最終試験
剣と剣が激しく衝突し、周囲に火花を散らす。
小柄なゴブリンのどこにそのような膂力があるんだよ!と若干キレつつさらに剣に体重を乗せる。
コイツらの攻撃は至ってシンプルだ。縦や斜めから思い切り斬りかかるのみ。
しかし、全ての攻撃が全力の攻撃だからなのか俺の体力はもう限界に近い。
「翔!」
「おうよ!」
俺との戦闘に気を取られていたゴブリンは、背後にまわっていた翔に気付くことができずに肉厚のダガーを深々と心臓に刺し込まれた。
ギイィィィ…といううめき声をあげながら紅い鮮血をまき散らしながら前方へ倒れた。
「うっ…」
思わず吐きそうになるほどの鉄の匂い。教官相手に訓練するのとはワケが違う。
翔も俺と同じように顔をしかめている。
…俺だって嫌だよ。今まで生き物なんか殺したことないのは俺だって同じだ。
だけど、今は生死が掛かってるんだ。こんなことでショックを受けていたら残ったやつらに殺されるだけだ。
そうだ、これは――
「これは、本物の戦いだッ!」
「!!」
俺の言葉で翔がピクリ、と体を震わせる。
「…ああ、そうだな。こんなことでボーッとしてちゃダメだよな!」
翔はニッ、と笑い、再びダガーを構えた。
俺も剣を構え、紅谷さんが相手をしているリーダーの所へ全力で走る。
周囲のゴブリンは、他のメンバーがチームワークを活かしてなんとか少しずつ倒しているようなので心配する必要は無さそうだ。
「お、お前たち。リーダーの相手をするのか?」
彼女は余裕の表情で相手の剣を刀で受け流しながら俺達に向けてそう言った。
「はい。二人でやります。」
「宜しい。なら、お前らの全力を見せてやれ!」
そう言うと、彼女は紅色のポニーテールをなびかせながら後方へ大きく跳んだ。
もちろんゴブリンのリーダーはそれを追おうとするが、翔がそれを阻止した。
「やーい、雑魚ゴブリーン!お前の相手はこっちだよ~ん!」
尻を叩きながら挑発したのが効いたのか、リーダーは緑色の顔を真っ赤にし、ギィアァァッ!と叫びながら地団駄を踏み、翔に向かって凄まじいスピードで突進してくる。
「プッ…ねぇ見てよアレ。めっちゃ怒ってるじゃん…クスッ」
「いいから集中しろって…ほら、そろそろ来るぞ。」
「ギギイッ!」
笑いをかみ殺したばかりの翔に、リーダーが容赦なく跳びかかる。
翔はダガーを交差させ、その間で剣を受け止めながら
「いまだ!横から斬れ!」
と叫んだ。俺は瞬時に横へステップし、リーダーの体を横から真っ二つに斬った
――と思っていた。
「ギギィ!」
リーダーが翔のダガーにドロップキックをおみまいし、その反動で後方へ大きく跳ぶ。
直後、俺の剣が虚しく空気だけを切り裂いた。
その行動は翔も予想していなかったようで、ドロップキックの衝撃によって後ろに倒れている。
しかし不幸中の幸いと言うべきか、リーダーは先程の仕返しと言わんばかりにニヤニヤと馬鹿にするような笑みでこちらを見ているだけなので、俺は翔に手を貸した。
「おい、大丈夫か?」
「お、おう。」
手を掴みながら立ち上がり、翔がリーダーを見た時、リーダーはお尻をこちらへ向け、手でぺしぺしと叩いていた。
…すごく根にもつタイプなんだな…
「くそっ!!アイツめっちゃ挑発してくるんだけど!!腹立つ!!ちょっと俺もう1人で行くわ!」
「待て待て!さっきお前がリーダーにやった挑発をマネされてるんだって!お前はゴブリンか!!」
顔を真っ赤にして怒る翔の顔と、翔が挑発したときのリーダーの真っ赤な顔が重なって見えたのはきっと気のせいだ。
「ほら、二人で行くぞ。」
「へいへい、アイツをブッ倒すのは俺だけどなっ!!」
…あのゴブリンがもし人間だったら、ものすごく翔と気が合ったに違いない。
と思ったが、今はそんなことを考えている場合ではないのですぐに戦闘に意識を集中させた。
俺がゴブリンの攻撃を剣で弾き、翔が懐へ潜り込んで攻撃しようとすることおよそ7回。
俺達はギリギリのところで躱され、かすり傷程度しか与えられないままだった。
「なぁ友樹、2人で攻撃で攻撃しちゃダメなん?」
「その方法もあるけど…安全かどうかはわからない。やってみるか?」
と、俺が提案した瞬間、シュッという音が俺の真横をかすめた。
直後、リーダーの耳から朱い液体が飛び散った。
「…こっち…大体終わった…リーダー…手伝う…」
「お、おう…え~と…木下…だっけ?サンキュー!」
弓を構えている楓に礼をした翔の顔には、これならいけるっしょ、という笑みが浮かんでいた。
「サポートしてもらえるからって、あんま調子のってると危ないからな?」
「わかってるって!ほんじゃ、さっきと同じようにいきますかね~」
耳を抑えていたリーダーはいつのまにかこちらに剣を向けながらこちらへ近づいてきていた。
俺も再び剣を構え、体勢を崩されないように大地を踏みしめる。
「ギギイッ!」
「ハッ!」
キイィィン、と金属同士が衝突し、辺りに火花を散らす。
リーダーが動けなくなるこの一瞬を狙い、楓がリーダーの頭をめがけて矢を放った。
しかし、リーダーはギリギリのところで剣を蹴り、またもや後方へと跳ぶ。
――翔が待ち受けている、後方へ。
「へっ、貰ったぜ!!」
直後。リーダーの首が宙を舞った。
ドスッという音と共にリーダーの体が倒れ、同じく首も地面を転がる。
「よっしゃああぁぁぁっ!!友樹も楓もナイス!!」
「俺はただ防いだだけなんだが…それにしても楓さん、あんためちゃくちゃいいタイミングだったよ。ほんと、今回は楓さんのおかげで助かった。」
「敬語…無くていいよ…それと僕は…頭を狙ったけど外しただけ…本当にすごいのは三人だよ…」
などと三人で話していると、近くで見守っていた紅谷さんが拍手をしながら近づいてきた。
「三人とも、良くやった。お前ら3人がいなければリーダーは倒せなかっただろう。
連携は今後チームでやっていく時に重要な役目を担う。お前らなら心配なさそうだな!」
と言って、ニコッと気持ちの良い笑みを浮かべた。
「ほら、向こうを見ろ。もうあの一匹で終わりだ。」
と言うやいなや、槍で突かれた最後の一匹が倒れた。
その後、俺達は紅谷さんに連れられて無事にコロニーへ帰還した。