森の図書館はおおあわて
ここは森の真ん中にある、動物たちの図書館です。本の整理や、貸出案内をしているのは、森でただ一人の人間である、アワテさんです。アワテさんは、名前の通りとってもあわてんぼうさん。どのくらいあわてんぼうかというと……。
「こんにちわ、アワテさん。おいら、リスのチョコだよ。今日は本を借りにきたんだけど……」
「あら、チョコくん、いらっしゃい。すぐに本を持ってくるからね」
チョコくんのすがたを見るなり、アワテさんはすたたたっと図書館の奥へ走っていって、本を持ってきたのです。
「はい、持ってきたわよ。『しっぽのお手入れ』よ。寒くなってきたから、しっぽをお手入れするのも大変でしょう」
「アワテさん、違うよぉ、おいらが借りたいのはこれじゃないよ」
「あら、違ったの? ごめんなさいね、わたしったら、あわてんぼうで。じゃあ、ちょっと待っててね」
またしてもアワテさんは、すたたたっと図書館の奥へ戻っていきます。そして、今度もまた本を持ってすぐに帰ってきたのです。
「じゃあこれでしょう? 『おいしいクルミの見つけかた』よ。これさえあれば、おいしいクルミがたくさん食べられるんじゃないかしら」
「へぇー、こんな本もあったんだ。でも、今度でいいよ。おいらが借りたかったのは、『木の実の隠し場所大全集』だよぉ」
チョコくんにいわれて、ようやくアワテさんはお目当ての本を探しに行くのでした。
こんな調子なので、アワテさんはいつもバタバタ、ドテドテ、騒がしいのでした。でも、面白い本を探させたらピカイチなので、森のみんなはアワテさんのことが大好きです。今日もまたお客さんがやってきました。ですが……。
「ふわぁ、こんにちわぁ……。アワテさぁん、ぼく、ぼくぅ……」
「こんにちは、あら、クマのクマッタくんじゃないの。ははーん、その顔、きっと探している本はあれね」
いつものように、アワテさんはパタパタと図書館の奥へ走っていきました。クマッタくんは、なんとも眠そうな顔で、何度も大あくびをします。
「さぁ、持ってきたわよ。これでしょ? 『眠たいまぶたをやっつけろ』よ」
「ふわぁ……。ちがうよぉ……」
「あら、ちがうの? それじゃあこれかしら? 『はちみつをおいしくする方法』だけど」
「ちがう……よぉ……」
「これもちがうの? じゃあ、『冬の草花全集』は?」
「ちが……う……」
クマッタくんは、とうとうドテンッとその場に倒れて眠ってしまったのです。倒れたひょうしに、アワテさんもステンッと転んでしまって、持っていた本をどさどさどさっと落としてしまいました。
「あらら、やっちゃったわ。早く拾わなくっちゃ。えっと……あれ、『はちみつをおいしくやっつけろ』? 『まぶたの草花全集』? あれ、あれれ?」
アワテさんは目をぱちくりさせます。落とした本を二冊ひろったのですが、どちらも見たことも、読んだこともない本だったのです。アワテさんはますますあわててしまいました。
「大変だわ、もしかして、さっき落としたひょうしに、本の題名が入れかわっちゃったのかしら? あぁ、これは大変だわ! まさか、本の中身まで……」
急いで本を開いてみると、アワテさんの心配ごとは当たっていたようです。『はちみつをおいしくする方法』には、はちみつの作りかたや、どんなお料理に使えばいいかが書かれていました。でも題名がごちゃごちゃになってしまい、『はちみつをおいしくやっつけろ』になってしまったからでしょうか? どうやってミツバチ君たちをやっつけて、はちみつをよこどりするかが書かれていたのです。
「きゃっ、なんてこわい本になっちゃったの! え、それじゃあこっちの本は……?」
アワテさんが、もう一冊の本、『まぶたの草花全集』を開いてすごい勢いで読んでいきます。もともとは、『冬の草花全集』という、冬にどんな草花が生えるのか、それにどんな草花がおいしいのかが書かれた本だったのです。でも、『まぶたの草花全集』になってしまったからでしょうか? まぶたに飾るにはどんな草花がいいかが書かれた、とっても変な本になっていたのです。アワテさんは頭をかかえてしまいました。
「あぁ、どうすればいいのかしら? これじゃあクマッタくんに本を貸せないわ。……でも、クマッタくん、いったいなんの本を借りにきたのかしら? そうだわ、きっとクマッタくんが借りたい本を探してあげたら、題名がごちゃごちゃになったのも治るんじゃないかしら?」
そうと決まれば、アワテさん持ち前のあわてんぼうさで、図書館中をかけめぐって探していきます。ですが……。
「あぁ、大変だわ! さっきの振動で、他の本たちまで題名がごちゃまぜになっちゃってる! こうなっちゃったら、探せないわ!」
アワテさんはまたまた頭をかかえました。『ももたろう』と『赤ずきん』がまざって、『赤たろう』と『ももずきん』に、『花さかじいさん』と『くつしたがない!』がまざって、『花さかない!』と『くつしたがじいさん』になっています。『つるの恩返し』と『さるかに合戦』がまざって、『つるの合戦』と『さるかに恩返し』になっていますし、『みにくいアヒルの子』と『シンデレラ』なんかは、『アヒルの子』と『みにくいシンデレラ』になっていたのです。こうなってはもうお手上げでした。
「大変、大変、大変だわ! どれもこれも、おかしなお話になっちゃってる! あぁ、どうしましょう、どうしましょう!」
アワテさんがあまりにバタバタするからでしょうか、倒れて眠っていたクマッタくんが、ふわぁーっと大きなあくびをしてから、起きあがったのです。
「アワテさん、ぼくの本、見つかったぁ?」
「あぁ、クマッタくん、起きたのね! 大変なのよ、図書館の本が全部ごっちゃに」
「あ、ありがとう、アワテさん。見つけてくれたんだね、『冬眠する方法』、これを探してたんだ」
クマッタくんがお礼をいったので、アワテさんは目をぱちくり、クマッタくんが持っている本を見て、「あっ」と声をあげました。
「本当だわ、『冬眠する方法』って、あ、そうか!」
アワテさんは、さっき落とした三冊の本の題名を、もう一度思い出したのです。
「さっき持ってきたのは、『眠たいまぶたをやっつけろ』と、『はちみつをおいしくする方法』と、『冬の草花全集』だわ! それが混ざっちゃって、『はちみつをおいしくやっつけろ』と、『まぶたの草花全集』と、あと一冊! 『冬眠する方法』になっちゃったんだわ。それで、クマッタくんが本当に探していたのは、『冬眠する方法』だったのね」
アワテさんがポンッと手をたたくと、またしても図書館がグラグラッとゆれたのです。きゃっと悲鳴をあげて、アワテさんとクマッタくんがよろめきます。
「わわわ、地震かなぁ? あれ、さっきまで『冬眠する方法』だったのに、『冬の草花全集』になっちゃってる!」
クマッタくんの言葉に、アワテさんはまたしても、「あっ」と声を出して、それから図書館の本をすみからすみまで調べていきます。
「『みにくいアヒルの子』に『シンデレラ』ね。『ももたろう』に『赤ずきん』だわ。他の本たちも……よかったぁ、元に戻ったみたい」
「アワテさん、ぼく、『冬眠する方法』が読みたかったのに……」
クマッタくんのがっかりした声を聞いて、アワテさんはすぐにうなずきました。
「大丈夫よ、すぐに持ってきてあげるから、ひゃっ!」
あわてて走り出したので、アワテさんは転びそうになって、すんでのところでバランスを取りました。ふぅーっと大きく息をはいて、アワテさんはてへへと笑いました。
「あわてないようにしなくっちゃ、また題名がごちゃまぜになっちゃうわね」
アワテさんはゆっくり、しんちょうに、『冬眠する方法』を探しに行くのでした。