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第25話 エリスって船に弱かったんだ

「ねえティナ、もうあんなに陸地が小さくなったよ」


「そうですね、殿下」


「お、お二方とも、そんなに(はじ)におられたら危ないですよ」


(ねえ、ユキちゃん。エリスちゃんの顔が青いよ)


(ほんとだ、海が苦手なのかな)


「エリス、辛かったら部屋に戻っていたらいいのに」


「い、いえ、ティナ様のお傍を離れるわけにはまいりません」


 どうしてこんなことになったのだろう。


 王様に呼び出されたんだから、私を乗せた馬車は王宮に向かうと思っていた。ところが、着いたのはなぜか潮風が香る港。朝の時よりも時間がかかっていておかしいと思ったんだよね。でも、エリスがはしたないと言って外を見せてくれないから確認のしようがなくて、そして御者さんが着きましたと言って降ろされた場所には、お城の代わりに大きな船がいくつも並んでいたというわけだ。

 エリスは驚きもせず澄まして立っているし、どうしたらいいのかわからないので辺りを見回していたら、私たちが乗ってきた馬車は荷物を置いてあっという間にいなくなっていた。


 どの船も、体の大きな船員さんたちが急いだ様子で荷物を運び入れているようだから、これがカチヤまで行って戦ってくれるんだろうということはわかるけど、なぜ、私がここに連れてこられたのかわからない。

 仕方がないからエリスに事情を聞こうとしたら、私たちのところに数人のお付きの人を連れた、紺色の軍服を着た赤毛のいいところのお坊ちゃんといった感じの少年がやって来たんだよね。


「君がティナかい。早速で悪いけど時間がないんだ、僕について来て」


「ティナは私ですが、あなたはどちら様でしょうか?」


「僕はクライブ。ごめんね、ゆっくりと挨拶をする暇がないんだ。さあ急いで」


 とは言え、初めて会った人についていくような教育をされていないので躊躇(ちゅうちょ)していると


「ティナ様、カミラ様から申し付かっております。ここは従っておきましょう」


 今まで黙っていたエリスがそういうので、赤毛の少年の後をついて行ったんだけど、案内されたのは船の中。荷物と一緒に部屋に入れられ、間もなく船の揺れが大きくなった。さすがにおかしいということで、エリスと一緒に甲板に上がったら船が動きだしていた。

 そして、呆然として離れていく港を眺めていたら、先ほどの赤毛の少年がやって来て名前を教えてくれたんだよね。


「さっきはごめんね。改めまして、ティナ。僕はクライブ・ランベルト。カチヤを開放するまでの間よろしくね」


 ランベルト姓は、この国の王族の者しか名乗られないらしいので、この赤毛の少年が、エルマーさんの息子で今回が初陣のクライブ皇太孫殿下ということだろう。


 そして、船の上での仕事がない殿下と私とエリスの三人は、甲板から海を眺めているというわけだ。


「ティ、ティナ様お部屋に戻りませんか。なんだか寒くありませんか?」


 もう夏だから寒いということは無いけど……うーん、エリスの顔がさっきよりも青い気がする。これは早く休ませた方がいいかも。


「それでは殿下、私たちは少し部屋で休ませてもらいます」


「うん、もう少ししたら船長から全乗組員に話があるらしいから、その時に呼びに来るよ」


 もしかしたら、その時にこの船に乗せられた事情(わけ)を教えてくれるかな。






 甲板から船倉を二つ下りて、与えられた部屋まで向かう。ここは二人部屋のようで、二段ベッドとほんのわずかな通路があるだけの狭い空間だった。


「エリス、きっと船に酔ったんだよ。そこで横になって休んでみて」


 二段ベッドの下の段にエリスを寝かせ、かろうじてあるぐらいの広さしかない通路に木製の椅子を置いて、そこに腰かける。


「申し訳ありません、ティナ様。このような場所だと思ってもいませんでした」


「エリスは船に乗ることを知らなかったの?」


 手紙を見たカミラさんから耳打ちされて、いろいろと準備をしていたみたいだから、知っていて教えてくれないのかと思っていたんだけど。


「カミラ様からは、ティナ様が数日出かけるようになるからその準備と、着いた先で迎えが来るからその人の指示に従うように、とだけ伺っておりました」


 なるほど、だから着いたらわかりますと言っていたんだ。知らないことは話せないからね。


「でも、驚いた。エリスって船に弱かったんだね」


「すみません、子供のころ父さんに魚釣りに連れて行ってもらって、それから苦手なんです」


「それって、カチヤの港にあったような船で?」


「はい」


 丘の上から見たカチヤの港には、小さな漁船みたいなものがたくさん見えた。大きな船は岸に着けることができないんだろう。


「この船は大きいから、カチヤの船みたいに揺れることは無いはずだよ」


 小さい船だと一個一個の波に乗り上げるから揺れるんだよね。その点、この船はかなり大きいからそこまで揺れないはずだ。


「そうなのですか?」


「そうそう、その証拠に今もそんなに揺れてないでしょう」


「そう言われてみたら、あまり揺れていないかもです」


「でしょう。いろいろあって、疲れているんだよ。手を握っていてあげるから、少し眠ったらいいよ」


「はい、ありがとう……ございま……す」


 やっぱり疲れていたみたいだ。エリスはすぐに眠ってしまった。


(先入観で過剰に反応しているだけかもしれないからね、それを解きほぐしてあげたらいいんだよね。デューク)


(そうそう、そして揺れに慣れちゃったら酔わなくなるからね。ボクもそうやって教えてもらったんだ)


 ん? その話はどこかで聞いたことがあるような気がするけど……うーん、もうちょっとのところで出てこない。


(どうしたのユキちゃん?)


(ねえ、デューク。その小さな船と大きな船の話は誰から聞いたの?)


(誰だったかな……はっきりとはわからないけど、家族じゃなかったような気がする)


 そうだ、思い出した。私にその話をしてくれたのは、私(春川有希)のお父さんだ。もしかしたら、デュークはうちのお父さんを知っているのかもしれない。


(ねえ、デューク。私、有希のお父さんのことを知っているんじゃないの?)


(ごめんね、ボクがはっきりと覚えているのは、ユキちゃんを守らないといけないということと、ものの考え方だけみたいなんだ。あとは所々ぼんやりと覚えているだけだから、誰から教えてもらったかはわからないんだよ)


 ということは、デュークは私のように地球のことを覚えているのではなくて、私を守りたい気持ちと、ここで得た知識をどう使ったらいいかを知っているってことなのかな?


(あ、エリスちゃん、顔色がよくなってきたね)


 うん、もう大丈夫みたい。頬に赤みが差してきたし、いつも通りの可愛いエリスだ。


 デュークのことは、もしかしたら私が思い出してあげないといけないのかもしれないな。


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