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冬童話2021 『さがしもの』

森の図書館はおおあわて

作者: 小畠愛子

 ここは森の真ん中にある、動物たちの図書館です。本の整理や、貸出案内をしているのは、森でただ一人の人間である、アワテさんです。アワテさんは、名前の通りとってもあわてんぼうさん。どのくらいあわてんぼうかというと……。


「こんにちわ、アワテさん。おいら、リスのチョコだよ。今日は本を借りにきたんだけど……」

「あら、チョコくん、いらっしゃい。すぐに本を持ってくるからね」


 チョコくんのすがたを見るなり、アワテさんはすたたたっと図書館の奥へ走っていって、本を持ってきたのです。


「はい、持ってきたわよ。『しっぽのお手入れ』よ。寒くなってきたから、しっぽをお手入れするのも大変でしょう」

「アワテさん、違うよぉ、おいらが借りたいのはこれじゃないよ」

「あら、違ったの? ごめんなさいね、わたしったら、あわてんぼうで。じゃあ、ちょっと待っててね」


 またしてもアワテさんは、すたたたっと図書館の奥へ戻っていきます。そして、今度もまた本を持ってすぐに帰ってきたのです。


「じゃあこれでしょう? 『おいしいクルミの見つけかた』よ。これさえあれば、おいしいクルミがたくさん食べられるんじゃないかしら」

「へぇー、こんな本もあったんだ。でも、今度でいいよ。おいらが借りたかったのは、『木の実の隠し場所大全集』だよぉ」


 チョコくんにいわれて、ようやくアワテさんはお目当ての本を探しに行くのでした。




 こんな調子なので、アワテさんはいつもバタバタ、ドテドテ、騒がしいのでした。でも、面白い本を探させたらピカイチなので、森のみんなはアワテさんのことが大好きです。今日もまたお客さんがやってきました。ですが……。


「ふわぁ、こんにちわぁ……。アワテさぁん、ぼく、ぼくぅ……」

「こんにちは、あら、クマのクマッタくんじゃないの。ははーん、その顔、きっと探している本はあれね」


 いつものように、アワテさんはパタパタと図書館の奥へ走っていきました。クマッタくんは、なんとも眠そうな顔で、何度も大あくびをします。


「さぁ、持ってきたわよ。これでしょ? 『眠たいまぶたをやっつけろ』よ」

「ふわぁ……。ちがうよぉ……」

「あら、ちがうの? それじゃあこれかしら? 『はちみつをおいしくする方法』だけど」

「ちがう……よぉ……」

「これもちがうの? じゃあ、『冬の草花全集』は?」

「ちが……う……」


 クマッタくんは、とうとうドテンッとその場に倒れて眠ってしまったのです。倒れたひょうしに、アワテさんもステンッと転んでしまって、持っていた本をどさどさどさっと落としてしまいました。


「あらら、やっちゃったわ。早く拾わなくっちゃ。えっと……あれ、『はちみつをおいしくやっつけろ』? 『まぶたの草花全集』? あれ、あれれ?」


 アワテさんは目をぱちくりさせます。落とした本を二冊ひろったのですが、どちらも見たことも、読んだこともない本だったのです。アワテさんはますますあわててしまいました。


「大変だわ、もしかして、さっき落としたひょうしに、本の題名が入れかわっちゃったのかしら? あぁ、これは大変だわ! まさか、本の中身まで……」


 急いで本を開いてみると、アワテさんの心配ごとは当たっていたようです。『はちみつをおいしくする方法』には、はちみつの作りかたや、どんなお料理に使えばいいかが書かれていました。でも題名がごちゃごちゃになってしまい、『はちみつをおいしくやっつけろ』になってしまったからでしょうか? どうやってミツバチ君たちをやっつけて、はちみつをよこどりするかが書かれていたのです。


「きゃっ、なんてこわい本になっちゃったの! え、それじゃあこっちの本は……?」


 アワテさんが、もう一冊の本、『まぶたの草花全集』を開いてすごい勢いで読んでいきます。もともとは、『冬の草花全集』という、冬にどんな草花が生えるのか、それにどんな草花がおいしいのかが書かれた本だったのです。でも、『まぶたの草花全集』になってしまったからでしょうか? まぶたに飾るにはどんな草花がいいかが書かれた、とっても変な本になっていたのです。アワテさんは頭をかかえてしまいました。


「あぁ、どうすればいいのかしら? これじゃあクマッタくんに本を貸せないわ。……でも、クマッタくん、いったいなんの本を借りにきたのかしら? そうだわ、きっとクマッタくんが借りたい本を探してあげたら、題名がごちゃごちゃになったのも治るんじゃないかしら?」


 そうと決まれば、アワテさん持ち前のあわてんぼうさで、図書館中をかけめぐって探していきます。ですが……。


「あぁ、大変だわ! さっきの振動で、他の本たちまで題名がごちゃまぜになっちゃってる! こうなっちゃったら、探せないわ!」


 アワテさんはまたまた頭をかかえました。『ももたろう』と『赤ずきん』がまざって、『赤たろう』と『ももずきん』に、『花さかじいさん』と『くつしたがない!』がまざって、『花さかない!』と『くつしたがじいさん』になっています。『つるの恩返し』と『さるかに合戦』がまざって、『つるの合戦』と『さるかに恩返し』になっていますし、『みにくいアヒルの子』と『シンデレラ』なんかは、『アヒルの子』と『みにくいシンデレラ』になっていたのです。こうなってはもうお手上げでした。


「大変、大変、大変だわ! どれもこれも、おかしなお話になっちゃってる! あぁ、どうしましょう、どうしましょう!」


 アワテさんがあまりにバタバタするからでしょうか、倒れて眠っていたクマッタくんが、ふわぁーっと大きなあくびをしてから、起きあがったのです。


「アワテさん、ぼくの本、見つかったぁ?」

「あぁ、クマッタくん、起きたのね! 大変なのよ、図書館の本が全部ごっちゃに」

「あ、ありがとう、アワテさん。見つけてくれたんだね、『冬眠する方法』、これを探してたんだ」


 クマッタくんがお礼をいったので、アワテさんは目をぱちくり、クマッタくんが持っている本を見て、「あっ」と声をあげました。


「本当だわ、『冬眠する方法』って、あ、そうか!」


 アワテさんは、さっき落とした三冊の本の題名を、もう一度思い出したのです。


「さっき持ってきたのは、『眠たいまぶたをやっつけろ』と、『はちみつをおいしくする方法』と、『冬の草花全集』だわ! それが混ざっちゃって、『はちみつをおいしくやっつけろ』と、『まぶたの草花全集』と、あと一冊! 『冬眠する方法』になっちゃったんだわ。それで、クマッタくんが本当に探していたのは、『冬眠する方法』だったのね」


 アワテさんがポンッと手をたたくと、またしても図書館がグラグラッとゆれたのです。きゃっと悲鳴をあげて、アワテさんとクマッタくんがよろめきます。


「わわわ、地震かなぁ? あれ、さっきまで『冬眠する方法』だったのに、『冬の草花全集』になっちゃってる!」


 クマッタくんの言葉に、アワテさんはまたしても、「あっ」と声を出して、それから図書館の本をすみからすみまで調べていきます。


「『みにくいアヒルの子』に『シンデレラ』ね。『ももたろう』に『赤ずきん』だわ。他の本たちも……よかったぁ、元に戻ったみたい」

「アワテさん、ぼく、『冬眠する方法』が読みたかったのに……」


 クマッタくんのがっかりした声を聞いて、アワテさんはすぐにうなずきました。


「大丈夫よ、すぐに持ってきてあげるから、ひゃっ!」


 あわてて走り出したので、アワテさんは転びそうになって、すんでのところでバランスを取りました。ふぅーっと大きく息をはいて、アワテさんはてへへと笑いました。


「あわてないようにしなくっちゃ、また題名がごちゃまぜになっちゃうわね」


 アワテさんはゆっくり、しんちょうに、『冬眠する方法』を探しに行くのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] アワテさん、こちらが本のタイトルを言う前にその人が必要そうな本をとってきてくれるのですね! 読みたい本は特にないけれど、面白い本が読みたいという人には神のような人に見えることでしょう。 私も…
[一言] なんとも可愛らしいお話ですね。 アワテさん、ご要望を聞く前にたくさんの本のタイトルが浮かんでくるくらい、図書館のことに熟知しているのですね。次はどんなタイトルが出てくるのだろうと、思わずわく…
[良い点] 冬童話企画よりお邪魔します♪ わあ♪ あわてんぼうのアワテさん、とってもかわいいですね(*´꒳`*) 本のタイトルが入れ替わったら中身も入れ替わってしまうのが、とっても面白くて、そして可…
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