Scene Alfa-1【Splendours Season1】
オーウェンは逃げるようにリュークの部屋を去った。
今すぐにでも湖に飛び込んで体を清めたい。もし池に飛び込んだら、女神が汚い僕と綺麗な僕を交換してくれるだろうか——。
意識が朦朧としているだろうに、オーウェンの頭はいつもに増して働いていた。
廊下の窓からはあけぼののぼんやりとした青色が心配そうに顔をのぞかせている。
部屋を出て数分。オーウェンが向かったのは自身の寝室ではなくマルクの私室だった。ノックもなしに扉を開き、何かから逃げ隠れるように無理矢理中に押し入った。
初めて入ったその部屋はさすが貴族とでもいうのか、それなりに広く豪華だった。調度品も一通り用意されていて、生活に不自由はないように見える。強いて言えば生活感がないことが唯一の欠点か。まぁ、執事の仕事も大変なんだろうな。
ベットに近づいてみるが、当然の如くマルクはまだ寝ていて、僕の存在には気づいていない。
「マルク、お願い起きて」
消えそうな声とともにマルクを揺すると、ピンク色の瞳に火が灯った。
「——殿下、なぜこちらに……」
そう言いながら体を起こし、改めて僕を見返したところで目の色が変わった。
「殿下! その服はどうされたのですか!!」
マルクに肩を掴まれ激しく揺さぶられたが、答えることができなかった。それどころか聞いたことのないような甲高い声と、ひどく揺さぶられたことで頭が痛くなってきた。
えずきそうになっていると、はっと気づきマルクが手を離した。
「失礼いたしました。湯浴みの準備をいたしますので、しばちこちらでお待ちを」
マルクは指を鳴らしてお得意の早着替えでいつもの燕尾服に変わった後、逃げるように部屋を出ていってしまった。
——綺麗だな...
慣れない部屋の中、オーウェンはどうすることもできなかった。ソファに腰掛けようとしたが、体液に呑まれたこの体で腰掛けるのは失礼に感じた。かといってずっと立っているのも体がもたない。仕方なく、その場に座り込んだ。
黒を中心に固められた部屋の中に座り込む白い子供——なんてイレギュラーなんだ——そうと思うと笑いが込み上げてきた。
窓の外では少しずつ雲や太陽が動いているのが見える。
「寝ちゃっても、いいよね……」
そっと床に横たわると、体が浮くような感覚がオーウェンを包み込んだ。思いの外ふかふかとしたカーペットが心地よくて、つい笑みが溢れてしまう。
気がついた時にはマルクがバスタオルで僕の体を拭いていた。






