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第109話 これはボクにも関係があることですから

 翌朝、朝食が済んだ私は、アレンと並んでお父さんの部屋のソファーに座っている。正面にはお父さんとお母さん。執事のレオンさんはお父さんの横に立っていて、いつお父さんから声がかかってもいいように控えているみたい。


「ハーゲンさん、これがお願いしたい書類です。どうか私をカペル家の養子として迎え入れてください」


 アレンは、すでにエルマー殿下の署名が入っているアレンがカペル家へ養子に入るための書類を、お父さんに差し出した。


「アレン様はカペル家の大事な跡取り、お越しになるのを首を長くして待っておりました。もちろん、喜んでサインさせていただきます」


 お父さんは受け取った書類にしっかりと自分の名前を書いていく。


「あ、ありがとうございます! これを王都に持って行けばやっとティナと一緒にいられる……」


 アレンは感慨深げだけど……


「アレン、知っていると思うけど養子になっても私との結婚はしばらく先になるよ」


「うん、大丈夫。近くにいられるだけで幸せだから。これまでのように離れ離れなのはもう勘弁してほしい」


 デュークのままだったら私のそばにいられたんだからね。それを考えると、アレンになるのが仕方なかったとはいえ、よくここまで辛抱してたものだと思う。


「おぉ、そんなにティナのことを思っていただけるとは、私たちも光栄です。今すぐにでも次の跡取りを期待したいのですが、ティナの言う通り王国の法がありますのでしばらくの間ご辛抱ください」


 そうなのだ。アレンは王国の法によって養子になった後、半年の間はお試し期間として過ごすことになる。


「大丈夫です。それで、ハーゲンさん、お願いがあります。どうかこれからは私のことはアレンと呼び捨てにしてください」


「わかっております。私もアレン様に父と呼んでいただきたい。ただ、今はまだ王族であらせられる。たとえここに家族しかいないとしても、そう言うわけには参りません」


「そうですか……わかりました。ここに戻って来る時を楽しみにしています」


 そう言ってアレンは、お父さんから受け取った書類を大事そうに仕舞っていた。


「さあ、それでは、メルギルについての話をしましょう。レオン、準備をしてくれ」


『畏まりました』と言って、レオンさんは資料をアレンの前に置いて、お茶の用意を始めた。




 アレンは受け取った資料を隅々まで見ている。


「ここは……そうか、輸送路を確保して……」


 その様子を私とお父さんとお母さんが固唾をのんで見守っているんだけど、なんだか息が詰まりそう。


「皆様、お茶の準備ができました」


 緊迫した空気の中、レオンさんが私たちの目の前にお茶を出してくれた。その途端、部屋の空気が少しだけ緩んだ気がする。


「ありがとう。さすが、レオンさんです。わかりやすい。それで、いくつか気になったことがあったのですが聞いていいですか?」


 アレンはそう言って、お父さんとレオンさんに質問を始めた。





「そうなんだ。この家に人が集まらないのはそう言う理由があったんだね」


「ああ、前の領主があくどいことをやっていたらしくて、私もそうなるんじゃないかって警戒されているみたいなんだ」


 王家が追い出した領主は、色々と難癖付けて領民を困らせていたらしい。


「特に灌漑の水ではひどい目に遭わされたみたいで、なかなか私に権利を譲ってくれないんだよ」


 特にひどかったのが用水路の水を使うための使用料で、ただでさえ高いのにもし払えない時は娘を差し出せとか……信じられない!


「それで、冷害で収穫量が落ち込んだ年に、本当に何人かの娘が連れ去られて領主のなぐさみ者になったと聞いて、私も腹が立ってしまったよ」


 結局その悪徳領主は、使用人に対しても同じような感じだったらしく、領民からはカペル家で働くと同じ目に遭うかもしれないって思われているみたい。それならいくら条件を良くしても、使用人が来てくれないのは仕方がないことなのかもしれない。


「でも、そのおかげでエディが来てくれたんだよね」


「それはそうかもしれないな。私もここで使用人が集まっていれば、レオンと相談してわざわざ他の領地に向かう商人に頼みはしなかった。当然その時はエディがこの町に来ることもなかっただろう」


 おっ! お父さんもエディと呼ぶようになってる。エドモンドよりエディの方が可愛らしいよね。


「ハーゲンさん、ボクが王都に行くときにカペル家で働いてくれる人はいないか。尋ねてきてみます」


「おお、そうしてくれると助かります」


「いえ、これはボクにも関係があることですから」


 アレンもお父さんに対して自分の事をボクって言うようになった。少しずつでもいいから親しくなってくれたらいいな。


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