流星群の夜
ミラは、まだ夜空を見上げている。未練がましく、終わりかけた流星群を見つめている。
「もう止しにしたらどうだ? 星なんて、そうそう手に入らない」
「だって、シリウス。半世紀に一度の流星群だよ? もし星が手に入ったら、きっと素晴らしく幸せになれる」
ミラは聞く耳を持たずに、開け放した窓から夜空を見上げている。
「あ、流れた!」
ぱっと両手を閉じたミラは、弾けるような笑顔でそっと手を開いた。その手の中には、桃色の金平糖が一粒、ほのかな光を放っていた。
「……おめでとう」
思わずつぶやいた俺の口に、ミラは金平糖をぽんと入れた。驚いた俺の表情を見て、ミラはにっこり微笑って言った。
「そんなにびっくりしないでよ? 僕は君に幸せになってほしいんだ。君の幸せは、僕の幸せなんだから」
そう言い切って笑うミラをくいと引き寄せ、俺はとっさに口づけた。口内に広がる甘い香りは、星のお菓子か、愛しい人の香りなのか。しばしの後にようやく唇を離した俺は、勝ち誇るように微笑って告げた。
「……これでおあいこだな。『流れ星を食べると幸せになる』。これで二人とも幸せだ」
「……僕はもう、十分幸せなんですけど」
照れ笑いする恋人に「俺もだよ」とは言えなくて、黙ってもう一度キスをした。視界のはしに、流れ残りの星がちらっと柔くまたたいた。(了)