自己紹介
約十五分後、集合場所である月夜町ギルドに到着したバスの扉が開く。
途中で乗った人と俺を含め、計八人が集まった。
ここ、月夜町の周辺は弱いモンスターが多いため、
ギルドの最終試験が野外で行う実践形式ができる、という理由で実践になったそうだ。
ギルドのガラスの壁には、雲一つない夏の青空が映り、宝石のように輝いていた。
「ハーイ、注目!」
ギルドから出てきた野袴のような戦闘服に身を包む女性は、紅色のポニーテールを揺らしながら靴の音を響かせながらこちらへと歩いてきた。
キリッとした目と、穏やかな笑みが特徴的だ。
「今日一日、君達の面倒を見る紅谷桜だ。よろしくな!」
隣にいる翔はぽかんと口を開けて見惚れているが、彼女はそれを気にせず続ける。
「それでは君達、まずは自己紹介をしてくれ。もちろん、言いたくないことは言わなくてもいいからな。それじゃ、そこの紺色の髪の少年から!」
突然、俺に指を指してきた。…まぁ、この場に俺以外で髪の毛が紺色のやつなんていないけど。
「あ~…えと、俺の名前は星野 友樹っていいます。
一応、空手習ってます。あと、特技は…特に…ないです…ハイ」
しまった。ここでコミュ障がバレてしまった。あーあ、俺、こんなんで大丈夫なのか…?
「ちょ…お前…プッ…コミュ障…ダメだ…笑いが抑えきれねぇ…ププッ」
隣にいた翔が俺に向かってそう囁いてくる。
そりゃあ…知らない人と話すんだし…しょうがないだろ…ってかププッってなんだよ。変な笑い方だな…と言いたくなる気持ちを抑え、翔の自己紹介に耳を傾けた。
「俺は桜庭 翔って言うッス!コイツとは中学校入学当時からの付き合いッス。そこのコミュ障と違って、大体のやつと話せるのが特技だと思ってるス!今日一日宜しくッス!」
突然肩を組んできた金髪の親友は、自分のチャラい性格を隠そうともせずにそう言った。
その隣で、アホ毛がちょこんと立っている若草色の毛をした少年が口を開く。
「えと、俺の名前は萩原元気っていいます。
特技とかじゃないんですけど、最近はゲームにハマっているので、少しなら知識あると思います!」
翔のような陽の者の雰囲気を感じるが、こっちの方がマトモな気がするのは何故だろう。
そう考えている間に、赤銅色の天然パーマの大男が紹介を始める。
「僕の名前は小守盾です。身長が190cmでよく大きいねと言われてます。一応、打たれ強さには自信があるので何かあれば頼ってくださいね」
何となく周囲の空気を和ませる自己紹介だった。
次は…あれ、この人男?女?
左目に黒髪がかかった少年がぼそぼそと小さな声で話し始める。
「…僕の名前は…木下楓…得意な武器…弓…」
少し高い声だが、その声で性別を判断するのは難しい。
続いて、その隣にいた水色のツインテールをした女子がハキハキとした声で話す。
「ウチの名前は田村明日香です!元気とはちょっと仲良しで、時々一緒にゲームとかしてます!よろしくです!」
…陽キャは試験に受かりやすいのか?
陽キャ率の高いメンバーをみて、ついそう思ってしまったが、どうやら必ずそういう訳ではないようだ。
「私の名前は菊地玲子と申します。特技は冷静な状況判断です。
モンスターとの実践は未経験ですので、特技を活かせるかどうかは断定できません。宜しくお願い致します」
紫色のロングヘアーの彼女を見て思ったことがある。
うわ、出たよ生徒会長系のめんどいやつ。という感想だ。
純粋に、同期がこんなにキャラは濃い奴らばかりで大丈夫か?俺。と不安になる。
そして、最後の一人が口を開く。
「私の名前は古田優と言います。特技は抹茶をたてることです。
他人とくらべて秀でたものはあまりありませんが、それでもよろしければ、今日は宜しくお願いします。」
…一番マトモなやつだ…
そう思っていると、紅谷さんが
「自己紹介が終わったのはいいが、想像以上に時間を使ってしまったため、
これより目的地に移動する。詳しい話は移動中にしよう。」
と言うので、紅谷さんの後ろを昔懐かしいRPGのように一列でついて行った。