神々の意思
最初は、ちょとSFチックに宇宙の始まりを導入編として書いてます。
「神々の会話」の章以降は、神を人間臭く書いています。
軽快な会話にしたつもりですので、笑って楽しんでいただけたらと思います。
この「神々の会話」から読んでいただいても楽しめるかと思います。
「生命の進化」以降は、地球を舞台に生物の進化と、人間について記載しています。
絶対的な力を持った観察者からしたら、どう見えるだろう、という視点で書いています。
空想で書いているのでサイエンスに詳しい人には物足りないかもしれません。
そのあたりは笑って許していただければと思います。
皆様が、鼻で クスッ と、軽く笑って読んでいただければ幸いです。
===================
無空間
===================
まだ宇宙と呼ばれる前の広大な暗黒世界が存在した。
光はまったくなく絶対0度の極限世界。
エントロピーの完全飽和状態の世界である。
物の大きさを測る基準もなければ、距離の基準もない。
時間の流れさえもあるのか分からない。
そのような暗黒世界に、人の手のような物が突然現れる。
大きさは基準がないので分からない。
銀河系より巨大なのか、あるいは蟻の触覚より小さいのか・・
いずれにせよ大きさを言うのは無意であろう。
何もない世界なのだから。
現れた手は半透明で透き通っていた。
そして手首より先は無い。
この様子は、光があり人間の視覚で見た比喩である。
実際、人間には見ることはできない事象であるため比喩でしか表現できないのが残念である。
その手は、左手のようである。
しばらくすると、その手が消えた。
また、しばらくすると右手が現れる。
これも手首より先がなく半透明である。
ただ、親指と中指で何かを摘まんでいる。
やがて、この親指と中指で摘ままれている何か。
半透明だったものが、ゆっくりと手前に移動してくる。
観察者がいるとして、その観察者に向って突き出されるイメージである。
移動してくると、その何かは、じょじょに色がつき始め形が見え始める。
そう、まるで濁った水のなかから、物が突き出されるイメージだ。
水底にあるうちは見えない。
水面に近づくと、じょじょに形や色が見え始める。
そして、水面から出た部分は、はっきりと色形が分かる。
そういうイメージだ。
今、まさに手に摘ままれたものが、はっきりと見え始めた。
それは、アーモンド・・・
そう、アーモンドにそっくりの何か・・・
アーモンドに似た種子とでもいうべきだろうか・・
それが1粒。
尖った先端からじょじょに、はっきりと見えだしたのだ。
やがて種子の全体が見え始め、それをもっている指もはっきりと見え始める。
そして、種子の1粒が完全に見えると、親指と中指は摘まむのをやめた。
そして手は出てきた位置に戻り始める。
あたかも先ほど述べた湖の底にもどるかのように・・・
そして、種子だけが、何もない広大な空間にぽつんと残された。
この種子の形状は、やはりアーモンドとしか思えない形状をしていた。
残された種子は、真っ暗な巨大な空間のなか、孤独に浮遊している。
浮遊といっても、どちらが上下で、どちらが左右かもわからない空間である。
移動しているのか、止まっているのか、回転しているのかも分からない。
そういう意味では浮遊していると言えないかもしれない。
手が現れて、この種子が置かれていく状況は、何かに似ていないだろうか?
種子の置かれた空間が、種子を置いた存在にとっては閉塞した空間であり、
それが種子を置いた存在にとって、小さな隔離された空間だとしたら、
その空間に手を入れて、種子を置いたように見えないだろうか?
人間社会に置き換えた場合、何か研究をしているように見えないだろうか?
いずれにせよ、空間に置かれた種子は何なのだろうか・・・
正体不明の手は何をしようとしているのだろうか・・
何もない空間にぽつんと存在する種子は何も語らない。
種子は何も変化せず、そこにあるだけだった。
===================
時間
===================
この項目は本ストーリーから多少逸脱します。
ストーリー展開で、時間の説明がややこしくなるため、ここに入れています。
この「時間」の章は読み飛ばしても、ストーリーとして問題ありません。
--------
時間の概念には、いろいろな考え方があるだろう。
種子以外に何もない空間、そして種子が永遠に変化しない場合、
この空間に時間は存在するのだろうか?
蛇足だが、永遠という言葉自体、不思議なことに時間の概念である。
これは時間に影響されない、ということだから時間は関係無いと置き換えられる。
本題に戻そう。
そもそも時間とは何であろう。
変化するものがあれば、一定の刻という基準を決め変化を観察できる。
これは時間があると言えるだろう。
しかしエントロピーの飽和により温度変化がなく、そして何もない空間では時間は無意味だ。
変化の全く無い状態が永遠に続く空間で時間の概念自体が無意味となる。
時間が存在しないと言える。
では、エントロピーが飽和して何もない空間に種子を置いた場合はどうであろうか?
別空間から種子が置かれた時、この空間では種子が現れる変化があった。
つまり刻が動いたと言えるだろう。
そして、種子を置くときに付随する変化は何が考えられるであろう。
別空間からの温度が、置かれる空間に伝搬する。
種子自体が温度を持っていて、置かれた空間で温度変化する。
別空間から、種子以外のものが流入する(ガス、塵など)。
置かれた空間で種子から何かが放出される(ガス、塵など)。
別空間におかれることにより種子に変化が現れる(色、形状など)。
しかし、種子が置かれたときに、これら変化は起こらなかった。
神のなせる御業ともいえるだろう。
即ち、種子が現れた時、この空間では時間が一瞬発生した。
しかし、その後変化が無いため、種子が置かれた空間では時が凍結された。
と、いうことになる。
---- 補足:作成者の独特な考え
時間について、科学的な文献などは一切調べていません。
たぶん、読んでも私では理解できないでしょう・・・、いや、確実に?かな。
以下に宇宙の時間に関する勝手な想像を示します。
似たようなことを考えている方もいるかと思いますが・・。
時間とは絶対0度で何もない空間を起点とする。
その空間に、なんらかの物質が発生すると、その時点で時が刻まれ始める。
物質が発生することにより熱が発生する(自重力、物質同士のぶつかり合い、科学反応等)。
あるいは、その物質が外的要因、または内的要因により形状、性質、色などが変化する。
やがて、その物質はエントロピーの増大により絶対0度の世界に戻る。
そして何も変化しない、または何もない空間に戻り時間は意味をなさなくなる。
これが刻の終焉。
これが時間の発生から終焉までと考えます。
空間と時との関係ですが、
閉ざされた空間が複数ある場合、
ある空間はエントロピーが飽和し何も無く刻は存在しません。
しかし別空間に物質がある場合は刻は流れています。
よって空間と時は別物です。
時間を計る場合、どの空間を基準にするか、または1つの空間内で計るかにより異なってしまいます。
===================
静から動へ
===================
時間が存在したとして、
種子が置かれてからどれくらいたったのだろうか・・・
数時間・・・数年、・・・数百年、数億年
何もない空間に種子があるというだけの状態が続いている。
この状態で時間の流れを感じることができるであろうか?
いや、その前に時間というものがあるのだろうか?
仮に時間があって経過したとして、種子に変化はない。
種子をおいてから、姿を見せない手は何をしているのだろう?
種子を置いた手は、何を意図して、この空間に種子を置いたのであろうか?
そもそも、その手はどこから現れたのであろうか?
そして、手に実態はあるのだろうか?
手は手の形に固定されたものなのか、あるいは別の形になるのだろうか?
生命体なのだろうか?、
ただ、分かることは、手は、この空間に作用することができる唯一無二の存在である・・・
神と呼ぶにふさわしい存在ではないだろうか。
この神は、この空間と別の空間から現れていることから
神のいる空間にある種子を、わざわざこの空間に持ってくる理由があるはずだ。
しかし、その種子は未だ何の変化も示さない・・・
さらに時が過ぎた。
これも数秒なのか、数億年なのかは不明だが・・・
突然、種子がアーモンド型から膨らんでいく。
この瞬間、不変の世界から変化のある空間となり時間が産まれた。
種子は、アーモンド型の縦長方向の大きさは変わらず、さらに膨らんでいく。
真円に近い球状になると僅かに光った。
そう思った瞬間、猛烈な勢いで強烈な光を辺り一面にまき散らす。
そして強烈な光の中から、何かが一気に、四方、八方に爆発して飛び散った。
この刻を神は待っていたのだろうか・・・。
長い静寂からの急激な変化である。
種子の爆発によって、何も無かった空間に何かの粒子が撒き散らかされ濃密に立ち篭めた。
その範囲は・・・
数百光年先まで広がり、さらに広がりつつある。
広がる何か、それは星の種だった。
暫くすると変化が生じた。
飛び散っている先頭のプラネット・シードの加速度運動が徐々に小さくなってきた。
さらに時間が経つと加速度運動が、やがて等速度運動になった。
そう、まるで伸びきったゴムが元に戻る力が働くように広がる速度にブレーキがかかった。
===================
生成
===================
星の種の広がり速度が等速度運動で安定して暫く経過した。
すると、プラネット・シードの中心点あたりに、また半透明の右手が何か持って現れた。
その持たれた物は、透明な筒のように見える。
その透明な筒が、次第に突き出されるに従い輪郭が徐々にはっきりしてきた。
手は半透明なまま、前回と違って透明な筒だけが、くっきり見える所で止まった。
そして、透明な筒から一滴、滴のようなものが落とされた。
落とされると同時に、爆発した。
しかしプラネット・シードは何も影響を受けずに均一化した密度で等速運動を続けている。
だが、爆発した滴は霧状になり、数百光年先のプラネット・シードの先端付近まで、アッという間に広がった。
すると、どうしたことだろう・・・
均一に広がっていたプラネット・シードに変化が現れた。
そう、まるで墨絵のようだ。
あたかも水に垂らした水墨のように見える。
プラネット・シードの密度に濃淡、または無い部分が現れたのだった。
やがてプラネット・シードの密度の高い部分は、近隣の薄いプラネット・シードを集め始めた。
これによりさらに濃淡がはっきりし始めるとともに、あちこちが島状になる。
そう、まるで瀬戸内海などの海にある、小さな島々のように。
ただし島といっても数光年の広さだ。
その島状の濃いプラネット・シードが、渦を巻き始める。
まるで隣の島と呼吸を合わせたかのように・・・
ゆっくりと、ゆっくりと渦が巻き始める。
この島ができる様子は日本神話の島が産まれる状況に似ているようにも見える。
不思議な既視感を覚える。
それからさらに時間が経過した。
島状だったプラネット・シードは球形に形を変えていた。
よく見ると、その球形は膨大な星々の集まりだった。
球形の中心に信じられない大きさの惑星がある。
それを核とし回りに小さい惑星が群がる。
見た目は野球のボールのようだ。
その球形は回転を徐々に早くしている。
やがて遠心力で、外周の惑星が帯状に外側に広がる。
土星のような形状に変化した。
ただし、球とリングの間に隙間は無い。
そのリングは回転により、等間隔で無数にちぎれ中心から次第に伸び始めた。
やがて銀河系の形に変形していく。
さらに時間経つ。
中心の信じられない大きさの惑星は他の惑星を自分に引きつけていた。
引きつけられた惑星は、大きな惑星に衝突し、さらに大きな惑星を構成していった。
それが、なぜか突然、縮んで強烈な光を発して消えた。
その消えた場所に周辺の惑星が吸い寄せられ消える。
消えるときに、粉々となった惑星の残骸が勢いよく、直線に吹き出して行く。
やがて吸い寄せられる近くの惑星が無くなると、何事も無かったようになる。
しかし、たまにであるが、運悪く中心付近にある惑星が中心に吸い寄せられ、
粉々になっているようだ。
このような銀河が至るところで発生していた。
===================
惑星への操作
===================
宇宙空間が銀河だらけになったころ、また右手が現れた。
現れ方は前回と同じように半透明から始まる。
今度は手の大きさがわかる。
銀河の 1/10程度であろうか・・・
ただ、前回現れたときと大きさが同じかどうかはわからない。
その手に、何か細い物が握られている。
すると、その手の側に、別の右手が現れた。
その半透明の右手の人指し指から、何か光りを出した。
その光はある銀河の惑星に当たった。
銀河系を形作る星々の中で、恒星の近くを回る星のようだ。
すると、最初に現れた右手に握られていた細い物が、その指示に従うように、
光で指されている惑星に近づいていく。
近づく毎に、手に握られた細いものがはっきりと形を表す。
指された惑星の大きさの 1/10 程の大きさの細い金属製の針に見える。
そして、その針を惑星の表面に一瞬突き刺すと、直ぐに抜いた。
それが終わると、先ほど光を出していた右手は別の銀河の近くに移動していた。
そして、その右手と、別の右手は同じようなことを別の銀河に繰り返す。
手を加える銀河は、ランダムに選んでいるようだ。
この様子は、まるで人間が卵子に人工授精を行う作業のように見える。
種子が爆発したで有ろう箇所から、時計回りに最遠の銀河までこの作業は続いた。
やがて、二つの右手は徐々に透明になり消えた。
それから暫くすると、操作を加えられた惑星が、操作をされた順に時間間隔をおいて変化が現れた。
赤茶けた肌色や、黒ずんでいた惑星が雲に覆われ惑星内部が見えなくなった。
さらに時が経つと・・
惑星を覆っていた雲が途切れて惑星の表面が見え始めた。
ある惑星は青々とした海のような物が見え、
ある惑星は真っ白な物に覆われたように見える。
別の惑星は、真っ赤な溶岩のような物が至るところから吹き出て流れている。
さらに別の惑星は、至る所で砂煙が絶えず上がっていて地表が見えない。
どうやら、神は惑星個々に別の処理をしていたようだ。
何を目的として、このような処理をしたのであろうか・・
===================
神々の会話
===================
急な招集がかかり大会議室に呼ばれた。
「皆、集まったか?」
「一部、緊急の仕事で集まっていませんが、会議を進めてもかまいませんよ。」
「そうか・・では、始めよう。」
隅の席に座った私は、オルリという。
種の起源を探求している科学者である。
隣の席に不機嫌に座っているのは同僚のカイリだ。
カイリは宇宙創成のカリスマともいえる科学者で、私とは同年代の者だ。
彼は会議に呼ばれ、寝ているところを起こされた。
なんでも、ここ数年寝ていないらしい。
議長は空間管理委員会の委員長であり、本アカデミーの学長でもある。
その議長の招集となれば、空間実験の許可が下りたのだろう。
長かったよな、許可が下りるまでが・・遠い目をして物思いにふける。
議長が話し始める。
「今日の議題だが、無空間の使用について報告する。
それでは副議長、説明を。」
「はい。
新規作成された無空間をどのグループが使用するかを役職者が吟味しました。
その結果、候補が3つに絞られました。
これらは競合する研究ではないので、3つのグループに使用許可が下りました。」
おお~、と、議場に期待の声が響く。
「では、グループ名を発表します。
宇宙創成、
種の起源、
宇宙の終焉
以上のグループです。」
「意義あり!」
意義を唱えたのは、私と犬猿の仲のリードだ。
何が気にくわないのか、私への敵対心が強い。
私への嫌がらせや、迷惑行為をするより自分の研究に没頭した方がいいのに、と、
しばしば思う人物だ。
「なんでしょうか?」
「種の起源なんて重要性を感じません。
それより、私の恒星エネルギーの方が重要だと主張します。」
「恒星エネルギーは確かに重要な課題です。」
「ですよね、そのため・」
「ですが、無空間は必要ですか?」
「ぐっ・・、無空間でも実験できます。」
「無空間を必要としているグループを排除してでも必要だと?」
「いえ、そういう意味でなく、種の起源より重要性があります。」
「カイリさん、恒星エネルギーの方がよろしいですか?」
「宇宙創成の実験と恒星エネルギーの共存はできません。」
「いや、できるでしょう? 創生した恒星にすこし手を加えさせて・」
「馬鹿にしてますか?私を。」
「いえ、そんな、カイリさんを馬鹿になんて・・」
「宇宙創生は、創生の課程と影響を調べるんですよ?」
「はい、ですから・・」
「よく聞きなさい!」
「あ、・・済みません・・」
「創生した宇宙で自然発生した恒星に手を加えてどうすんですか!」
「でも・・」
「馬鹿ですか、あなたは。創生した宇宙のありのままの研究ですよ!」
「あ・」
「副議長、以上です。」
「待って下さい! 種の起源も同じでしょう!」
「どうしてですか?」
「種を発生させ、宇宙開発をしたら宇宙の創生が崩れます。」
「はぃ? どうしてですか?」
「種が知恵を得て、宇宙開発を始めたら創生に影響を与えます。」
「それがどうかしましたか?」
「創生をテーマにしているのに破壊要素が入るんですよ!」
「宇宙が創生されれば生命が産まれますよ。」
「うっ!・・しかし・・」
「産まれた生命が宇宙に飛び出すのもまた自然です。」
「・・・」
「その生命が宇宙に干渉するのもまた創生の一連です。」
「でしたら恒星エネ・」
「惑星に私達が手を加えるのは創生ではなくなります。」
「・・・」
「以上です。副議長。」
「では、他にご意見は?」
・・・・
「無いようですね、では、次の議題に移ります。」
:
:
まあ、このような感じで無事に私の研究が無事にできることとなった。
会議が終わり、席を立つとリードが凄い形相で睨みつけながら横を通っていった。
そのとき、わざとだろう肩があたる。
ふ~・・と、ため息をつく。
カイリが話しかけてきた。
「よお!」
「お、カイリ、ありがとう。」
「何がだ?」
「いや、種の起源をフォローしてくれて。」
「んなの理の通りじゃん。当たり前のことを言っただけだ。」
「まあ、そうなんだけどさ・・」
「あいつのことは気にすんな、それにしても酷いな。」
「・・・、なんで何だろうね。」
「さあね、知りたくもないよ。」
「だよね・・」
「さて、すこし打ち合わせをしよう!」
「うん。」
「おい! テット!」
「なんだい、カイリ?」
「宇宙の終焉は、まだ先の話だから、話し合いは、まだいいだろう?」
「ああ、当面はいいや。」
「じゃあ、オルリと話してくるよ。」
「わかった。結果だけ教えてくれ。」
「あいよ、じゃあな。」
こうして無空間での実験をすることとなった。
===================
カイリ
===================
無空間使用が決まってから、私は多忙となった。
そして、無空間の実験装置の用意が整った実験初日。
無空間のスペックを確認する。
温度 絶対0度 (-273°k)
空間物質 0%
真空度 100%
範囲 1000光年
よし、問題ない。
この実験のために作った宇宙創生のための種を手にとる。
苦労したぜ、この種には。
錬金術のやつに種の中身の作成を頼んだのがいけなかった。
あいつには、手を貸す条件として、だいぶ奢らされた。
まあ、その代わり必要要素はすべて入ったから、さすが奴だけのことはあった。
種のプログラムは自分で行った。
本当にたいへんだったよ。状態変化とパラメータ調整が・・・
まあ、おかげで数十年、休憩をとれなかったけどね。
さあ、この種を置こう。
種を無空間の装置に置こうと左手を突っ込む。
あっ! いけね、種をもっているのは右手だった。
あわてて左手を引っこ抜く。
かわりに右手を突っ込み、無空間の真ん中あたりに種を置く。
よし、実験開始だ。
種が置かれた状態で無空間の状態を確認する。
温度 絶対0度 (-273°k)
空間物質 種のみ
真空度 100%
範囲 1000光年
よし、問題ない。
種の起動、開始。
発動まで、3・・、2・・、1・・、0!
よし、発動。
問題なし。
空間物質の広がり状況は・・・よし、想定内。
どうだ~・・・空間物質は規定内で広がるのを制御できるか~・・・
よし、等速度運動に切り替わった。
じゃあ、次はこれを持って・・・
よっと、右手に持ったし、無空間に入れてと、一滴を、ほいっ!と。
よし、成功。
どれどれ、おお~!!いいじゃん。いいじゃん。
俺って天才だ!
うん、ダークマターもうまい具合だよ。
とりあえず、ここまでは順調だね。
では、星団の生成を記録しますか。
===================
オルリ
===================
カイリは、そろそろ安定した惑星ができ、星団も安定していると言っていたけど・・
自分の研究室で机に向って、頬杖をついてカイリの状況を整理する。
カイリも不眠不休で頑張っていたよな・・・
俺も人のことは言えんけどさ・・
やっと今できた生物の種を、やり遂げた高揚感と安堵で見る。
本当、苦労したよ・・
惑星の生物育成のための改造要素の作成。
カイリの研究に影響を及ぼさないように惑星の軌道や、他の近接惑星へ変化が無いような措置、
生命発生のためのガス、液体、および生命発生装置・・・
ほんと、自分を褒めちゃうよ。
それを各銀河に1つ、ないし数個用意すんだもん、大変だよ。
それも異なった環境にしてさ・・・
今日は帰ろうかな・・・
と、思っていたらドアがノックされた、と、思った瞬間、
ドアをあけると同時にカイリが顔を出す。
「お待ち~!! できたぞ!」
「えええ~、これから帰ろうとしていたのに・・」
「じゃあ、帰る?」
「いや! 誰が帰るか!」
「だろ?」
「・・いや、なんだ、ありがとう。」
「おうよ、どう致しました。」
「何それ。」
「だって、お礼を言われてあたりまえだろう? だから、どう致しました、だよ?」
「・・・・」
「じゃ、俺、帰るから、頑張れよ。」
「おお、サンキュウ!」
「だれが産休じゃ!」
「・・なあ、疲れているから、これ以上は・・」
「あははははは、じゃあな。お先。」
「おお・・」
本当に台風なような奴だ。
でも、本当に気持ちいい奴だ。
さてと、助手に手伝ってもらおう。
「キルス! 手伝ってくれ!」
「ええええ、帰っちゃだめ?」
「当たり前だろう?」
「彼女と待ち合わせが・・」
「ふ~ん、で、名前は?」
「え? あ、名前? 名前ね~・・」
「何考えてんだよ! 嘘いってんじゃないよ!」
「・・ばれちゃったか。」
「あたりまえだろう? お前に彼女ができるなら、俺にも出来ている。」
「なんですか、それは? どういう公式ですか?」
「俺が公式だ。文句ある?」
「・・ありません。」
「よし、無空間のある部屋に行くぞ! これを持ってくれ。」
「は~い。」
私は不器用である。
小さな惑星に、作った種(ナノマシン入り)を注入するなんてできない。
助手のキルスにお願いするしかないのだ。
頼んだぞ、キルス、と、心で感謝する。
===================
キルス
===================
はあ~・・オルリさん、人使いが荒いんだよね~・・
まあ、性格はいいんだよ、すごく。
それに尊敬もしているし、大好きな人だ。
ただ、あまりにもカイリさんと仲が良すぎて焼けちゃうけどさ。
どうしようかな、成人の義を迎えたら、女性になろうかな?
そしたらオルリさんと・・・くっ! いいな、それも。
でも、男性としてオルリさんといるのもいいな~・・悩んじゃう。
まあ、いいや成人の義まで時間もあるし、ゆっくりと考えよう。
でも、オルリさん、不器用すぎ。
頭はいいし、気も利くのにさ・・・
惑星にナノマシン(種)を打ち込めないんだよね・・
惑星の表面にナノマシンを打ち込むだけなのに、
惑星に針を刺しすぎて、惑星に穴を空けちゃうか、
惑星に針を刺したと思ってナノマシンを注入したら、ナノマシンが惑星から飛び出すし、
本当にオルリさん、不器用なんだから・・・
そうこう考えて歩いているうちに無空間装置の部屋についた。
部屋に入り、無空間装置が稼働しているのを確かめる。
さて、それでは無空間装置と向き合いますか・・・
「オルリさん、どの惑星にしますか?」
「え~っとね・・・」
そう言ってオルリさんは、私の真横にくる。
うわっ、近いよ顔が・・・
まあ、のぞき窓が狭いから仕方ないんだけどさ・・
でも、整った顔がさ、目の前にくるとさ・・
えへっ、幸せ、かも・・
オルリさんは、右手を無空間にいれ光学ポインタで惑星を指す。
「これにして」
「はい!」
「ん?」
「え、何か?」
「顔、赤いよ?」
「・・・あの、その」
「具合が悪いのか?」
「・・・」
「今日はやめて休もうか?」
「いえ、大丈夫です!」
研究馬鹿のオルリさんが、私のために今日はやめる?・・・
あり得ない、何かの間違いだ!
間違い・・・、え、でも、やめると言ったよね?
いや、あの、嬉しい!
嬉しいけど・・・
いや、だめだ、後で幸福感を味わおう!
今はナノマシンの注入に集中しなくてはいけないのだ!
「・・なぁ、無理はしなくていいんだよ?」
「いえ、大丈夫です!」
「・・そう?」
「これでしたね?」
「うん。」
「とりゃ!」
「おおお、お見事!」
へへっ、褒められた!
「次は、これな」
「はい、とりゃ!」
「うん、やはりキルスは凄いな。」
「え~、そんなこと有ります!」
「ははははは」
おおおお、キルスさんの笑顔を真横で見れた。
しかも、やさしい吐息が顔にかかる。
嬉しいやら、恥ずかしいやら・・・
「なあ、顔がさらに赤くなったけど?」
「えっ?・・そうですか?」
急にキルスさんが、おでこに手を当てた。
「ひゃぁいん!」と、思わず変な声が出てしまった。
「あ、すまん、すまん。熱があるかと・・」
この言葉に思わず、下を思わず向く。
「熱は無いようだが、顔が赤いんだよな・・」
「大丈夫ですよ・・」 と、小さな声で答える。
「そうか、つきあわせて悪いが、もう少しだ、お願い。」
「はい!」
元気に返事をして作業を続けるのだった。
こうして幸せな時間が過ぎていった。
===================
生命の進化
===================
そう、まだ意識といわれる物はもっていなかった。
自分が何時、何故、此処にあるのかも分からない。
海の中でプカプカと漂うことしかできない。
時々、なんか口に入ってくる。
そうするとお腹が張る。理由は分からない。
そして暫くすると、お腹がへこむ。
それの繰り替えしだった。
そして、なんとなく上には暖かく明るいものがあり、周期的に暗くなる。
何回かそれを見ていると、激痛が走り、体が二つに分かれる。
おや、と思うと、分かれた方も、おや?と、思っているような気がする。
やがて、この分裂というものを何度も繰り返し、やがて朽ち果てた。
そして分裂した仲間は莫大な数になっていた。
ある日、仲間の一つが分裂したら毛のような物を1本もっていた。
それを動かして移動している。
いいな、それ・・・
そう思っていると、そのような仲間がどんどん増えていく。
それをうらやましく思っているうちに朽ち果てた。
しばらくすると、分裂ではなく、なんか体の内部で何かが分裂して大きな生き物になるものが現れた。
このような進化と呼ばれるものが繰り替えされて、何億年たっただろうか・・
過去には恐竜と呼ばれていた巨大生物がいたが、なぜか絶滅し今はいない。
全ての生物は、残念ながら古代の進化の記憶を持ったものはいない。
そのような進化の過程で人間と呼ばれる生物が誕生した。
いや、進化と言っていいのだろうか?
過去の進化過程など覚えていないので、進化したのか分からないだけかもしれない。
まあ、進化したことにしよう。
しかし、人間から、これ以上は進化していない。
何故だろう・・・、いや、今は進化など望んでいないので興味もない。
ある日、冬に備え洞窟から出て狩りをしようとしたときだった。
目の前に透明な人間が現れた。
透明だった人間は、徐々にはっきりと見えるようになると、話しかけてきた。
私達は目の動き、顔の向き、手に持った鏃で獲物などを示すことでコミュニケーションを取っている。
なのに、この人間は頭の中に何をしたいのか訴える。
最初は、訳がわからなかった。何が起こっているのかも。
ただ、頭に、この人間が何を意図しているか明確に伝えてくる。
この人間に対し畏怖しかわかない・・・怖い。
恐ろしさに鏃を打ち込んだ。
鏃は、この人間の前で何故か止まり、そのまま地面に落ちた。
恐ろしさに、思わず跪く。
神に違いない。
持っている食料を捧げる。
しかし神は食料を受け取らず、頭の中に語りかけてきた。
この恐ろしい神は、自分はオルリだと言った。
そして私達が何時からどのように狩りを覚え、火を覚えたか聞いてきた。
老人から聞いたことを素直に話す。
それを聞くと、神は考え込んでいた。
そして、言葉、絵、文字という概念を教えてくれた。
これらを使い、日常で感動や急に生活が変化したなら文字や絵で残すように指示をした。
そして、神はまた透明になって消えた。
それからは、私達は洞窟に絵を描いて神に伝えるようにし続けた。
そして時は流れた。
アトランティスという国が勃興した。
神の名前はオルリと言った。
ただ、恐れ多いので名前を声に出すことはない。
ポセイドンという諱で呼ばせていただいている。
神は、種の起源という難しい一説を唱え、理解できない内容を言う。
よく分からないが、人間という種から別の種が産まれないことを憂いているようだ。
そのため、技術というものを与えて下さった。
なんでも脳に変化を及ぼすと、種の亜種が発生するとか・・・
そのため農業と、航海技術、医術というものを教えてくださった。
これら技術の基礎的なことを私達が理解すると、神は消えた。
空の世界から見守るとおっしゃって消えた。
私達は、これらの技術を応用し、さらに高度な文明を築いていった。
そして、愚かにも内紛を起こし大陸ごと消える末路をたどった。
それから時が過ぎた・・・
今は20世紀と呼ばれている。
人間は自分達が生み出す技術に酔いしれ、人間間の争いをしている。
一部の人間により貧富の差を作り、一部の人間が裕福に暮らしている。
===================
宇宙の終焉
===================
テットは、カイルとオルリから研究はもう少しで終わると報告を受けた。
とはいえ、テットが宇宙の終焉を実験し観察するには、まだ早い。
自分の研究は佳境に入っていないので比較的暇だった。
そのため、オルリから聞いた実験惑星に興味を持ち来てみた。
降りた惑星は、そこの生物によると地球と呼んでいた。
オルリによると、ここの生物は宗教なる思想を生みだしたらしい。
そして、人間という生物がこの星を支配しているようだ。
テットは、アメリカという場所にいた。
別にアメリカという国に降りたかったのではない。
たまたま降りたらアメリカだった。
そして、その地を俯瞰して見ていたら変わった人間がいた。
建物の中で黒ずくめで何かをしている。
どうやら秘密結社とかいうもので悪魔崇拝をしているらしい。
悪魔って何だ? 言っている意味はわからない。
興味を引かれその儀式を見ていた。
実験生物(人間)からテットは見えないし触れない。
テットとしても実験生物に接触する気はない。
接触したらオルリに怒られるからである。
儀式を見ていて、テットは呆れた。
人類が悪魔によって壊滅的な状態になることを、人類は望んでいるのだろうか?
そして、悪魔なるものが世界を支配するのが希望なのだろうか?
その時に、ここにいる人間だけが悪魔と共存できると信じている・・・?
それを終末の世界と言っているようだが・・
うん、よく分からん・・・
まあ、私の実験が始まれば、確かにこの空間に終末が来ることは間違いない。
しかし、悪魔なんて終末に支配しないし、終末は全てが無に帰るだけなんだが・・
ただ、終末になるのは人間からみるとだいぶ先だ。
それにしても、ここの文明はどうなっているのだろうか?
カイルが生成したこの惑星は地下資源が豊富だったはずだ。
そしてオルリは古代の生物が作った油も十分にあると言っていた。
それならとっくに宇宙に出ているはずなんだけど、と首をかしげる。
十分な資源があったのに、無為に資源を消費しているだけである。
これでは、この惑星から出ることが出来なくなる。
まあ、この惑星に他の惑星の生物が入り込んで操作していることもあるが・・・
それにしても、これらに気がつかず何も考えていないで生きている生物も珍しい。
他の惑星から来た生物に気がつきもせずに、こき使われているのも納得できる、か・・。
ここの文明で、興味を引いたのは、神なる宗教だ。
まあ、過去にオルリが調査に赴き、人間から神として認識されたようだ。
それがギリシャ神話や、キリスト教、仏教などに受け継がれ神格化しているらしい。
自分達は確かに、この惑星を作成したから神と言えるだろう。
でも、人間達に願い事を言われても聞く気もないし、かなえる謂われも無い。
ましてやキリスト教のように勝手に契約をしたようなことを言われても困る。
不思議な生き物だと思う。
ただ、その宗教の中で面白いいものがあった。
なんでも日本で昔多く信仰されていた神道は、万物に神が宿るというものだ。
土地は神様のもので、人は神の土地を借りるもの。だから地鎮祭などを行うらしい。
水には水の神がいて、人には畏怖の対象であり恵みもすれば奪いもする。
同じように、そこかしこに神がいて、萬の神というらしい。
そういう宗教があったのに、今では神をないがしろにする。
山を力ずくで崩し、川を汚染し、護岸工事などで自然を壊す。
そのくせ、神には自分の願望をお願いをするだけだ。
面白い生物である。
ただ、不思議なのは生物間同士で会話ができない。
人間と猫、ライオンとカバなど、会話ができないのだ。
他の惑星ではできているというのに。
まあ、このあたりはオルリが調査をし報告書にあったが理由に興味はない。
ただ、出来るか出来ないかだけだろうに。
そういうとオルリは怒るだろうな・・・
それからオルリが首をかしげていたのは人間に進化が見られないことだ。
オルリ曰く、すでに人間から進化した生物が現れていけなければおかしいらしい。
オルリと言えば・・・
そうだ、オルリを目の敵にしているリードの件はどうなったのだろうか?
前の会議で却下されたはずなのに、最近またリードがしつこくカイルに媚びを売っていた。
なんでも、この無空間の1つで恒星エネルギーの短期回収実験をやらせてくれと。
1個くらい恒星がおかしくなり1つの銀河が崩壊してもいいじゃないかと食い下がっていたな・・
その実験は太陽という名の恒星を短期回収のターゲットにしたいと。
これを行うと地球がある太陽系とかいう小集団は壊滅するそうだ。
まあ、たいした規模じゃないから、カイルがどう判断するかだな。
うるさいリードを黙らせるため、貸しとして同意するか、
それともオルリの関与した惑星なので、当初通り却下するかだ・・・
まあ、もしリードの実験を許したら地球の生物は全滅する。
地球にとっては、はた迷惑なリードということになる。
地球でいう悪魔に相当するのかな。
まあ、リードは、崇拝されても人間を助けないだろうな。
そういう意味では、悪魔信仰をした人は残念な生物だね。
さてさて、そろそろ実験室に戻って、宇宙の終焉実験の準備に戻ろうか。
そういうと、テットは透明になっていき、やがて消えた。
ビールを飲みながら、ツマミのアーモンドを食べていて、ふと思いました。
これを植えたらアーモンドってなるのかな?
まあ、なるわけ無いんですけどね、火を通して塩が降ってあるんですから・・
(^_^;;
そのときに、ビックバンは何もない空間で突如爆発が起こったという記事を思い出しました。
ある科学者によると真空には何も無いわけでは無く、突如、真空に産まれてくるとか・・。
う~ん・・分からないな~、なんで? と、思った記憶がよみがえりました。
宇宙を作る種を神様が蒔いてもいいじゃん、と、思い立ち、うん、アーモンドでいいんじゃ?と。
まあ、そんな軽い発想で書いてみました。
おつきあい、ありがとう御座いました。