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第四楽章

 結局その後、南沢優の姿は見つからなかった。


 二人はもやもやとした感情を晴らせないままに、自宅へと戻る決心を固めた。


「すごいことになったな」


 時間が経ち、多少冷静さを取り戻した金城はそう言った。


「彼女の言う通りのことが起きた。演奏が終わるとともに、南沢優は消滅したんだ」


「しかし、内村先生は廊下ですれ違ったと言っていた」


「音楽室からは誰も出てこなかったのは僕らが確認していただろう? つまりは、内村先生は嘘を吐いている」


 大人たちはきっと嘘を言うだろう――修一は写真の中の文章を思い出す。先生は僕らに嘘を吐いたのだろうか。何かを隠すために?


 金城はもうすっかり、文芸部で見つかった予告文が実際に起こり、南沢優がどこかに消えてしまったというストーリーを確立させていた。


「これで明日南沢優が学校に来なかったら、面白いじゃないか。久々に面白い記事が書けそうな予感がする」


 別れ際にそんなことを言って、金城は修一と別れた。新聞部としての本能が騒ぐのだろうか、彼の精神は出来事を面白可笑しく書き並べる方向性へと舵を切っているようだった。


 修一は金城と別れた後、地面を眺めながらトボトボと歩いた。そのままどこにも寄らず、家に帰るつもりだった。けれども……色々な考えを頭の中に巡らせているうちに、彼の足は自然と歩みを止めたのである。


「いや……」


 修一はそう呟くと、再び校舎の方へと歩き出した。


 何か違和感がある。根拠はないが、そんな気分がする。修一は曖昧な動機に背を押されながら、再び件の音楽室へと赴いた。部屋の中にはやはり人気はなかった。遠方で響いていた部活動の音も既に絶え、不安になるほどに静まり返っている。


 修一は耳を澄ませた。彼がこの場所で聞き逃した何かを、もう一度聞き取ることが出来るように。

 と、放課後の静寂の中に流れる、ヴウーン、という微かな低音を彼は感じた。


 それは楽器の音でも、人の声でもなく――機械の音だった。部屋の隅に設えられたオーディオ・プレイヤー。よくよく見てみると、フロントパネルの赤い電源ランプに光が点っている。音楽教師が消し忘れたのだろうか。否。偶然ではあるまい。


 修一は妙な確信を抱いて、プレイヤーのパネルを触り始めた。適当に弄っているうちに一枚のCDが外へと排出される。何も書かれていない、ただの白いCD。少なくとも、市販のものではあるまい。修一は既に、この白い円盤の中に、何が刻まれているかの見当が付いていた。そしてこれが、誰の所有物であるかも……。


「見つかっちゃったか」


 突然背後から声がしたので、修一はぎょっとして振り返った。修一の視線の先に立っていた人物は、黄昏色の光の中で微笑んでいた。


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