Scene Echo-3【Splendours Season1】
——月の光がひどく眩しい。
計算に狂いはない。あと一粒加えるだけで、俺は完璧になれる。そして、オーウェンを救える……。
小鉢からスポイトで薬品を取り出し、慎重に大釜へ加えた。すると赤かった中の液体が一瞬で青に変わり、やがて透明になってとろみがついた。そこへ小さな魔法石を加えると、教会で配っても余りそうなほどの量があった大釜の中身が瞬く間に取り込まれ、一滴も残さず無くなってしまった。
「出来た——」
震える手で指輪の台座を手に取り、出来た魔法石を嵌め込んだ。
「指輪か……」
左手の中指にはめて窓へかざすと、俺の瞳と同じぐらい青く綺麗に輝いた。
確かに図書館は楽しい。けど、遠いからなぁ——。
立ち止まって本を抱え直し、ふと窓に目がいった。
お兄様が部屋に籠ってからもう一ヶ月近くなる。なのに、まるで僕を避けているみたいに一向に姿を現さない。——僕が強くなり過ぎてしまったから、お兄様を邪魔してしまったんだ。僕があのとき、伯父さんの部屋に行ってしまったから——。
舌先に、恋しいお兄様の血の味が浮かび上がった。
「オーウェン!」
また耳鳴りだ。どうせ振り向いたってお兄様はいない。悲しむくらいなら、いっそ背を——。
「聞いてくれオーウェン、とうとう完成したんだよ!」
感じたことがない、後ろから抱きしめられる感触。目の前には見慣れない指輪が嵌ったお兄様の手。これは、きっと幻覚じゃない。
「ずっと考えていた、ビルドアップの改良版。これでオーウェンを守れるんだよ!」
確かにお兄様の声で、お兄様の手。でもなぜか、嬉しく感じられない。あれだけ待っていたのに。
「ねぇオーウェン、どうして俺を見てくれないの」
こんなものの為に、一ヶ月も僕を無視した。こんなものの為に、一ヶ月も僕を悲しませた。こんなものの為に。
「Regardes moi(俺を見ろ)」
体が無理やり動く。意識に反して、僕はお兄様を見つめさせられていた。だが声から想像するよりも怒った雰囲気ではない。ならどうして、こんなに不機嫌なのだろうか……。
しばらく見つめていると、胸の中を何かが通り抜けた感覚に襲われた。そしてすぐ、お兄様は僕にかけた魔法を解いてくれた。
「そういえば、もうすぐ誕生日だよね。何が欲しい?」
「えっ。えっと——、ぬいぐるみ?」
そう答えると、わかったと言ってそのまま立ち去ってしまった。
床にはいつの間にか落としてしまった本たちが散乱していた。