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第38話 ティナ様。これが普通の馬車です

「この馬車揺れるね」


「ティナ様。これが普通の馬車です」


 なるほど、これがエリスが言っていた貴族の馬車との違いか。なんだろう、バネの質が違うのかな。


「申し訳ありません。急な事でしたので、このような物しか用意できませんでした」


 エリックさんが慌てて謝って来た。


「いえ、気にしないでください。歩くことを考えたら何でもありませんよ」


「そう言っていただくと助かります」


 あらら、恐縮しちゃったよ。


「ティナ様」


 そうだね、私が余計なことを言ったんだからフォローしないといけないね。


「エリックさん。ほんとに気にしないでくださいね。初めて家の馬車に乗った時に、エリスから普通の馬車に比べたら男爵家の馬車の乗り心地は抜群ですって聞いて、逆に普通の馬車が気になっていたんです。だから、この馬車が嫌いというわけじゃなくて……なんと言っていいかわからないけど、ほんと、気にしないでくださいね」


「そうでしたか、わかりました。私ももう気にしませんが、何かあったら何でもお聞きくださいね」


 よかった。エリックさんの顔の緊張がとれたみたい。






 馬車はそのまま山を登り、あの場所まで近づいてきた。


「あの、エリック様。その先に港を見下ろす場所がございます。そこで止まって頂くことは可能でしょうか」


「いいですよ。その場所につきましたらお知らせください」


 よかった。私がソワソワしたのに気付いてエリスが聞いてくれたよ。さっき恐縮させたばかりだからね、話しかけるのにちょっとだけ時間を空けたかったんだ。


 目的の場所で馬車を降りる。


「町の様子はあまり変わらないね。あそこの大穴だけかな」


 あの大穴は、最初に教皇国の軍艦から発射された大砲が作ったものだ。


「教皇国のやつらは物資の供給を進めるためか、町の人たちに危害を加えていませんでした。被害もあの穴が開いているところぐらいです。町の人たちも最初に教皇国が乗り込んだ時に船を近づけないように応戦したくらいで、町に侵入されてからはカペル男爵の指示で、表立った抵抗はしなかったようですね。それもよかったのかもしれません」


 ほんとによかったよ。カチヤを離れてから心配でたまらなかったからね。


 改めて馬車に乗った私たちは、懐かしの我が家カペル男爵邸へと向かっている。


「エリックさん、こちらでの作戦はどうでしたか?」


 教皇国の兵隊が逃げたんだからうまくいったと思うけど、予想外の嵐が来ちゃったから予定通りにはいかなかったはずだ。


「はい、海軍から鳥が来た時に我々はこの山向こうまで来ていました。ちょうど付近の鳥の様子がおかしいと話していた時にあの知らせでしたからね。それからは休みなしでこの近くまでやってきたら、もう艦隊戦が始まっているじゃないですか。焦りました。でも、町から見えるところで派手にやってくれていたので、侵入自体はそんなに苦労しませんでしたよ」


 よかった、激戦を演じる必要があったから、予定よりも船の位置を敵側寄りにしたんだよね。あの時は近くに砲弾がどんどん落ちてきて怖かったんだけど、ちゃんと騎士団さんの助けにはなっていたんだ。


「それから嵐が来る前に相手を追い出さないといけないでしょう。艦隊が見えなくなったところで、計画通り情報屋に頼んで町の人たちの協力も得ながら派手に騒ぎ立ててやりましたよ。敵も最初は抵抗していたのですが、次第に士気が無くなっていって最後は瓦解するみたいに逃げていってくれて、これほどの大勝は初めてです」


 できるだけ被害が出ないようにってデュークが考えた策だからね。うまくいってよかった。


 丘を登り切った馬車は屋敷の門をくぐる。

 知らせが届いていたみたいで、玄関の前には二人の姿があった。


「お父さん! お母さん!」


 馬車のドアが開くと同時に飛び出していた。


「ティナ!」


「ティナ、会いたかったですよ」


「私も会いたかった。無事で本当によかった!」


 二人としっかりと抱き合う。

 この体の持ち主の本当の両親。何も覚えていない私にも、変わらない愛情を注いでくれた二人。私にとっても、もう親も同然の存在だ。

 会えないかもしれないと覚悟していたのに、その二人にまた会うことができた。私はなんて幸せ者なんだろう。


「船に乗って来たんだってね。怖くなかったかい」


「うん、ずっとエリスが付いていてくれたから、大丈夫だったよ」


「エリス、いつもすまないね」


「いえ、旦那様も奥様もご無事でなによりでした」


「さあ、中に入ろう。殿下がお待ちだ」


 殿下? 船に置いて来たんじゃなかったかな?

 確認のため、エリスの方を見てみる。


「ティナ様、エルマー皇太子殿下ではないでしょうか」


 そうだ、エルマー殿下は騎士団と一緒に行動していたんだった。


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