ケモ耳が正義じゃない世界
『よっしゃあ!今日分の仕事終わりぃ!』
いや〜農家さんの仕事ってハードだね!この異世界に来てから身に染みて感じる。でも、仕事した事ないから他と比べられないけど。
「お前さんは仕事が速いな」
『ヴィヌスさんには敵いませんよ、本職はやはり違いますね』
「世辞も言えるんならこの先安泰だな」
『ヴィヌスさんは躱すのも一流なようで。この野菜あっちに運べば良いですか?』
「あぁ、よろしく頼む」
あれから、2日後。今はとりあえずヴィヌスさんの仕事の手伝いをしている。昨日相談したところ、この土地に慣れてから仕事を探した方がいいと言ってくれた。記憶喪失が幸いして、ここドコ?が成立するから良かった。記憶があったらこんなに話はトントン拍子で進まなかっただろう。ヴィヌスさん、騙してすみません。今は午後3時、この野菜を運び終わったら、森の方へ行ってみるつもり。探検とかいつぶりだろうな、小学生の上級生あたりからしなくなったっけ。
まぁ大丈夫よ、私そんな方向音痴じゃないし!自信もって行かなきゃ。
『それじゃあ行ってきますね』
「ランタンは持ったか」
『はい!』
「もしもん時は」
『この"ベル"を鳴らす、ですよね?』
ベル、というよりは鈴に近いこれは、どうやら鳴らすと助けが来てくれる、らしい。異世界だから何でもアリなのは、気にしてはいけないのだろう。早くこういうものにも慣れていこう。
『それでは行ってきます!』
『それにしても、木、凄いな』
奥に進むと、見えてくるのは木、木、木。直立して仁王立ちの勇ましい木もあれば、陽を浴びる為に上へ、横へと伸びたヘンテコな木もある。でもこの樹林、少し不気味な雰囲気もある。確かにあれからもう30分経っていて、日が暮れ始めてるのもあるかもしれないけど、それを差し引いても不気味だ。これは、早めに帰った方がいいかもしれない。
『よし、回れ右してさっさと帰、ん?』
今、なにか聞こえて?
「、て、」
っ!?まさか、オバケ?いや有り得るのが怖い!ここは異世界、全然居てもおかしくない!ヴィヌスさんはこの時間まで森に居るとは思わなかったから、お化けの事を何も言わなかった可能性もある。
でも、ダメなんだよなぁ!私の好奇心が、行こうって囁いてる!少し探していなかったら帰ろう。そう思い、私は歩き出した。
『ここら辺から、』
声が聞こえた気が、
「ひ、と?」
『わぁぁぁ!?』
びっくりしすぎて近くの木に隠れると、そっと顔を出す。
「ひ、とだ、」
褐色肌に少しくしゃっとなった長い髪。髪で顔が見えないけど、雰囲気で分かる、かなりのイケメンさんと見た。
カタコトだけど何でだろ、と思った刹那、彼の体の傷を見つけた。
『酷い傷!ちょっと、なんでこんな血だらけに。とりあえず、ヴィヌスさんの所まで、』
「だ、め、こな、い、で」
『何言って、って尻尾!?』
「あ、」
屈んでてよく見えなかったけど、後ろ尻尾生えてる。それにまたもよく見たら頭に耳生えてる!どうやらこの世界には人間以外の種族もいるようだ。
『ってそんな事気にしてる場合じゃない!ほら、肩貸すから立てる?』
「い、かな」
『もう駄々こねんな!行くよ!』
こうなったら最終手段、秘技お姫様抱っこ!運動部で鍛えていて良かったと、初めて本心で思った。彼の体は体格と違い、とても軽かった。下手すれば私よりも。
「あ、あっ」
『しっかり捕まっててって!』
おのれ長身イケメン!私の腕が短いのと脚が長すぎてぷらぷらしちゃってる。腕を伸ばす方法、前世で検索しておけば良かったかな。
『よし、意外と早く着いた!』
ベル必要無かったな、意外と近くを回ってて助かった。それにしてもケモ耳さん、さっきから全然動かない。さっきのを見た感じ、私に怯えてるんだろうな、超絶申し訳ない。よく見たら手に枷も着いてた、よく分からないけど、人種差別とか人身売買だろうか。
『ヴィヌスさん!』
「何だぁ、随分おせぇ、お前さん、そいつは」
家の中からダルそうに出てきたが、察してくれたのか、ヴィヌスさんの顔が強ばった。
『森の中に居たんです!この人傷が至る所にあって』
「手当が先だ、水汲んでこい」
『分かりました!』
『ぐっすり眠ってますね』
「あんなに傷負ってんだ、そりゃそうだろうよ」
ぐっすりと私のベッドで眠る彼は、顔だけでなく体のあちこちに傷があったという。話を聞いたところ、彼らのような種族を獣人というらしい。
簡単に言うと、奴隷とかにされてしまう種族で、その中でも彼のような一部が獣人化している半獣人は、特に蔑まれる。この国にそんな風調があったのは知らなかったけど、それだったら、なんでヴィヌスさんはあんまり毛嫌いしなかったのかが、不思議だ。
『今はそっとしておいた方がいいですかね』
「あぁ、とりあえずな」
あれ、そうしたら私の寝る場所、どこになるんだ?
『人生初のハンモックを、まさか異世界で果たすなんて思わなかったなぁ』
倉庫にあったハンモックを使わせてもらい、規則的に揺られると、確かに眠気を誘われる。獣人かぁ、ファンタジー小説じゃよく居るけど、まさか現実はあんなに酷いだなんて。自分
めちゃくちゃ個人的にはケモ耳大好き何だけど、普通に可愛いし
見た感じ黒い耳に黒い尻尾と来たら、やっぱり黒猫だよね
猫は全般好きだし、耳触らせて欲しい。触らせてくれなくてもいいから仲良くはなりたいな。明日、あんなに怯えてたけど、仲良くなれるといいな。
『おっはようございますっヴィヌスさん!』
「リンか、あいつの様子を見に行ってくんねぇか」
『分かりました!』
『そろ〜り、、、』
はっ、丸まっていらっしゃる。怖いんだ
『大丈夫だよ、私、なんも武器なんて持ってないしさ』
1歩近づく、彼の体が跳ねる
『話がしたいだけだからさ、ね?』
2歩近づく、彼は言う
「僕を、殺すなら、殺して」
『え、』
歩みが、止まる
「もう、嫌だ。怖いのは、嫌だ」
3歩進み、彼女は屈んで
『殺すなら、とっくに殺してる筈だよ。私はあなたが知りたい。だから、お話、してくれる?』
「、、、本当に、何もしない?」
『しない。なんなら、天地神明に誓ってもいいよ?』
「てんちしんめい?」
『神に誓って、あなたを傷付けないって約束』
「、、、分かった」
『よし、なら下にいこ。ヴィヌスさんもいい人だからさ』
「、、、うん」
うはぁ!可愛い、、、いやいや!ダメよ私!耐えなさい!
「聞くがお前さん、どこから来た」
「分から、分かりません。ずっと走ってました」
「そうか、隣国から来た可能性が高ぇな。あそこは奴隷が根強く残ってる」
あ、ここじゃなくてお隣の国なんだ
『あの、彼は、どうなるんですか?』
「、、、お前はどうしたい」
「僕は、あそこへは、行きたくない、、、です」
『ヴィヌスさん!なら、一緒に住んじゃダメですか!?』
「えっ?」
「、、、」
『わがままなのは分かってます。でも、私、彼ともっと喋りたい!人種なんて関係ありません!私が、彼と、仲良くなりたいんです!』
「確かに、お前ぇの言い分はわがままだな」
『っ、』
「だが餓鬼はそれぐらいでいい。そこのスラング、お前はそれでいいか」
『、、、!!』
「、、、はい、ありがとう、ございます」
『やったぁ!』
良かったよぉ、ダメって言われたらどうしようかと!
『そういえば、名前聞いてないや』
「名前は、ない。奴隷に名前はない」
『あ、ごめん、、、じゃあさ、私が付けてもいい?』
「いいの?」
『もちろんだよ!待ってよ、めちゃくちゃかっこいい名前を、、、って1個しか思いつかないや。
あなたの名前は
"幸運"ね!』
「ラック、僕の、名前?」
『そう、私が初めて出来た友達の名前!理由はね、単純なんだけど、黒猫って幸運を呼んでくれるらしくて、何より、私があなたと出会えた事が幸運だなぁって。ごめんね、こんなチンケな事しか思い浮かばなくって』
西洋じゃ黒猫は幸運を運ぶ猫って言われてて、私が彼と出会えたから、これは立証されたね!
「ありがとう、君の名前は?」
『ふふっ私は燐って言います』
「よろしく、リン」
『よろしく、ラック』
異世界初の友達は、イケメンで優しい、ケモ耳君です!