表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/148

第47話 皆さんのお気持ちが通じるといいですね

 しばらくして帰ろうかとなった時に、それまで静かにしていた皇太子妃のクラーラさんから声をかけられた。


「ねえ、ティナさん。良かったらアレンにも会ってくれないかしら」


「アレンさんですか?」


 急にその場の空気が重くなった気がする。


「母上、兄上はお休みになっておられます。いきなり行ってはびっくりするのではないでしょうか?」


 なるほど、アレンさんというのはクライブが言っていた、眠り続けているお兄さんのことだ。


「でも、ティナさんも長く眠っていたのに目覚められたのでしょう。きっと会って頂いたらアレンも目を覚ますと思うの」


「クラーラ、無理を言ってはいけないよ。ティナも困るだろう……」


 そうだよね。自分の子供が目覚めないのに普通でいられる母親はいないよね。

 よし!


「あの、私は構いませんが、コンラートさんいいですか?」


 コンラートさんも時間は大丈夫だということなので、クラーラさんにアレンさんのところに案内してもらう。エルマー殿下とクライブも一緒だ。





 アレンさんの部屋は、今の部屋から少し奥に入ったところにあった。クライブが自分は隣の部屋だと言っていたから、元々アレンさんの部屋だったのだろう。


 コンコン!


「はい」


 部屋の中から執事さんが出てきた。この人がアレンさんのお世話をしているのかな。


「あとは私がやるから、少し休んでいなさい」


「畏まりました」


 執事さんが出て行ったあと、四人で中へと入る。


 広い部屋の中央の壁際には、天蓋付きのベッドが置かれていた。

 ベッドの上には赤毛の青年が寝息を立てていて、普通に寝ているように見える。顔立ちはクライブに似ているようだけど、……あの時の私と一緒だな。


「痩せてしまっているでしょう」


「はい、でも、私もそうでした」


 青年の腕に向かって管が伸びていて、反対側の天蓋の柱には液体の入ったガラス瓶がぶら下げられている。私と同じように点滴で栄養を取っているんだ。でも、それだと必要最低限の栄養しか与えられないんだよね。体を動かせないから、たくさんあげちゃうと違う病気になっちゃうんだって、カチヤのお医者さんが言っていた。


「この子はいつ、母上と言って起きてくれるのかしら……」


 髪も整えられていて髭も剃られているみたい。ほんとにいつ起き上がって来てもいいように思える。


「クラーラ」


「あら、ごめんなさい。ティナさん、よかったらアレンの手を握ってもらえないかしら」


 きっと、(わら)にもすがりたい気持ちなんだと思う。


「はい、私でよければ」


 私は布団の中に手を伸ばし、アレンさんの手を握る。


(いい、確認するだけよ。絶対に動いたらダメだからね)


(うん、行ってくる)


 デュークの気配がアレンさんと重なる。そして、ちょっとだけ私が握っている手が動いた。

 少しドキッとしたけど、布団に隠れていたから他の人には分からなかったと思う。


 デュークの気配が私の隣に戻ってくるのがわかった。


「ティナ、ありがとう。そろそろ戻ろう」


 エルマー殿下が私の肩に手をかけたのを合図に、アレンさんから手を離した。


「私はしばらくここにおります」


 そういうとクラーラさんは、アレンさんの腕を布団から出して関節を動かしだした。


「僕もやるよ」


 クライブも反対側の腕を同じように動かしている。二人とも優しくゆっくりと……


「ティナ、行こうか」


 私はエルマー殿下と一緒に王様の待つ部屋へと向かった。





(どうだった?)


(うんとね、誰もいなかった)


 誰もいなかったってことは私と一緒か。もし中で誰かが寝ていたのなら、叩き起こしてもいいよってデュークには言っていたんだけど……


「ティナ、驚いただろう。クラーラはアレンが眠りについて以来、一日の多くをあの部屋で過ごしているんだ」


 そうだったんだ。執事さんがしているのではなくて、クラーラさんがずっと世話をしているんだ。


「皆さんのお気持ちが通じるといいですね」


「ありがとう。ただ、皇太孫から外した後、あの子にとって何が幸せか考えるようになって……、あのまま生きていてほんとにいいのかと……」


 私は殿下の手を握り、目を見て語りかけた。


「失礼します。殿下はお疲れなのです。諦めてもいいことはありません。その証拠に私は目を覚ましました」


「ありがとう、ティナ。そうだな。少し気弱になっていたみたいだ。結論を急ぐ必要はないよな」


 殿下の目には涙が浮かんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ