


「分かった」


 アレンは私の言いたいことがわかったようで、横になり自分の体を楽な姿勢にして目をつむった。そして、すぐにアレンから寝息が聞こえてくる。


「ふぇ? 兄上!?」


 デュークはアレンから抜け出し、クライブの中に入ったようだ。


「ティナ、いい?」


 クライブの声でデュークが話しかけてくる。


「うん」


 クライブは私を立たせ、そして、抱きしめてきた。


「ティナ、自分ではまだ無理だから、クライブに協力してもらったよ」


 私もクライブの背中に手をまわす。


「うん、分かっている」


 クライブが相手なら、私は『ちょっと待って!』というけど、今、クライブの中にいるのはデュークだってわかっているからね。


 誰も声を出さない室内で聞こえてくるのは、アレンの規則正しい寝息だけ。そして、私の体に伝わってくるクライブの心臓の鼓動は、最初は早鐘のように早かったけど今では穏やかで優しいものに変わってきている。


「てぃ、ティナ様。もうそろそろクラーラ様が戻られるかもしれません」


 クラーラさんはちゃんとノックしてくれるし、第一、エリスのように足音無く忍び寄って来ることなんてできないんだから、部屋の近くに来たらわかるよ。

 エリスも、私とクライブが抱き合っているのが嫌ならそう言ったらいいのにね。


 さてと、今回はエリスを焦らすのが目的だから、そろそろ離れてもいいんだけど……


「デューク、そろそろ離して」


「もうちょっと! 久しぶりに抱きしめているんだから、もう少しだけ!」


 一応、体はクライブなんだから、いつまでもというわけにはいかないだろう。というわけで、『いい加減にしろ』といって、クライブの体を操っているデュークを引きはがす。


「あーあ、残念」


 そうクライブの声で呟いて、デュークの気配はアレンの中へと戻っていった。


「ご、ごめんティナ。兄上が、思い通りにさせないとこれからずっと口を利いてあげないって言うから……」


 口を利かないって、この兄弟は小学生か何かかな。


「クライブ、分かっているから、心配しなくていいよ。……さて、エリス。私とクライブが一緒になって、それを近くで見守るって、こういうことだよ」


 エリスは、すでに空になったティーカップを持ったまま、複雑そうな表情で黙っている。


「素直にならないと一生後悔するよ」


「でも、クライブ様とは身分が……」


「身分は気にしなくていいって、ハンス船長も言っていたじゃない」


 エルマー殿下の亡くなったお母さんはハンス船長の妹さんで、ハンス船長の実家は貴族ではなく庶民の家だと言っていた。同じ庶民のエリスが、クライブのお妃になる手段だってあるはずだ。


 その時、ドアの外でパタパタと足音が聞こえた。

 コンコン!


「ティナさん、クライブ、帰っているんでしょう。入るわね」


 クラーラさんが戻って来たので、この話はいったんお預けだ。でも、二人をこれだけあおることができたのは、思わぬ収穫かもしれない。


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