第125話 先生の教え方がいいんだろうね
「お兄さん、そろそろ漕いでみる?」
私たちを乗せた船は、クリスタの操船で前を走る三艘の船から少し離れて付いていっている。
「やってみるけど、みんなから遅れたらごめんね」
「心配しなくてもそろそろ今日の漁場だから、好きに動かしてみていいよ」
おー、この辺りで漁をするんだ。そう言われてみたら、前方で縦一列になって進んでいた船も左右に分かれだした。
「えっと、これをこうして……」
アレンはクリスタがやってた通り、艪を海に付けて動かし始めた。
「お、すごい。初めてなのに前に進んでいるよ」
クリスタも驚くって言うことは、本当なら最初から動かすのは難しいのかな。
「でも、ここはこうした方がいいから……」
あ、クリスタがアレンの手を取って教えている……
口で言うより早いのはわかるけど……なんだか、モヤモヤする。
ふと横を見ると、エリスとユッテがこちらを見てニヤニヤとしていた。
くっ! 元はと言えば私が言いだしたことだけど……クリスタにアレンのことを教えるか、しかしそれだとせっかくこれまで黙っていたのが無駄になる。仕方がない、平静を装って……
「あ、アレン。なかなかうまくなったね」
「そうかな。先生の教え方がいいんだろうね」
「お兄さん筋がいいよ。執事の修行なんてやめてうちで働かない?」
そっか、クリスタはエディと間違えているんだ。
「ごめんね。ボクはティナのそばから離れないって決めているんだ」
「え? ご領主さまの娘のティナを呼び捨てにできる使用人って……」
「あのね、クリスタ。アレン様はカペル家に養子に入られた王家のご子息ですよ」
ユッテが教えてしまったけど、これはどうしようもないよね。
「はぁ! アレン様!? これは失礼しました! ちょっと、ティナ! どうして教えてくれなかったの!」
クリスタは私のところまでにじり寄ってきて、耳元で文句を言った。
「ごめんごめん。アレンは普通に接してほしいから身分を明かさなかったんだと思うよ」
面白がって黙っていたことは内緒にしておこう。
「改めましてボクはアレン。クリスタちゃん、ボクもティナと一緒のようにしてくれたら嬉しいな」
「わかりました。でも、呼び方だけはアレン様と呼ばせてください」
まあそうだろうね。私の場合は同姓だから呼び捨てでもおかしくないけど、アレンの場合は将来の領主様だからね。さすがにそれを求めるわけにはいかないよ。
「うん、それじゃ、また艪の漕ぎ方教えて」
クリスタが改めてアレンに教えているけど、さすがにぎこちない。
あはは、クリスタに悪いことしちゃったかな。