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Splendours Season1  作者: Saki Tachimazaki
1st Act - 変わっていく日常 -
7/18

Scene Bravo-3【Splendours Season1】

 昼間オーウェンに違和感を感じてからというもの、ブレイクは常にオーウェンを視界に収め観察していた。言動はもちろん、行動や普段のくせ、ひいてはピアノの指使いまで。

 だが十歳の頭が弾き出した結果は「違う」ということだけだった。昨日までの弟とは違う、どこか大人びているような雰囲気。なんなら自分よりも年上とも感じ取れるその動作に不気味さを感じ、なおかつ焦りを感じた。


 夕食の後、なぜか今度はお兄様に図書館へ呼び出されていた。明け方お父様に呼び出されたかと思えば今日一日休めと言われ、マルクは不自然に優しいし、お兄様は痛いぐらい僕を見つめてくる。一体何が起きているんだろうか。

 そう思いながら、蝋燭で照らされた廊下を歩いて行った。


 図書館に着き領主さんに挨拶すると、お兄様が中央のソファで待っていると言われ、すぐに仕事へ戻ってしまった。

 変だと思いながらソファに行くと、足を組んだまま一冊の本も持たず難しい顔をしているお兄様がソファに座っていた。

「ねぇお兄様、今日は研究じゃないの?」

 そう言いながら隣に腰掛けると、僕の顔をつかんだまましばらくの間じっと見つめてきた。

「どうしたのさいきなり」

「オーウェン。昨日、何があった」

「えっ? 何って、一緒にヴァイオリンを」

「はぐらかすな」

 ——知っているんだ。

 そう言いたくなった。けれどもし違った時に墓穴を掘ることになる。きっとお兄様は僕を汚く思ってもう話しかけてくれなくなる。それだけは、絶対に嫌だ。

「普段とは違う口調、より滑らかに動く指、異様な雰囲気。俺が知っている弟とは違う。昨日の夜、何をしていたんだ」

 無理だ。合っていた。もうお兄様と一緒に寝ることはおろか、ヴァイオリンを引くことも、食事をすることさえできない。たったあれだけのことで、もう会えなくなる。

 ——奴が憎い。

「……言い方を変える。お父様と何をしていた」

 その言葉と同時に、オーウェンはブレイクを押し倒した。

「恥辱と強欲に塗れたあの空間、それを知ってなお私を愛せるか」

 瞳を真紅に輝かせ、吸血鬼らしい牙をむき出しにしている。背中のほうではあるはずのない赤い羽が光を放ち、その奥で数本の剣がブレイクを狙っている。

 おおよそ五歳から発せられる声ではなかった。蛇に睨まれたカエルのごとく、ブレイクは固まるしかなかった。

 そしてそれは妄想だったというように、オーウェンがブレイクから離れると何事もなく全て消え去った。

「オーウェン待って!」

「来ないで!!!」

 そう言い放つほかなかった。残響が幾重にもこの図書館内に鳴り響き、行き場をなくしている。

「お兄様、実は——よく覚えていないんだ。でも、たぶん大体あってるよ。リューク伯父さんが僕の上で腰を振っていたこととか、何かの薬を飲ませたこととか」

 ブレイクはもう何も感じ取れないほど、頭を働かせていた。もしくは、考える力が低下して、それが精一杯になっている。

「——嫌だよね、わかってる。明日には消えるから、それまで我慢して」

 もはや彼は何も考えていなかった。図書館を出ていこうとするオーウェンの腕を無理やり引っ張り、振り向き様に思いっきりビンタした。

「ああ嫌だよ。汚い。醜い。下劣だ! てもそれ以上に、大切な弟がいなくなる方がもっと嫌だ!!! 汚れは消せばいい。消えないなら上から色を塗りなおせばいい。誰にも俺の宝物を奪わせはしない!!!!!」

 お兄様の顔は雨でも降ったかのように濡れていた。

「……無理だよ」

 掴まれた手を振り払って、ドアに手をかけた。

「オーウェン——」

 今度は腰に手を回され抱き寄せられた。今度はどう言おうかと思い振り向くと、目の前にはブレイクの唇があった。

 おそらく初めてのキス。しかも舌まで入り込んでくる。でもあの時とは違う、不思議な感覚。体が浮くというか、包まれるというか……気持ちいい? なんとも形容し難い感覚が壊れかけた脳を修復していく。


 しばらくして、ブレイクが口を離したころにはオーウェンの力は抜けきっていた。体を完全にブレイクに預け、息を荒立てながらもたれかかっていた。

「消えたいなら消えればいい。どこへいっても探し出してやる」

 もたれかかるオーウェンをソファに預け、ブレイクは図書館を後にした。


 少し奥では白い尻尾が毛を逆立てていた。

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