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第65話 ねえ、エリス。どこから聞いていたの?

 コンコン!


「はい、今、開けます」


 お、エリスの声だ。クラーラさんはいないのかな。


 エリスに(ねぎら)いの言葉をかけ部屋に入ると、アレンはベッドに腰かけていた。


「ティナ! 待っていたよ」


「お待たせ。アレン、支えがなくても大丈夫なの?」


 昨日までは、後ろにクッションがないと座ることも難しかったと思うけど。


「きついけど、早く歩きたいから頑張っている」


「そう、でも、あまり無理したらダメだよ」


「うん、エリスがいいって言ったことだけやっているよ」


 そっか、なら大丈夫か。


「エリス、クラーラさんは?」


「先ほどまで王妃様もおられて、お二人で一緒に出ていかれました」


 ビアンカ王妃も来られていたんだ。いつもお忙しそうで、顔を見てすぐに帰ってしまうんだよね。


「ふぅー、ちょっと休憩」


 アレンは、ベッドの脇に足を垂らした格好のまま寝転がった。


「お昼は全部食べた?」


 私もアレンの隣に座って、投げ出されている足を動かしてあげる。


「もちろん食べたよ。早く動けるようになって、とにかくトイレに一人で行けるようになりたい!」


 うん、わかるよ。恥ずかしいよね。いつも私たちを追い出して、クライブや爺やさんにお願いしているもんね。


「それではティナ様、お茶の準備をしてまいります」


「うん、お願い」


 エリスが部屋を出ていってふと思ったけど、デュークがアレンになって二人きりになるのは初めてじゃないだろうか。


「ねえ、アレン。夜はこの大きな部屋で一人なんでしょう。寂しくない?」


「ティナ。ボクは18才なんだよ。夜くらい一人で眠れるよ!」


「ほんとにぃ?」


「……ごめん、やっぱり寂しい。早くティナの傍に行きたい……」


 私もデュークがいなくなってから、つい辺りを探してしまってる。


「そうだね、アレン。私も早く一緒にいたいと思う。でもね、このままだとクライブと結婚させられそうなんだ」


「えっ! どうして?」


 私はアレンに周りで起こっていることを話した。


「あの時の話がまだ続いていたんだ。ティナはちゃんとコンラートさんに断ったよね」


 コンラートさんから、クライブとの結婚を考えてくれと言われたちょうどその時に、デュークからもアレンさんが死んじゃうかもって聞いてしまって、すぐに返事を出来なかったんだよね。だから、落ち着いてからコンラートさんにきちんと返事を……あれ、したかな?


「ごめん、もしかしたらコンラートさんに返事してないかも」


 あのあとすぐに、デュークがアレンさんにならないといけなくなって、次の日からはリハビリに付き合って朝から夕方まで王宮に入り浸っていたから、コンラートさんとゆっくり話す時間がなかった。


「それじゃ、コンラートさんは了解だと思って、お父様に返事していると思った方がいいかもしれないね」


「うん」


 そういえば、今朝のコンラートさんは何も心配事はない顔をしていた。あれは、王家からの重圧に開放された顔だったんだ。


「さて、どうしよう……」


 ほんと、どうしたらいいんだろう。


 コンコン!


「兄上! ただいま戻りました」


 うっ、クライブが来てしまった。


「お帰り、クライブ。学校は楽しかった?」


「はい! 先生も面白そうでしたし、フリーデちゃんも、兄上が言うようにしっかりしていました」


「よかった。ボクの分まで楽しんできてよ。それで、クライブ――」


 アレンは、クライブに今の私たちの状況を伝えた。


「え、それって、みんなで僕を冷やかしているだけじゃなかったの?」


「ティナはエルマーお父様に、はっきりと断っていたんだけど、諦めきれないのかコンラートさんに改めて頼んでいるみたいなんだ。それで、クライブはお父様から何か言われなかった?」


「ティナを好きか嫌いか聞かれたから、好きだって答えたけど、それはそういう意味とは違って……」


「うん、分かっている。クライブの好きは友達としての好きだって、あの時言ってくれたよね」


 あの時って、デュークがクライブの中に入った時かな。


「ところでクライブには好きな子っていないの?」


 クライブに好きな子がいるのなら、ハッキリとそれをエルマー殿下に伝えたらいいと思う。


「……ねえ、ティナ、好きって、どんな感じをいうの?」


 ……なんて言ったらいいんだろう。


「クライブは、ティナをギュッと抱きしめたいと思う?」


 アレンのやつ、なんてことを聞くんだ。


「え、ティナを……そこまではないかな」


「ボクはね、ティナをずっとギュッとしたいと思っているよ」


 もう、聞いているこっちが恥ずかしくなってくるじゃない。


「ええと……。ねえ、クライブ。エリスはどう?」


「エリスなら……うん、ギュッとしたいかも」


 やっぱりそうだ。クライブはエリスに恋心を抱いているみたい。


「ティナ様、遅くなりました」


 その時、私の後ろからお茶を入れに行っているはずのエリスの声が聞こえてきた。


「エリス、どうして……」


「申し訳ございません。ノックをしたのですが、お返事がなかったので勝手に入らせていただきました」


 話に夢中で、誰もエリスが来たことに気付かなかった。


「ねえ、エリス。どこから聞いていたの?」


「ティナ様、せっかく入れたお茶が冷めてしまいます。まずは休憩いたしましょう」


 エリスは質問に答えずに、ワゴンで運んできたお茶の準備を始めた。


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